録音だと声が響かない理由|共鳴をマイクに残す歌い方と距離

録音だと声が響かない理由|共鳴をマイクに残す歌い方と距離

※記事内で紹介している商品の価格・在庫状況は変動します。最新の情報は各リンク先(Amazon・楽天市場)でご確認ください。


歌っているときは、ちゃんと響いている感じがする。胸も顔も震えているし、気持ちよく声が出ている。なのに録った音を聴くと、妙に薄くて、平たくて、他人の声みたいに素っ気ない。宅録で歌っている人がほぼ全員ぶつかる壁です。

結論から書きます。これは録音機材が悪いからでも、あなたの共鳴が間違っているからでもありません。自分の耳に届く声と、マイクが拾う声は、そもそも通り道が違うからです。自分の耳には骨を伝わった分が上乗せされていて、その上乗せ分はマイクには一切入りません。

この記事では、その差を前提にしたうえで「マイクに残る響きをどう作るか」を扱います。録音した自分の声への違和感そのものへの向き合い方は録音した自分の声が気持ち悪い・嫌いなのはなぜ?理由と慣れる方法【歌い手志望向け】にまとめてありますので、そちらもあわせてどうぞ。

自分の耳の声と録音の声は、通り道が違う

人が自分の声を聞くとき、音は2つの経路で耳に届くと言われています。

経路伝わり方マイクに入るか
気導音口から出た音が空気を通って鼓膜へ入る
骨導音声帯の振動が頭蓋骨を伝わって内耳へ入らない

普段聞いている「自分の声」は、この2つが混ざったものです。ところがマイクが拾えるのは気導音だけ。録音には、骨導音の分がまるごと欠けていることになります。

骨を伝わる音は低い成分を強く伝えるとされていて、そのため自分の耳には声が実際より低く、太く、豊かに聞こえます。録音を聴いて「薄い」「軽い」と感じるのは、この上乗せ分が消えたからです。

ここを押さえておくと、判断が変わります。録音で薄く聞こえること自体は異常ではありません。 問題は、その前提を知らないまま「もっと響かせよう」と力んで、かえって喉を締めてしまうことです。

「自分に聞こえる響き」は基準にならない

だから練習の基準も変える必要があります。歌っている最中の体感で「響いた」と判定していると、録音との差はいつまでも埋まりません。共鳴ができているかどうかの判定材料については共鳴できているか確かめる方法|響いている声のセルフチェックで3つのチェック方法を扱っていますが、そのなかでいちばん確実なのが録音です。

骨伝導で盛られている成分・録音で消える成分

もう少し具体的に、何が消えて何が残るのかを整理します。

要素自分の耳録音
低めの太さ・厚み骨導で強く感じるかなり減る
胸の振動感体感として大きいほぼ残らない
鼻から上の明るい響き感じにくいこともわりと残る
子音のはっきりさ意識しにくいそのまま残る
声の芯(まとまり)分かりにくいはっきり出る

この表から言えることがひとつあります。体感として大きい成分ほど録音に残らず、体感しにくい成分ほど録音に残るという、ねじれた関係になっているのです。

胸腔共鳴の「胸が震える感じ」は、まさに骨導で感じている部分が大きいと言われます。だから胸の振動を頼りに歌うと、本人は厚みを出しているつもりでも、録音では変化が小さいことがあります。逆に、鼻の奥や顔の前側に集めた響きは、体感としては地味なのに録音ではしっかり違いが出ます。

共鳴腔の仕組みそのものを先に整理したい方は共鳴腔とは?声が響く仕組みと3つの共鳴腔【ボイトレ基礎】をどうぞ。

「響かせているつもり」が録音に残らない3パターン

録音で響きが薄くなるとき、原因はだいたい次の3つに分かれます。どれに当てはまるかで、やるべきことが変わります。

パターンA:喉の奥だけで響かせている

喉を広げて「オー」と奥で鳴らすと、本人には重厚に聞こえます。ところがこの鳴らし方は骨導で強く感じる成分が中心で、マイクにはこもった音として届きがちです。録音を聴くと、太いというより「くぐもっている」印象になります。

見分け方は、録音を小さい音量で再生してみることです。音量を下げると輪郭が消えて何を歌っているか分からなくなるなら、このパターンの可能性があります。

パターンB:息が多くて芯が足りない

ふわっと柔らかく歌うと、自分の耳には空気感のある響きに聞こえます。しかし録音では、息の成分が増えた分だけ音が痩せて聞こえることがあります。響きは音の材料がないと作れません。材料になるのは、声帯がきちんと合わさって出た芯のある音だと言われています。

パターンC:音量で解決しようとしている

いちばん多いのがこれです。響かないから大きく歌う。ところが録音で伝わるのは音量ではなく情報量です。ここは「マイクに乗る声」の作り方|声量が大きい≠マイク映えの理由と宅録で音圧を出す歌い方で詳しく扱っています。大声で押すと喉が締まり、むしろ倍音が減って平たくなることさえあります。

マイクに響きが乗る歌い方

では何をすればいいのか。方向性はひとつです。体感の大きさではなく、音の成分の多さを増やす。具体的には次の順番で試してください。

順やること録音での変化
1響きを顔の前側に集める明るさ・抜けが出る
2声の芯を作る(息を絞る)輪郭がはっきりする
3口の奥を広げたまま前へ出すこもらずに厚みが出る
4子音をはっきり置く言葉が立つ

1の「前側に集める」がいちばん効きます。ハミングで鼻の奥から眉間のあたりがムズムズする感覚を作り、その位置を保ったまま口を開けて母音に渡す——という手順がよく使われます。この鳴り方は体感としては物足りないのですが、録音では明らかに変化が出ます。

2の「芯」は、息を強くするのではなく息の量を減らして密度を上げる方向です。試しに、同じフレーズを「息多めのやさしい声」と「息を抑えてまっすぐ出した声」で録り比べてみてください。後者のほうが、聴き返したときに前に出てきます。

3の「奥を広げたまま前へ」は、AとBの折衷にあたります。喉の奥だけを広げるとこもり、前だけを意識すると細くなる。あくびをしかけたときの奥の広さを保ったまま、響きの行き先だけを前に置く——という感覚表現がよく使われます。うまくいくと、録音で「太いのに言葉が聞き取れる」状態になります。

4の子音は地味ですが、録音では効果が大きい項目です。母音の響きだけを磨いても、子音がぼやけていると言葉が流れてしまいます。フレーズの頭の子音を、母音より少し早めに置くくらいの意識で録ってみてください。

マイク距離と角度で、響きの聞こえ方は変わる

発声だけの問題ではありません。マイクとの位置関係で、録れる響きはかなり変わります。

距離録れ方の傾向
近い(10cm以下)低音が増えて太くなる。息やリップノイズも増える
標準(握りこぶし1個ほど)バランスが取りやすい。多くの場面での出発点
遠い(30cm以上)低音が減って薄くなる。部屋の反射も混ざる

「録音が薄い」と感じているとき、単純にマイクから遠いだけということが実際よくあります。まずは握りこぶし1個分あたりを基準にして、そこから前後に動かして録り比べてください。

角度も効きます。マイクに真正面から息を吹き込むと吹かれやすく、歯擦音も刺さりがちです。口の正面からわずかに外すと、耳あたりが落ち着くことがあります。距離と音量の関係は歌ってみた録音での声量コントロール|マイク距離と強弱の付け方にまとめてあります。

リバーブで足すのと、発声で作るのは別の話

ここで混同されやすいのがリバーブです。MIXでリバーブをかければ「響いた」感じにはなります。ただしリバーブが足すのは空間の残響であって、声そのものの成分ではありません。

材料が薄い声にリバーブを深くかけると、輪郭がぼやけて奥に引っ込むだけになりがちです。芯のある声に薄くかけたときにいちばん効く——という順番を覚えておくと、MIXでの迷いが減ります。

録音→聴き比べで響きを詰める手順

最後に、実際の詰め方です。1回で完成させようとせず、比較で詰めていきます。

手順内容
1短いフレーズ(4〜8小節)を決める
2いつもどおりに1回録る(基準)
3条件を1つだけ変えて録る
42つを続けて再生して比べる
5よかったほうを新しい基準にする

ポイントは3の「1つだけ変える」です。響きの位置とマイク距離を同時に変えると、どちらが効いたのか分からなくなります。面倒でも1回に1項目です。

聴き比べのときのコツも2つ。ひとつはスピーカーから少し離れて聴くこと。近くで聴くと細部に気を取られますが、離れると「どちらが前に出てくるか」が分かりやすくなります。もうひとつは伴奏と重ねて聴くこと。ソロでは太く聞こえても、オケに乗せると埋もれる声があります。最終的に必要なのは、オケの中で立つ響きです。

録音レベルが極端だと比較そのものが成立しないので、歌ってみたの録音レベル(ゲイン)設定|音割れ・小さすぎを防ぐ合わせ方も先に確認しておくと確実です。

まとめ

自分の耳の声は骨導の分だけ盛られていて、録音にはそれが入らない。だから「響かせているつもり」は当てになりません。頼りにするのは録音です。

やることは、響きを顔の前側へ、息を絞って芯を作り、マイク距離を詰める。そして1項目ずつ変えながら録り比べる。体感の気持ちよさを一度脇に置くと、録れる声は変わってきます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です