結論から書きます。和風・和テイストのボカロ曲を歌ってみたで扱うとき、仕上がりを左右するのは高い音が出るかどうかよりも、言葉をどこで切って、どこを伸ばすかです。和楽器の音色や着物のイラストは曲の側が用意してくれますが、歌い手が足せるのは語尾の処理と間の取り方だけ。ここを詰めると、特別な技を使わなくても「和風の曲を歌っている」と伝わります。
逆に、和風というだけでこぶしを回したり、語尾を全部ビブラートで伸ばしたりすると、曲の輪郭がぼやけます。和風ボカロ曲は歌詞の文字数が多いものが多く、装飾を足すほど言葉が届かなくなるという関係にあるためです。まず言葉を立てて、余った場所にだけ装飾を置く、という順番で組み立てるのが扱いやすい考え方です。
この記事では、和テイストのボカロ曲を12曲紹介します。曲名・作者(ボカロP)・公開年は一曲ずつ確認できたものだけを載せ、確認が取れなかった曲は外しました。あわせて、歌ってみたで録るときに詰まりやすいポイントをタイプ別にまとめます。
和風ボカロ曲は「和楽器が鳴っているか」では分けられない
和風ボカロ曲と呼ばれる曲を並べてみると、尺八や三味線の音が前に出ている曲もあれば、音色はバンドサウンドのままで歌詞と言い回しだけが和風という曲もあります。つまり、和風かどうかは編曲だけでは決まりません。歌い手の立場で意味があるのは、「歌詞の文字数が多いか」「音を伸ばす場所が長いか」という2点です。
文字数が多い曲は、息の配分と滑舌の勝負になります。伸ばす場所が長い曲は、伸ばしている間の音の揺れ方が全部聞こえてしまうので、ロングトーンの安定が課題になります。同じ「和風」でも、練習する場所がまったく違うわけです。
そこでこの記事では、12曲を「疾走・和ロック系」「しっとり聴かせる情念系」「妖しい世界観で聴かせる系」の3タイプに分けました。自分が今どちらを伸ばしたいかで選ぶと、練習と選曲がつながります。曲そのものの高さが自分に合うかどうかは、曲の音域の調べ方の手順で先に確認しておくと、録り始めてから「届かない」と気づく事態を避けられます。
疾走・和ロック系の5曲【言葉を立てる】
テンポが速く、和のメロディとロックのリズムが混ざっているタイプです。言葉が詰まっている箇所が多いので、子音をはっきり置くことと、息継ぎの場所を先に決めることが最優先になります。
千本桜 / 黒うさP(2011年)
大正ロマン風の世界観で知られる、和風ボカロ曲の入口になりやすい一曲です。ボーカルは初音ミク。テンポが速く、Aメロから歌詞が詰まっているため、勢いだけで歌い始めると途中で息が続かなくなります。サビに入る前のどこでまとめて吸うかを、譜面ではなく自分の呼吸で決めておくのが現実的です。
天樂 / ゆうゆ(2009年)
鏡音リンが歌う、和のフレーズとロックが噛み合った曲です。速いパッセージが続く一方で、フレーズの終わりには音を伸ばす場所があり、走ったまま突っ込むと伸ばしの音程が揺れます。速い部分と伸ばす部分で体の力の入れ方を切り替える意識を持つと、後半が安定しやすくなります。
六兆年と一夜物語 / kemu(2012年)
IAが歌う、KEMU VOXX名義の作品のひとつ。物語性の強い歌詞と速いテンポが同居しており、言葉を全部拾おうとすると口が回らず、逆に流すと何を歌っているのか伝わらなくなります。フレーズごとに「ここは立てる」「ここは流す」と強弱の設計をしてから録ると、詰め込み感が整理されます。詰め込みフレーズそのものの練習は早口の曲を歌うコツが近い内容です。
威風堂々 / 梅とら(2013年)
巡音ルカ・初音ミク・GUMI・IA・鏡音リンによる複数ボーカルの曲で、四字熟語をタイトルにしたシリーズの一作です。パートが切り替わるたびに声色の想定が変わるため、ひとりで歌う場合はどのパートを誰の声として演じるかを決めておくと散らかりません。全部を同じ声で通すより、芯の太さを少しずつ変えるほうが原曲の掛け合い感に近づきます。
神のまにまに / れるりり(2014年)
初音ミク・鏡音リン・GUMIが歌う、日本の神話をモチーフにした曲です。祭囃子のようなリズムに合わせて言葉が跳ねるので、拍の頭にきっちり乗せるより、リズムの跳ね方に言葉を預ける感覚のほうが合います。メトロノームに正確に乗せる練習だけをしていると硬くなりやすいタイプです。
しっとり聴かせる情念系の4曲【余韻の置き方】
テンポが落ち着いていて、一音ずつ聴かせるタイプです。ごまかしが効かない代わりに、息の量をコントロールできれば表現の幅が出ます。録音では、吸う音が目立ちやすいので処理も含めて計画しておくと仕上がりが変わります。
紅一葉 / 黒うさP(2008年)
秋の情景を描いた和風のバラードで、初音ミク版が先に発表され、後に巡音ルカ版も公開されています。音数が少ないぶん、伸ばしている間の音程のブレがそのまま聞こえます。ビブラートをかけるかどうかを決める前に、まっすぐ伸ばした状態で安定するかを確かめておくのが順番として先です。
紡唄 -つむぎうた- / DATEKEN(2009年)
鏡音リン・レンが歌う、郷愁のある旋律の曲です。二人のボーカルが重なる構成なので、ひとりで歌う場合はどちらのラインを主役にするかを決める必要があります。ハモリを自分で重ねる場合は、主旋律を完全に固めてから被せると輪郭が濁りません。
いろは唄 / 銀サク(2009年)
鏡音リンが歌う曲で、古歌の「いろは歌」のフレーズが歌詞に織り込まれています。古語まじりの言葉が続くため、意味の区切りと息継ぎの区切りが一致しているかを確認しておかないと、途中で不自然に切れます。歌詞を一度、句読点を打ち直すつもりで読み下しておくと迷いません。
吉原ラメント / 亜沙(2012年)
重音テトが歌うUTAUオリジナル曲として発表され、和風の代表曲としてよく挙げられる一曲です(作曲は亜沙、作詞は小山乃舞世)。遊女を題材にした重い内容で、声を張り上げるより息を混ぜて抑えたほうが世界観に合います。抑えた歌い方はブレスの音が目立ちやすいので、息継ぎ・ブレスのコツで吸い方を整えてから録ると扱いやすくなります。
妖しい世界観で聴かせる3曲【キャラクターの作り方】
不穏さや執着を描いたタイプで、技術よりも声のキャラクター設定が効きます。自分の地声のまま歌うか、少し作った声で歌うかを最初に決めてから録るのがおすすめです。
結ンデ開イテ羅刹ト骸 / ハチ(2009年)
初音ミクが歌う、わらべうたを下敷きにしたような不穏な曲です。素直にきれいに歌うほど曲の質感から離れていくタイプなので、わざと平坦に、感情を乗せすぎずに置く選択肢も検討する価値があります。抑揚をつけない歌い方は難しく聞こえませんが、実際には一定に保つ制御が必要です。
懺悔参り / 羽生まゐご(2018年)
v flowerが歌う、和のモチーフとホラー的な情景を組み合わせた曲です。言葉の粒がはっきりしている曲なので、滑舌が甘いと一気に雰囲気が崩れます。語尾の子音まで置き切ることを意識すると、低めの声で抑えて歌っても輪郭が残ります。
花が落ちたので、/ 一二三(2017年)
初音ミクが歌う、執着と後悔を描いた曲です。和風の旋律とバンドサウンドが混ざった構成で、静かな部分と激しい部分の落差が大きいのが特徴。静かな部分をどれだけ小さく歌えるかで、激しい部分の効果が決まります。全体を大きい声で通すと落差が消えてしまいます。
12曲の一覧【公開年・ボカロP・タイプ】
上で挙げた曲を、公開年順に並べ直した表です。選曲で迷ったときの見取り図として使ってください。
| 曲名 | ボカロP | 公開年 | タイプ |
| 紅一葉 | 黒うさP | 2008年 | 情念系 |
| いろは唄 | 銀サク | 2009年 | 情念系 |
| 紡唄 -つむぎうた- | DATEKEN | 2009年 | 情念系 |
| 天樂 | ゆうゆ | 2009年 | 疾走・和ロック |
| 結ンデ開イテ羅刹ト骸 | ハチ | 2009年 | 妖しい世界観 |
| 千本桜 | 黒うさP | 2011年 | 疾走・和ロック |
| 吉原ラメント | 亜沙 | 2012年 | 情念系 |
| 六兆年と一夜物語 | kemu | 2012年 | 疾走・和ロック |
| 威風堂々 | 梅とら | 2013年 | 疾走・和ロック |
| 神のまにまに | れるりり | 2014年 | 疾走・和ロック |
| 花が落ちたので、 | 一二三 | 2017年 | 妖しい世界観 |
| 懺悔参り | 羽生まゐご | 2018年 | 妖しい世界観 |
なお、ボーカルに使われている音声合成ソフトは曲によって異なります。吉原ラメントはUTAUの重音テト、懺悔参りはv flowerというように、初音ミク以外のボーカルも多く使われています。カバー動画を出すときの表記に迷ったら、原曲の概要欄の表記に合わせるのが無難です。
こぶしを入れすぎないためのバランスの取り方
和風の曲を歌うとき、こぶし(音を一瞬しゃくり上げて戻す装飾)を入れたくなる場面が増えます。ただ、入れる場所を決めずに感覚で入れると、フレーズごとに揺れ幅が変わって不揃いに聞こえます。扱いやすいのは、1フレーズにつき装飾は1か所までと上限を決めて録ってみる方法です。
上限を決めて一度通して録ると、「ここには欲しかった」という場所が自分で分かります。その場所にだけ後から足していけば、入れすぎることはまずありません。逆に最初から全部に入れると、どれを削るかの判断が難しくなります。
もうひとつ効くのが、装飾ではなく語尾の長さを変えるやり方です。同じ音程でも、切るか、少し伸ばすか、息だけ残すかで和の質感は大きく変わります。こぶしが苦手な人ほど、語尾の3種類の使い分けから入るほうが結果が出やすい印象です。
まとめ:和風は「装飾」より「間」で作る
和風ボカロ曲は、特殊な発声を覚えないと歌えないジャンルではありません。今回挙げた12曲も、求められているのは言葉を立てることと、伸ばす場所で音を安定させること、そして間を置くことの3つに整理できます。
選ぶときは、疾走系なら息継ぎの設計、情念系ならロングトーンの安定、妖しい系なら声のキャラクター設定、と練習の入口が違うことを意識してください。どのタイプから始めるか迷ったら、いま自分が課題だと感じている側から選ぶと、1曲仕上げる過程がそのまま練習になります。
和風以外の切り口で探したい場合は、バンド・ロック系のボカロ曲やバラード・スローテンポのボカロ曲もあわせて見てみてください。曲選び全体の考え方は歌ってみたの選曲のコツにまとめています。



















