結論から書きます。ラップパートが入っているボカロ曲を歌ってみたで選ぶときは、「ラップがどれくらいの長さで、曲のどこに入っているか」で選ぶのが失敗しにくい方法です。同じ「ラップ入り」でも、8小節だけ挟まる曲と、曲全体の半分以上がラップの曲では、必要な準備がまったく違います。
最初から曲の芯がラップの曲を選ぶと、覚える量が多すぎて完成しません。逆に、短いパートが1か所だけの曲なら、そこを重点的に詰めればカバー動画として形になります。まずは自分がどの段階にいるかを決めて、そこに合う曲から入るのが近道です。
この記事では、ラップパートが入っているボカロ曲を12曲、入り方の段階別に紹介します。曲名・作者(ボカロP)・公開年は一曲ずつ確認できたものだけを掲載しました。歌い方そのもののコツは扱いません。フロウ・滑舌・ブレスの具体的な練習法はラップパートの歌い方にまとめてあるので、そちらとあわせて読んでください。
ボカロ曲のラップパートは「入り方」で難易度が変わる
ボカロ曲のラップパートには、大きく分けて3つの入り方があります。ひとつは、サビ前やCメロに短く挟まるタイプ。ふたつめは、Aメロ・Bメロがまるごとラップで、サビだけメロディに戻るタイプ。みっつめは、曲全体が高速のフロウで構成されているタイプです。
短く挟まるタイプは、その数小節だけを繰り返し練習すれば通せます。曲の芯がラップのタイプは、メロディとラップの切り替えを何度も行き来するぶん、声の置き方を2種類用意しておく必要があります。高速フロウのタイプは、覚える文字数そのものが多く、暗記の段階で時間がかかります。
この記事の12曲も、この3段階に分けて並べました。上から順に難易度が上がるわけではありませんが、練習に必要な時間はおおむね下にいくほど増えます。
まずはここから:ラップパートが短めの4曲
曲の大部分は通常のメロディで、特定の箇所にラップ調のセクションが入るタイプです。そのパートだけを取り出して練習できるので、初めてラップ入りの曲に挑戦するときに扱いやすい構成です。
脳漿炸裂ガール / れるりり(2012年)
初音ミクとGUMIが歌う、まくし立てる言葉の応酬で知られる一曲。畳みかけるセクションが山場になっており、テンポに対して言葉が明らかに多い構成です。歌詞を全部覚えてから速度を上げるのではなく、ゆっくりの速度で一度通して口が回る形を作ってからテンポを戻すほうが、結果的に早く仕上がります。
ビバハピ / Mitchie M(2013年)
初音ミクが歌う曲で、ラップとしゃべりを織り交ぜた調声が話題になった作品です。曲調が明るいので、ラップ部分も力まず軽く置くほうが合います。声を低く作りすぎると曲全体のテンションから浮くので、普段の話し声に近い高さを起点にするのが自然です。
夜咄ディセイブ / じん(自然の敵P)(2013年)
IAが歌う、カゲロウプロジェクトの一曲。早口でまくし立てるラップ調のセクションが中盤に入ります。前後のメロディ部分は比較的ゆったりしているため、ここだけ息が持たないという状態になりがちです。セクションに入る直前でまとめて吸う場所を確保しておくと通しやすくなります。
ダンスロボットダンス / ナユタン星人(2016年)
初音ミクが歌う、スマートフォンゲームのテーマソングとして制作された曲です。速いパッセージで言葉を詰め込むセクションがあり、母音がつながって聞こえやすいのが難所。子音を立てるだけで聞き取りやすさが変わるタイプなので、滑舌の詰め方は滑舌を改善する方法が参考になります。
曲の芯がラップになっている4曲
Aメロ・Bメロがまるごとラップで、サビでメロディに戻る構成のタイプです。ラップとメロディの行き来が頻繁なので、切り替えのたびに声の置き方が変わらないよう整えるのがポイントになります。
劣等上等 / Giga(2018年)
鏡音リン・レンが歌う曲で、作曲はGiga、作詞はReol(れをる)。マジカルミライ2018のテーマソングとして制作されました。ラップ的なアプローチとメロディが交互に来る構成で、リンとレンの掛け合いをひとりで歌い分けるのが最大の課題になります。二人分を同じ声で通すより、芯の太さを変えて録り分けるほうが原曲の構造が残ります。
Gimme×Gimme / 八王子P × Giga(2019年)
初音ミクと鏡音リンが歌う、2人のボカロPによる共作です。ダンスミュージック寄りのトラックに言葉を乗せていく構成で、拍の裏に言葉が入る箇所が多くあります。拍の頭で合わせようとすると全体がもたつくので、裏拍に体を合わせる意識で入ると楽になります。リズムのヨレが気になる場合は歌が走る・もたる原因と直し方もあわせてどうぞ。
GETCHA! / Giga & KIRA(2020年)
初音ミクとGUMIが歌う、GigaとKIRAの共作曲。2人のボーカルが交互に出てくる構成で、片方はラップ寄り、もう片方はメロディ寄りという配分になっています。ソロでカバーする場合、どちらの役を主役にするかを決めてから録り始めると散らかりません。
RAD DOGS / 八王子P(2022年)
初音ミク・鏡音リン・鏡音レンが歌う、ゲーム『プロジェクトセカイ』向けに書かれた曲のボカロ版です。3人分のパートが切り替わりながら進むため、覚えるべき役が多いのが特徴。まずは1人分のラインだけを通しで歌えるようにしてから、残りを足していくと全体像が掴めます。
詰め込み・高速フロウの4曲
曲全体を通して言葉の密度が高いタイプです。暗記に時間がかかることを前提に、練習計画を長めに取っておく必要があります。挑戦する場合は、まず歌詞を見ながらテンポを落として通す時間を確保してください。
マフィア / wotaku(2020年)
初音ミクが歌う、ダークな世界観の曲です。ラップの要素を含みつつ、曲全体の雰囲気が一貫しているため、途中でテンションが揺れると違和感が出ます。最初から最後まで同じ温度で通すことが、この曲では技術的な難所よりも重要になります。
CH4NGE / Giga(2021年)
可不(CeVIO AIの音源)が歌う、Gigaによる楽曲です。ラップの要素を含んだエレクトロサウンドで、言葉の切り方が細かいのが特徴。原曲のニュアンスを完全に再現しようとするより、どこを崩さないかを決めてそこだけ揃えるほうが現実的です。
ジブラ / すりぃ(2022年)
可不と鏡音レンが歌う、すりぃによる楽曲です。すりぃはラップ寄りのアプローチを含む曲を継続的に発表しており、この曲もその流れにあります。2つのボーカルが重なる部分があるため、ソロでカバーする場合は重ねるか片方に寄せるかの判断が先に必要です。
ヘブンドープ / 煮ル果実(2022年)
v flowerが歌う曲で、煮ル果実自身によるラップパートが入っているのが特徴です。ボカロのボーカルと人の声のラップが同居する構成なので、どちらの質感に寄せて歌うかで仕上がりの印象がかなり変わります。ボカロ側に寄せると硬く、ラップ側に寄せると生っぽくなります。
12曲の一覧【公開年・ボカロP・入り方】
| 曲名 | ボカロP | 公開年 | ラップの入り方 |
| 脳漿炸裂ガール | れるりり | 2012年 | 短めのセクション |
| ビバハピ | Mitchie M | 2013年 | 短めのセクション |
| 夜咄ディセイブ | じん(自然の敵P) | 2013年 | 短めのセクション |
| ダンスロボットダンス | ナユタン星人 | 2016年 | 短めのセクション |
| 劣等上等 | Giga | 2018年 | 曲の芯がラップ |
| Gimme×Gimme | 八王子P × Giga | 2019年 | 曲の芯がラップ |
| マフィア | wotaku | 2020年 | 高速・詰め込み |
| GETCHA! | Giga & KIRA | 2020年 | 曲の芯がラップ |
| CH4NGE | Giga | 2021年 | 高速・詰め込み |
| ジブラ | すりぃ | 2022年 | 高速・詰め込み |
| ヘブンドープ | 煮ル果実 | 2022年 | 高速・詰め込み |
| RAD DOGS | 八王子P | 2022年 | 曲の芯がラップ |
並べてみると、ラップ寄りのボカロ曲を継続して発表しているボカロPが何人か見えてきます。Giga、八王子P、すりぃ、煮ル果実あたりは、ほかの曲にもラップの要素を含む作品があるので、気に入った曲があればそのボカロPの別曲をたどると好みに合う曲が見つかりやすいです。
カバーする前に確認しておきたい3つのこと
ラップ入りの曲は、通常のボカロ曲より投稿前の確認事項が増えます。録り始める前に次の3点を済ませておくと、後戻りが減ります。
ひとつめはオフボーカル音源があるかどうかです。ラップパートは原曲のボーカルが残っていると自分の声と干渉しやすく、インスト音源が手に入るかどうかで仕上がりが大きく変わります。探し方と扱いはオフボーカル音源の探し方と使い方にまとめています。
ふたつめは歌詞の暗記にかかる時間の見積もりです。高速フロウの曲は、歌詞カードを見ながらでは表情がつけられません。覚え切れる分量かどうかを、練習を始める前に一度だけ通して確認しておくと、途中で断念する事態を避けられます。
みっつめは使うボーカル音源の表記です。今回挙げた曲でも、可不はCeVIO AI、v flowerはVOCALOIDというように、使われている音源は曲ごとに異なります。動画の概要欄に曲の情報を書くときは、原曲の表記に合わせておくのが安全です。
まとめ:段階を飛ばさずに選ぶ
ラップパート入りのボカロ曲は、曲数も幅も増え続けています。そのぶん、「かっこいいから」という理由だけで選ぶと、練習量が想定を超えて完成しないことが起こりがちです。
短いセクションだけの曲で一度成功体験を作り、切り替えの多い曲で声の置き方を身につけ、そのうえで詰め込み系に進む。この順番で進めると、一曲ごとに何が身についたかが自分で分かります。今回の12曲は、その段階ごとに選べるよう並べました。
言葉の密度そのものに慣れたい場合は、ラップに限らず早口なボカロ曲から入るのも手です。フロウや滑舌の具体的な詰め方はラップパートの歌い方で扱っているので、曲を決めたらそちらに進んでください。



















