春のボカロ曲を歌ってみたいけれど、早口の曲はどうしても口が回らない。そんな理由で選曲が止まってしまう人は少なくありません。実際、春の定番として名前が挙がる曲には高速の和風ロックが多く、初めて投稿する人にはハードルが高めです。
この記事では、テンポが遅く、言葉数の少ない春のバラードだけを7曲集めました。速さで振り落とされる心配がないぶん、こういう曲は別の難しさがあります。伸ばした音の揺れ、音程のわずかなずれ、息継ぎの音。速い曲なら勢いで流れていく粗が、ゆっくりな曲では全部そのまま残ります。
そこで、曲の紹介だけで終わらせず、ロングトーンと音程の粗をどう減らすかという対策までセットで書いています。曲名・ボカロP・公開年はそれぞれ確認したうえで掲載しました。
結論早見表:春のバラード7曲
公開年の古い順に並べています。おすすめ度の順位ではありません。「いちばん気をつける箇所」は、録って聴き返したときに気になりやすいポイントです。
| 曲名 | ボカロP | 公開年 | タイプ | いちばん気をつける箇所 |
|---|---|---|---|---|
| 桜の季節 | ゆうゆ | 2007年 | 和風・静か | 語尾の処理 |
| 歌に形はないけれど | doriko | 2008年 | ピアノ寄り | ロングトーンの揺れ |
| 桜ノ雨 | halyosy | 2008年 | 王道バラード | ラストの転調 |
| 始発とカフカ | n-buna | 2015年 | 朝の空気感 | 言葉の置き方 |
| 花降らし | n-buna | 2016年 | 浮遊感 | 音程の微妙なずれ |
| 四月、君に背を向けて | 小雨 | 2022年 | 静かな別れ | 抑揚の配分 |
| 花々、春はまた廻る | オゾン | 2023年 | 再生・めぐり | サビの伸ばし |
ゆっくりな曲のほうが難しい、と言われる理由
早口の曲は、1音あたりの滞空時間が短いので、多少音程が甘くても次の音に流れていきます。ところがバラードは1音を長く伸ばすため、そのあいだずっと同じ音を保ち続けなければなりません。ここで起きるのが、主に次の3つです。
- ロングトーンの揺れ:伸ばしている途中で音が上下にふらつく。息の支えが切れかけたタイミングで出やすい。
- 音程の微妙なずれ:出だしの一瞬だけ低くて、あとから合わせにいく。速い曲では目立たないが、伸ばすと全部聞こえる。
- ブレスの目立ち:音数が少ないぶん、息を吸う音がそのまま前に出てくる。
逆にいえば、この3つに対策があれば、速い曲より完成度を上げやすいのがバラードです。テンポが遅いので、練習しても喉の消耗が少なく、何度も録り直せるという実務的なメリットもあります。
春のバラード7曲
桜の季節(ゆうゆ・2007年)
2007年に公開された、ボカロ黎明期の楽曲です。和風のメロディと、桜に別れを重ねた歌詞が特徴で、静かに進んでいくタイプの曲です。
この曲でいちばん差が出るのは、フレーズの終わり方です。和風のメロディは語尾がわずかに下がる動きを含むことが多く、そこを雑に切ると一気に平坦になります。音を切る直前まで息を通し続けて、自然に消える形にするだけで印象が変わります。声量を上げる必要はありません。
歌に形はないけれど(doriko・2008年)
2008年1月にニコニコ動画で公開された、doriko氏の代表曲のひとつ。歌うことそのものと、大切な人への気持ちを重ねた曲として長く聴かれています。
伴奏が薄い箇所が多いため、ロングトーンの安定がそのまま完成度になります。最初から通して歌うより、伸ばす音だけを抜き出して「同じ高さを4拍保つ」練習をしてから通すほうが、結果的に早くまとまります。息を吐き切る手前で音が痩せる人は、フレーズの前に吸う量を少し減らしてみてください。吸いすぎも揺れの原因になります。
桜ノ雨(halyosy・2008年)
2008年2月23日に投稿された、春のボカロ曲でもっとも名前の挙がる一曲です。合唱でも歌われてきた王道のバラードで、初めて投稿する曲として選ぶ人も多い曲です。
注意したいのは終盤です。この曲は最後に転調があり、そこで最高音が上がります。通常のサビが出せるキーに設定すると、ラストだけ届かなくなることがあります。キーを決めるときは、必ず最後まで通してから確定してください。キー設定の手順は自分に合うキーの見つけ方にまとめています。
始発とカフカ(n-buna・2015年)
2015年8月31日に公開された楽曲です。季節をはっきり指定した曲ではありませんが、夜明けの空気を描いた歌詞と静かな演奏が、新年度の朝に選ばれることの多い一曲です。
テンポは落ち着いていますが、言葉は意外と細かく置かれています。歌い上げようとするとかえって間延びするので、しゃべる速度に近いところを基準にすると収まりがよくなります。サビでだけ少し前に出る、という配分が向いています。
花降らし(n-buna・2016年)
2016年5月7日公開。浮遊感のあるコード進行と、花が散る情景を重ねた歌詞が印象的な曲です。最高音はhiE付近とされ、ラストサビの転調でそこに到達します。通常のサビは半音1つ下で収まります。
この曲は、メロディが半音で動く箇所があるため、音程の微妙なずれが出やすいタイプです。気持ちよく歌えたと思っても、録音を聴くと数か所だけ浮いている、ということが起きます。対策としては、ガイドメロディ入りの音源で一度録って、ずれた箇所だけを特定してから本番を録る方法が確実です。音程の取り方そのものは音程を合わせる方法で扱っています。
四月、君に背を向けて(小雨・2022年)
2022年4月に公開された楽曲で、ボカコレ2022春に出された曲としても知られています。四月という具体的な月をタイトルに置きながら、明るい新生活ではなく静かな別れの側を描いた曲です。
抑えて歌う箇所が多いぶん、どこか1か所で前に出ないと平坦になります。全編を小さく歌うのは「丁寧」ではなく「情報がない」状態になりがちです。効かせたいフレーズを1つだけ決めて、そこ以外をあえて引くと立体感が出ます。
花々、春はまた廻る(オゾン・2023年)
2023年3月に公開された、7曲のうちもっとも新しい楽曲です。春がまた巡ってくるという時間の流れを描いた曲で、サビで伸ばす箇所がはっきりしています。
伸ばす箇所が明快な曲は、そこが決まれば全体の印象が決まります。逆にいうと、そこが揺れると全部揺れて聞こえます。ロングトーンに不安がある場合は、この曲を練習曲として使うと自分の癖を見つけやすいはずです。揺れを抑える手順はロングトーンの揺れを止める方法にまとめています。
ロングトーンの粗を減らす手順
バラードを録る前に、この順番で確認しておくと録り直しが減ります。
- 伸ばす音だけを抜き出して練習する。曲を通さず、そのフレーズの最後の音だけを繰り返します。
- 吸う量を減らしてみる。息を目一杯吸うと、吐き始めの圧が強すぎて音が上ずることがあります。
- 伸ばしている途中で音量を変えない。まず一定で保てるようにしてから、あとで抑揚を足します。
- 最後の切り方を決める。すっと消すのか、はっきり切るのか。決めていないと毎回違う切り方になります。
- 録って波形を見る。自分の耳だけだと、揺れているかどうかは意外とわかりません。
とくに2番目は見落とされがちです。「もっと息を吸わないと伸びない」と思って吸いすぎ、かえって不安定になっているケースはよくあります。
音程の粗を減らす手順
ゆっくりな曲では、出だしの一瞬のずれが聞こえてしまいます。対策は、歌い方を変えるよりも確認の順番を変えるほうが効果的です。
| 段階 | やること | 目的 |
|---|---|---|
| 1 | ガイドメロディ入りで1回録る | ずれている箇所を特定する |
| 2 | ずれた箇所だけピアノで音取りする | 正しい高さを耳に入れ直す |
| 3 | その箇所だけを繰り返し歌う | 出だしの一瞬を合わせる |
| 4 | 通しで録り直す | 流れの中で確認する |
全部を最初からやり直すより、ずれている数か所だけを直すほうが圧倒的に早く終わります。曲全体を何度も歌い直すと喉も消耗するので、効率の面でもこの順番がおすすめです。
選曲を広げたいとき
今回はテンポの遅い春の曲に絞りましたが、季節にこだわらずスローテンポの曲を探したい場合はバラード・スローテンポのボカロ曲おすすめ15選のほうが選択肢が多くなります。卒業や旅立ちをテーマにした定番曲を探しているならボカロの卒業ソングおすすめ5選が近いはずです。
また、そもそも自分に合う曲の探し方から整理したい場合は歌ってみたの選曲ガイドもあわせてどうぞ。速い曲が苦手というだけなら、バラード以外にもミドルテンポという選択肢があります。
まとめ
春のバラードは、速さで落とされない代わりに、伸ばす音と音程の粗が正面から出ます。ただ、どちらも原因がはっきりしているぶん、対策も具体的に立てられます。
- 伸ばす音は、曲を通す前にその音だけ練習する
- 息は吸いすぎない。吐き始めの圧が強いと上ずる
- 音程は、通しで直さずにずれた箇所だけ直す
- キーは、転調のある曲なら最後まで通してから決める
7曲のうち、公開年も雰囲気もかなり幅があります。まずは1曲だけ選んで、伸ばす音の練習から始めてみてください。ゆっくりな曲は何度録り直しても喉が消耗しにくいので、練習曲としても扱いやすいはずです。



















