春に歌いたいボカロ曲をまとめた記事はたくさんありますが、そのほとんどは曲の雰囲気しか書いていません。実際に歌おうとしたとき、最初に困るのは「この曲、自分のキーで歌えるのか」「何キー下げればいいのか」という一点のはずです。カラオケ画面の前で±ボタンを何度も押し直した経験がある人は多いと思います。
この記事では、春の投稿シーズンによく選ばれるボカロ曲8曲について、最高音とそこから何キー動かせば自分の上限に収まるかを一覧にしました。掲載しているのは、複数の音域データで記載が一致した曲だけです。データが割れていた曲は、この記事から外しています。
キーの決め方そのもの(自分の上限をどう測るか、下げすぎるとどうなるか)は自分に合うキーの見つけ方で詳しく扱っています。この記事はその続きとして、曲ごとの具体的な数字を出す役割です。
結論早見表:8曲の最高音と下げ幅の目安
まず結論から。表の見方は、「自分が無理なく出せる最高音」の列を見て、そこに書かれた数字だけキーを下げる、というだけです。
| 曲名 | ボカロP | 公開年 | 最高音 | hiCまで下げるなら | hiAまで下げるなら | mid2Gまで下げるなら |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 桜ノ雨 | halyosy | 2008年 | hiD#(通常サビはhiC) | −3 | −6 | −8 |
| メルト | ryo | 2007年 | hihiA | −9 | −12 | −14 |
| Calc. | ジミーサムP | 2010年 | hiF# | −6 | −9 | −11 |
| 千本桜 | 黒うさP | 2011年 | hiE | −4 | −7 | −9 |
| いかないで | 想太 | 2013年 | hiC | ±0 | −3 | −5 |
| 花降らし | n-buna | 2016年 | hiE | −4 | −7 | −9 |
| シャルル | バルーン | 2016年 | hihiA# | −10 | −13 | −15 |
| アトラクトライト | *Luna | 2019年 | hiF | −5 | −8 | −10 |
数字は半音単位です。カラオケ機器やDAWのキー変更1つ=半音1つなので、そのまま設定値として使えます。桜ノ雨だけは転調後の最高音を基準にしているため、通常のサビでは表の数字より余裕があります。
音名表記の読み方(mid2G・hiC・hihiA)
カラオケや音域データでよく使われる表記を、鍵盤の位置に置き換えると次のようになります。ここがずれていると表の数字が全部ずれるので、最初に確認しておいてください。
| 表記 | 一般的なピアノ表記 | 位置の目安 |
|---|---|---|
| mid2C | C4 | ピアノ中央のド |
| mid2G | G4 | 中央のドより上のソ |
| hiA | A4 | そのソのすぐ上のラ |
| hiC | C5 | 中央のドの1オクターブ上 |
| hiE | E5 | hiCから半音4つ上のミ |
| hihiA | A5 | hiAの1オクターブ上 |
もうひとつ大事な前提があります。ボカロ曲の音域データは、多くの場合地声と裏声を区別せず、音の高さだけを拾っています。つまり「最高音hiE」と書いてあっても、そこを地声で出す必要があるという意味ではありません。裏声やミックスボイスで処理してよい箇所も含まれます。この点を誤解すると、必要以上にキーを下げてしまいます。
男性・女性でどう違うか
「男性は何キー下げ、女性は何キー下げ」と一律に決めた表を見かけますが、これはあまり実用的ではありません。同じ男性でも、無理なく出せる最高音がmid2Fの人とhiCの人では、必要な下げ幅が7つも変わるからです。
実際に使えるのは、次の考え方です。
- 女性:原曲キーのまま歌える曲がそれなりにあります。上の表で「hiCまで下げるなら」の列がまず目安になります。
- 男性:原曲キーのまま歌うのは多くの曲で難しく、キーを下げるかオクターブ下げるかの二択になります。オクターブ下げは−12と同じ高さになるため、表の「hiAまで下げるなら」の数字と見比べると判断しやすくなります。
たとえば千本桜(最高音hiE)を男性が歌う場合、−7でhiAに収まります。オクターブ下げ(−12)だとhiEの1オクターブ下=mid2Eまで落ちるので、今度は低すぎて声が痩せる可能性があります。この曲なら−7前後のキー下げのほうが扱いやすい、という判断ができるわけです。
逆にシャルル(最高音hihiA#)は、−13しないとhiAに収まりません。ここまで下げると曲の低音部が沈みすぎるので、オクターブ下げを基本にして、そこから微調整するほうが現実的です。オクターブ下げの考え方はオク下とは何かにまとめています。
下げれば下げるほど歌いやすくなるわけではない
キーを下げるとサビは楽になりますが、同じ幅だけAメロも下がります。低いほうが自分の下限を割り込むと、声が息っぽくなって言葉が届かなくなります。これが「下げたのに、なぜか歌いにくい」の正体であることが多いです。
参考までに、この記事で扱った曲のうち最低音の記載も一致していたものを挙げます。
| 曲名 | 最低音 | 最高音 | 音域の幅 |
|---|---|---|---|
| 千本桜 | mid1G | hiE | 約1オクターブ9音 |
| 花降らし | mid1G# | hiE | 約1オクターブ8音 |
| Calc. | mid1F# | hiF# | 2オクターブ |
| アトラクトライト | mid1G | hiF | 約1オクターブ10音 |
| いかないで | mid2A# | hiC | 約1オクターブ2音 |
| メルト | mid2A | hihiA | 2オクターブ |
| シャルル | mid2A# | hihiA# | 2オクターブ |
この表で注目してほしいのは、音域の幅です。いかないでは約1オクターブ2音しかなく、キーを動かしても破綻しにくい曲です。いっぽうCalc.・メルト・シャルルは2オクターブあるので、下げれば下げるほど低音側が苦しくなります。幅の広い曲は「サビに合わせる」だけでなく「Aメロが潰れないか」も同時に確認する必要があります。
曲ごとの補足
桜ノ雨(halyosy・2008年)
2008年2月23日にニコニコ動画へ投稿された、春の定番曲。サビの最高音はhiC付近で、最後の転調後にhiD#付近まで上がります。通常のサビで判断すると、ラストで届かなくなる典型例なので、キーを決めるときは必ず最後まで通して確認してください。転調後まで含めてhiAに収めたいなら−6前後が目安です。
千本桜(黒うさP・2011年)
2011年9月17日公開。サビで最高音付近が繰り返し出てくるうえ、テンポも速いため、1回出せるかどうかではなく連続で出し続けられるかで判断する必要があります。単発で届くキーに設定すると、2番の途中で保たなくなることがあります。
花降らし(n-buna・2016年)
2016年5月7日公開。最高音は千本桜と同じhiE付近ですが、こちらはラストサビの転調で到達する形で、通常のサビは半音1つ下のhiD#付近で収まります。最高音が出てくる回数が少ないぶん、体感の難易度は千本桜より穏やかに感じる人が多いはずです。
メルト(ryo・2007年)
2007年12月7日公開。最高音はhihiA付近と、この8曲の中でも高い部類です。ただし全体が高い位置に置かれているぶん、オクターブ下げにしても曲の形が崩れにくいという特徴があります。男性が原曲キーで挑むより、オク下を基準にしたほうが仕上がりやすい傾向があります。
Calc.(ジミーサムP・2010年)・アトラクトライト(*Luna・2019年)
どちらもサビで最高音に長くとどまるタイプです。瞬間的に出せるかではなく、その高さで言葉を保てるかが基準になります。ワンフレーズだけ試して決めると、あとで下げ直すことになりがちです。
いかないで(想太・2013年)・シャルル(バルーン・2016年)
この2曲は性格が正反対です。いかないでは最高音hiC付近・音域も狭く、キー調整がいちばんやさしい曲。シャルルは最高音hihiA#付近で、原曲キーのまま歌える人は限られます。同じ「春に歌われる曲」でも、ここまで差があるということです。
自分の最高音を測ってから表を使う
ここまでの表は、自分の上限がわかっていて初めて使えます。まだ測っていない場合は、先に測ってしまったほうが早いです。
- ピアノアプリやチューナーアプリを用意します。
- 低いところから半音ずつ上げて「ア」で伸ばしていきます。
- 喉を締めずに、2秒程度安定して伸ばせる最後の音を控えます。
- 裏声でも同じ手順で測り、地声と裏声の両方を記録します。
ここで記録するのは「気合を入れれば1回出る音」ではなく、何度でも出せる音です。1回しか出せない音を上限にすると、レコーディングで必ず破綻します。測り方の細かい手順は音域の測り方を参照してください。
曲側の最高音を自分で調べたい場合は曲の最高音の調べ方、キー変更の具体的な操作はキーを変える方法にまとめています。
この記事に載せなかった曲について
春のボカロ曲としてよく挙がる曲のうち、いくつかはこの記事から外しました。理由は単純で、音域データがサイトによって食い違っていたからです。最高音が1音違うと下げ幅の判断が変わり、記事を信じてキーを決めた人が困ります。
具体的には、複数の音域データベースを突き合わせて、最高音の記載が一致した曲だけを掲載しました。記載が1か所しか見つからなかった曲や、hiCとhiD#のように大きく割れていた曲は、数字を書かずに除外しています。気になる曲があれば、上の手順でご自身の耳で確認するのがいちばん確実です。
高音そのものが得意で、もっと高いキーの曲を探している場合は高音が気持ちいいキー高めのボカロ曲のほうが選曲の材料になります。
まとめ
キーを合わせる作業は、才能とは関係のない事務作業です。自分の最高音を1回測っておけば、あとは引き算で決まります。
- 自分が何度でも出せる最高音を測る
- 歌いたい曲の最高音を調べる
- 差の分だけキーを下げる
- 下げたあとに、低いところが潰れていないか確認する
この4手順を通すだけで、録り直しの回数はかなり減らせます。春は投稿が増える時期なので、キー合わせで悩む時間を削って、その分を録音と編集に回してみてください。



















