春は「さよなら」の季節だとよく言われます。ただ、歌ってみたで別れの曲を探している人が本当に歌いたいのは、体育館で全員が同じ歌詞を歌う卒業式の歌とは限りません。連絡が途絶えた相手、引っ越しでもう会えなくなった友達、好きだったのに言えないまま終わった恋。そういう、たったひとりぶんの別れをうたう曲を探している人のほうが多いのではないでしょうか。
この記事では、卒業式の定番ソングではなく、失恋・引っ越し・すれ違いといった個人的な別れをテーマにしたボカロ曲を8曲まとめました。曲名・ボカロP・公開年をそれぞれ確認したうえで、「どこを抑えて、どこで張るか」という歌い分けの配分まで書いています。
歌詞の意味を語るだけの選曲記事にならないよう、1曲ごとに「録って聴き返したときに気になりやすいポイント」を添えました。式典向けの定番曲をお探しの場合は、別記事のボカロの卒業ソングおすすめ5選のほうが合います。
この記事で扱う「別れ」の範囲
「別れの曲」とひとことで言っても、歌うときの設計はまったく違います。ここでは次のように切り分けました。
| タイプ | どんな場面か | この記事で扱うか |
|---|---|---|
| 式典・旅立ち型 | 卒業式、みんなで歌う、門出を祝う | 扱いません |
| 失恋型 | 恋が終わった、別れを告げた/告げられた | 扱います |
| 距離型 | 引っ越し、転校、会えなくなる | 扱います |
| すれ違い型 | 気持ちがずれていく、言えないまま終わる | 扱います |
式典型は「聴いている全員の思い出に重ねてもらう歌」なので、声を張って輪郭をはっきりさせるほうが機能しやすい傾向があります。いっぽう失恋型・距離型・すれ違い型は「ひとりの人の心の中」を描くので、張りっぱなしだと嘘っぽく聞こえてしまいがちです。同じ「さよなら」でも、置きにいく声量の設計がまるで違う、という前提で選んでいきます。
なお、この記事は「歌ってみたで1人で歌うこと」を前提にしています。合唱前提の編曲や、複数人での披露を想定した曲は外しました。
別れの曲を歌う前に決めておきたい3つのこと
1. 語り手が別れを告げる側か、告げられる側か
これを決めないまま歌うと、感情の向きが曲の途中で入れ替わってしまい、聴き手が誰に感情移入していいかわからなくなります。告げる側なら子音をやや強めにして言い切る、告げられる側なら語尾を息に逃がす。決めた時点で、声の出し方がある程度自動的に決まっていきます。
2. 「泣かせにいく箇所」を曲中に1〜2か所だけ置く
切ない曲は、全編を切なく歌おうとすると平坦になります。いちばん効かせたいフレーズを1〜2か所だけ決めて、そこ以外はむしろ淡々と処理する。この配分が決まっていると、聴き返したときの印象がはっきり変わりやすくなります。1番から全力で歌ってしまうと、2番以降で行き先がなくなる、というのがいちばんよくある失敗です。
3. ブレスを「聞かせる息」と「隠す息」に分ける
別れの曲では、息の音そのものが感情の情報になります。とはいえ全部のブレスが大きく入っていると、ただノイズが多い録音に聞こえます。ここは聞かせる、ここは口を小さく開けて静かに吸う、と決めておくと整います。息の扱いそのものはブレス音の入れ方・消し方もあわせてどうぞ。
個人的な別れをうたうボカロ曲8選
選定の基準は、(1)卒業式の定番として扱われていない、(2)個人的な別れを題材にしている、(3)曲名・ボカロP・公開年が確認できる、の3点です。並び順は公開年の古い順で、おすすめ度の順位ではありません。
さよならのかわりに、花束を(花束P・2008年)
花束P氏が初音ミクで公開した楽曲で、ニコニコ動画で殿堂入りした作品としても知られています。終わってしまった恋を振り返りながら、それでも前に進もうとする視点で書かれた歌詞が特徴です。
歌唱面では、メロディが極端に跳ねないぶん、母音の処理がそのまま印象になります。とくに「ら」「な」行が続く箇所で口の形が甘くなると、一気に輪郭がぼやけます。サビで張りたくなりますが、この曲はAメロを小さく置けているかどうかで完成度が決まりやすいタイプです。
Just Be Friends(Dixie Flatline・2009年)
2009年7月3日にニコニコ動画へ投稿された、巡音ルカの代表曲のひとつ。別れを切り出す側の視点で書かれた、大人びたサウンドのナンバーです。
この曲は言葉数が多く、しかも一定のテンポで詰まっています。感情を込めようとして語尾を伸ばすと、次のフレーズの頭に間に合わなくなりがちです。まずは感情を入れずに言葉が置ききれるかだけを確認するのがおすすめです。置けるようになってから、抜く箇所を足していくほうが早く形になります。
Calc.(ジミーサムP・2010年)
2010年9月に公開された楽曲で、別れた相手への未練を描いた曲として紹介されることの多い一曲です。原曲は初音ミク版で、のちに巡音ルカ版も配信されています。
最高音はhiF#付近とされ、サビでの滞空時間が長いのが特徴です。ここを地声で押し切ろうとすると喉が締まりやすいので、発声を切り替えるか、思いきってキーを下げる判断を先にしたほうが安全です。キーの決め方は自分に合うキーの見つけ方を参考にしてください。
ほころび(40mP・2013年)
2013年3月に公開された、初音ミクとGUMIによるデュエット曲です。旅立ちの季節をモチーフにしつつ、式そのものというより少しずつほどけていく関係のほうに視点が置かれています。
2人分のパートがあるため、ひとりで歌う場合は「どちらの視点で通すか」「掛け合いをどう処理するか」を先に決める必要があります。片方に寄せて通すのがいちばん簡単です。両方を録って重ねる場合は、声色を変えすぎないほうがまとまりやすい傾向があります。
いかないで(想太・2013年)
2013年10月にニコニコ動画へ投稿された楽曲で、原曲のボーカルには歌愛ユキが使われています。タイトルのとおり、離れていく相手を引き留めたい気持ちがまっすぐに置かれた曲です。
最高音はhiC付近とされ、この記事の8曲の中では音域的に取り組みやすい部類に入ります。そのぶん、音程のわずかなずれや声の揺れがそのまま出ます。伸ばす音が不安定になりやすい人は、この曲を練習曲として使うと自分の癖が見つけやすいはずです。
シャルル(バルーン・2016年)
2016年10月12日にv flowerで公開され、その後バルーン氏本人によるセルフカバーも公開された楽曲です。歌ってみたでも長く歌われ続けている、失恋を題材にした代表的な一曲と言えます。
最高音はhihiA#付近とされ、原曲キーのまま歌える人はかなり限られます。オクターブ下げで対応するか、キーを大きく下げるかを最初に決めてしまうのが現実的です。なお、この曲は言葉が詰まったパッセージが続くので、キーを下げても滑舌の負荷は下がらない点には注意してください。
アトラクトライト(*Luna・2019年)
2019年4月に公開された、鏡音レンによる楽曲です。*Luna氏の代表作として知られ、すれ違いと後悔を描いた曲として紹介されることの多い一曲です。
最高音はhiF付近とされ、サビで一気に上がる構成になっています。Aメロが比較的低いところに置かれているため、低いところで音量を作りすぎると、サビで上げしろがなくなるのが最大の落とし穴です。録音時はAメロをあえて物足りないくらいで置いて、サビとの差で聴かせる配分にすると扱いやすくなります。
はるのはるか(sasakure.UK・2008年)
2008年に公開された初音ミクのオリジナル曲で、大きな別れと旅立ちに向けた曲として長く聴かれてきました。8曲の中ではもっとも静かな部類に入ります。
テンポが落ち着いているぶん、ごまかしが効きません。とくに語尾の処理が雑だと、そこだけ浮いて聞こえます。しゃべり声に近い置き方から入って、必要な箇所だけ歌い上げる、という順番で組み立てると輪郭が作りやすいはずです。
8曲の比較早見表
「どのタイプの別れか」と「ひとりで歌うときに最初に決めること」を並べました。最高音は、複数の音域データで記載が一致した曲のみ載せています。記載のない曲は、曲の最高音の調べ方の手順でご自身で確認してみてください。
| 曲名 | ボカロP | 公開年 | 別れのタイプ | 最初に決めること |
|---|---|---|---|---|
| さよならのかわりに、花束を | 花束P | 2008年 | 失恋(受け入れる側) | Aメロの音量を落とせるか |
| はるのはるか | sasakure.UK | 2008年 | 距離・旅立ち | 語尾の処理 |
| Just Be Friends | Dixie Flatline | 2009年 | 失恋(告げる側) | 言葉を置ききれるテンポ感 |
| Calc. | ジミーサムP | 2010年 | 失恋(未練) | キー(最高音hiF#付近) |
| ほころび | 40mP | 2013年 | 距離・すれ違い | どちらのパートで通すか |
| いかないで | 想太 | 2013年 | 引き留める側 | 伸ばす音の安定(hiC付近) |
| シャルル | バルーン | 2016年 | 失恋 | オク下かキー下げか(hihiA#付近) |
| アトラクトライト | *Luna | 2019年 | すれ違い・後悔 | Aメロとサビの音量差(hiF付近) |
音域表記は「mid2C=中央のド」「hiC=その1オクターブ上」という一般的なカラオケ表記に合わせています。ボカロ曲の音域データは、地声と裏声を区別せず音の高さだけで示しているものが多いため、実際に歌えるかどうかは自分の声で確かめるのが確実です。
抑える箇所と張る箇所を決める手順
別れの曲でいちばん差が出るのが、この配分です。順番に決めていくと迷いにくくなります。
- いちばん効かせたい1フレーズを決める。多くの場合、2番サビか落ちサビの中にあります。
- そこから逆算して、直前を最小にする。効かせたい箇所の前に大きい声が続いていると、効果が打ち消されます。
- 1番のサビは7割で置く。ここを全力にすると、後半で差がつけられなくなります。
- Aメロは音量ではなく子音で存在感を作る。声量を落としても、子音を立てれば言葉は届きます。
- ラストは「戻す」か「置き去りにする」かを選ぶ。曲によって合う処理が違うので、両方録って聴き比べるのがおすすめです。
録ったものを自分で聴くと、どうしても「気持ちを込めたつもり」の記憶が邪魔をします。時間を空けてから聴くか、波形を見て実際の音量差を確認すると、思っているほど差がついていないことに気づきやすくなります。
録音・投稿のときに気をつけたいこと
静かな曲は、環境ノイズとリップノイズが目立ちます。エアコンや冷蔵庫の音は、歌っている間は気づかなくても、イントロや間奏で一気に表に出てきます。録音前に一度、無音のまま30秒だけ録って聴いてみると状況がつかめます。
また、別れの曲は音数が少ないぶん、オケとボーカルの音量バランスがシビアになりがちです。ボーカルを前に出しすぎるとブレスが痛くなり、引っ込めると言葉が消えます。どちらか迷ったら、スマホのスピーカーとイヤホンの両方で聴き比べて、言葉が聞き取れるほうを選ぶのが実用的です。
切ない曲をもっと幅広く探したい場合は、切ないボカロ曲おすすめ15選も選曲の材料になります。テンポの遅い曲だけを集めたい場合は、スローテンポのバラードをまとめた記事のほうが近いはずです。
まとめ
個人的な別れをうたう曲は、卒業式の定番曲とは設計が違います。全員に届ける歌ではなく、ひとりに向けた独り言に近いからです。だからこそ、張るよりどこを抑えるかを先に決めたほうが、聴き返したときの手応えが変わりやすくなります。
今回紹介した8曲は、失恋・距離・すれ違いと題材がそれぞれ違います。まずは自分がいちばん立ちやすい立場、つまり「告げる側」か「告げられる側」かを選んで、そこから1曲決めてみてください。選曲の考え方そのものに迷ったときは歌ってみたの選曲ガイドもあわせてどうぞ。



















