歌のオーディションやコンテストに応募しようとすると、書類と一緒に「歌唱動画」の提出を求められることがよくあります。いざスマホを構えてみると、伴奏はカラオケでいいのか、アカペラのほうがいいのか、どのくらいの長さを撮ればいいのか、カメラのどこを見て歌えばいいのかなど、迷うところがたくさん出てきます。
歌唱動画は、審査する人があなたの声を最初に聴く場面です。上手に見せようと凝った編集をするより、声がはっきり聴こえて、歌っている本人の様子が自然に伝わる動画のほうが、審査の材料として扱いやすくなります。
この記事では、特定の事務所やコンテストの条件ではなく、どの募集にも共通する撮り方の考え方をまとめました。スマホ1台で、音と映りを整えるための手順と、提出前に見直したいポイントを順番に解説します。実際に応募するときは、応募先の募集要項に書かれている条件を優先してください。
結論早見表:撮る前に決めておくこと
撮影を始める前に、次の項目を決めておくと、撮り直しの回数を減らせます。どれも募集要項に指定があれば、そちらに合わせます。
| 項目 | 決め方の目安 | よくある失敗 |
|---|---|---|
| 伴奏 | 要項の指定に従う。指定がなければ、声と音程が聴き取りやすい形を選ぶ | 伴奏が大きすぎて声が埋もれる |
| 長さ | 指定の長さ・範囲を守る。指定がなければ、聴かせたい部分が入る短めの範囲にする | フルコーラスで撮り、要項の上限を超える |
| 撮影の向き | 縦か横かは要項に合わせる。指定がなければ上半身が入る向きで | 途中でスマホを持ち替えて向きが変わる |
| 音 | スマホと口の距離を一定にし、テスト撮影で音割れがないか聴く | サビの大きな声だけ割れている |
| 映り | 顔に正面から光を当て、背景を片づける | 窓を背にして顔が暗くなる |
| 編集 | 加工・エフェクトの可否を要項で確認する。書いていなければ控えめに | 音程補正や強いエコーで素の声が分からない |
最初に募集要項を読む:動画の条件は募集ごとに違う
歌唱動画の条件は、募集によってかなり違います。伴奏の有無、歌う長さ、顔を映すかどうか、撮影の向き、ファイル形式、送り方まで細かく決められていることもあれば、「歌っている動画」とだけ書かれていることもあります。
審査する側は、同じ条件で撮られた動画を並べて比べたいと考えています。条件から外れた動画は、内容を見てもらう前に対象外になってしまうおそれがあります。撮り方を工夫するのは、条件を満たしたうえでの話です。
要項で確認したい項目
- 伴奏の指定(カラオケ音源、アカペラ、弾き語り、指定曲かどうか)
- 歌う長さ・範囲(「1コーラス」「○分以内」など)
- 顔出しの要否、全身か上半身か
- 撮影の向き(縦・横)と、ファイル形式・容量
- 編集・加工・エフェクトの可否
- 提出方法(アップロード、限定公開のURL、SNS投稿など)
- 過去に公開した動画を使ってよいか、新しく撮る必要があるか
書かれていないことで迷ったら、問い合わせ窓口があれば確認します。窓口がない場合は、「余計な手を加えず、素直に撮る」方向で考えると外れにくくなります。
事務所の所属そのものを検討している段階なら、応募前に歌い手の事務所所属の考え方と契約前の確認ポイントも読んでおくと、応募先を選ぶ目安になります。
伴奏の選び方:カラオケ音源・アカペラ・弾き語り
伴奏の形は、要項で指定されていればそれに従います。指定がない場合は、それぞれの特徴を知ったうえで選びます。
カラオケ音源(オフボーカル)で歌う
原曲に近い雰囲気で歌えるので、リズムや曲の流れも一緒に伝わります。注意したいのは、伴奏と声の音量のバランスです。伴奏を大きく流しすぎると、スマホのマイクが伴奏の音を多く拾い、肝心の声が聴き取りにくくなります。撮影では、伴奏は「自分が歌いやすい最小限の音量」にとどめるのが目安です。
音源の入手先や、使ってよい音源の考え方はオフボーカル音源の探し方と使い方にまとめています。原曲からボーカルを消して作った音源は使える範囲に注意が必要です。
アカペラで歌う
声そのものがはっきり聴こえるので、音程や声質を見てもらいやすい形です。その一方で、伴奏がないぶん音程やテンポのぶれも目立ちます。歌い出しの音が取れないときは、撮影前に鍵盤アプリなどで最初の音を確認してから始めます。動画の中に音を取る様子を入れてよいかは、要項の書き方を見て判断します。
弾き語りで歌う
楽器も審査の対象になるのか、歌だけを見たいのかで評価のされ方が変わります。歌だけを見る募集なら、楽器の音量が声より大きくならないよう、楽器とスマホの位置関係を調整します。
スマホで声をはっきり録るコツ
歌唱動画で聴かれるのは主に歌なので、映像より先に音を整えます。高価な機材がなくても、置き方と事前の確認で聴きやすさは変わります。
スマホと口の距離を一定にする
スマホは三脚やスタンドで固定し、手で持って撮らないようにします。口からの距離は、腕を軽く伸ばしたくらいを目安に、上半身が画面に収まる位置で決めます。近すぎると息の音や大きな声が割れやすく、遠すぎると部屋の響きや生活音が目立ちます。歌っている途中で前後に動くと音量が変わるので、立ち位置に目印を付けておくと安定します。
音割れはテスト撮影で見つける
スマホのカメラアプリは録音レベルを自動で調整するものが多く、細かい設定ができないこともあります。そのため、本番前に、曲の中で声が大きくなる部分だけを撮って聴き返すのが手堅い方法です。音が「バリッ」と割れていたら、スマホを少し離すか、声を出す向きを少しずらします。録音レベルの考え方は録音レベル(ゲイン)設定の記事で詳しく解説しています。
部屋の音と通知を止める
- エアコン、換気扇、冷蔵庫など、一定の音を出す家電は撮影中だけ止める
- スマホは機内モードやおやすみモードにして、通知音や着信で中断されないようにする
- 家族に撮影の時間を伝えておき、ドアの開け閉めや話し声が入らないようにする
- 音が響きすぎる部屋では、カーテンを閉めたり、布団やクッションを近くに置いたりする
外部マイクを使う場合は、そのマイクの音が動画に入っているか、テスト撮影で確かめてください。
映りを整える:画角・目線・明るさ・背景
映像は凝る必要はありませんが、表情や歌い方が見えることは大切です。次の4点を押さえておくと、見る人にとって落ち着いた動画になります。
画角は「胸から上」を基本に
要項に指定がなければ、頭の上に少し余白を残し、胸のあたりまで入る画角が基本です。顔だけのアップにすると、息を吸うときの肩の動きや姿勢が見えません。全身を求められた場合は、足元まで入るようにスマホを離し、音が遠くならないかをテスト撮影で確認します。スマホのレンズは目の高さに合わせると、見下ろしたり見上げたりする角度になりにくくなります。
目線はレンズの近くに
画面に映る自分の顔を見ながら歌うと、目線がレンズから少し外れます。審査する人には「目が合っていない」ように見えるので、基本はレンズの近くを見て歌います。ずっと見つめ続ける必要はなく、歌詞の内容に合わせて目線を外したり戻したりするのは自然な動きです。歌詞を見ながら歌う姿は避けたいので、撮影までに歌詞は覚えておきます。
光は正面から当てる
窓を背にして撮ると、逆光で顔が暗くなります。窓の光や部屋の照明が顔の正面かやや斜め前から当たる位置に立つと、表情が見えやすくなります。昼と夜で明るさが変わるので、撮影する時間帯にテストしておくと安心です。
背景と服装はシンプルに
背景は壁やカーテンなど、物が少ない場所を選びます。郵便物、表札、窓の外の景色、制服や名札など、住んでいる場所や個人を特定できるものが映り込んでいないかも確認してください。服装は、要項に指定がなければ普段の清潔感のある服で十分です。
選曲と歌う範囲:聴いてほしい部分を入れる
自由曲の場合は、好きな曲よりも「今の自分の声が伝わる曲」を選ぶのが目安です。音域がぎりぎりの曲を選ぶと、高い音で声が苦しそうに聴こえたり、音程が不安定になったりしやすくなります。キーを変えてよい募集なら、無理なく歌える高さに合わせます。
長さに指定がないときも、フルコーラスより、Aメロからサビまでなど聴いてほしい部分が入る短めの範囲にまとめるほうが、見る人の負担が少なくなります。歌い出しの数秒で声の印象が決まりやすいので、最初のフレーズを丁寧に歌える範囲を選ぶとよいでしょう。
撮影当日の流れと、提出前のチェック
撮影の流れを決めておくと、疲れて声が出なくなる前に良いテイクを残せます。
- 軽く声を出して、体と声を温める
- スマホを固定し、画角・明るさ・背景を確認する
- 大きな声を出す部分だけテスト撮影し、音割れと伴奏のバランスを聴く
- 本番を数回撮る。1回ごとに長く休まず、声が温まっているうちに続けて撮る
- イヤホンかヘッドホンで聴き返し、提出するテイクを決める
何度撮っても納得できないときは、撮影の回数を決めておき、その中から選ぶと決めるのも一つの方法です。自宅で大きな声を出しにくい場合は、カラオケボックスや音楽スタジオで撮る方法もあります。カラオケボックスで撮るときの注意点はカラオケボックスで歌ってみたを録音する方法、スタジオを借りる方法は音楽スタジオの個人練習で歌を練習する方法で解説しています。
提出前に見直す項目
- 長さ・範囲・撮影の向き・ファイル形式が要項どおりか
- 最初から最後まで、音割れや大きな雑音が入っていないか
- 伴奏より声のほうがはっきり聴こえるか
- 個人を特定できるものが映り込んでいないか
- 加工・エフェクトをかけた場合、要項で認められている範囲か
- ファイル名や動画のタイトルの付け方に指定がないか
- 締め切りの日時に余裕をもって送れるか(アップロードに時間がかかることがあります)
歌唱動画は、上手に作り込むことよりも、条件を守って声を聴きやすく届けることが大切です。迷ったときは、応募先の募集要項に立ち返ることを基本に、テスト撮影と聴き返しを重ねて仕上げてください。



















