「高い声を出すのは得意なほうだから、その武器を活かせる曲を歌いたい」——高音域に自信がある方ほど、選曲でそう考えることがあります。ボカロ曲は人間の生理的な限界を前提にせず作られているものも多く、キーの高い曲の選択肢は豊富です。
ただし「キーが高い曲=難しい曲」とひとくくりにしてしまうと、選曲を誤ります。高音が1回だけ来る曲と、高い音がサビ中ずっと続く曲では、必要な準備がまったく違います。前者は瞬発力、後者は持久力の問題だからです。
この記事では、高音の「山場がどこにあるか」という視点で15曲を3つのタイプに分けて紹介します。それぞれ曲調と、歌い手として気をつけたい箇所をあわせてまとめました。
「高いから難しい」で終わらせないための3つの視点
高音曲を選ぶとき、最高音の数値だけを見て決めると失敗しやすくなります。実際の負担を決めているのは、次の3つの要素です。
視点1:最高音が何回、どこに出てくるか
1曲を通して最高音が1〜2回しか出てこない曲なら、そこに向けて体力を残す組み立てができます。一方、サビのフレーズすべてが高い位置にある曲は、最高音そのものより高い音域に居続ける時間の長さが負担になります。
曲を選ぶ前に、最高音がどこにあるかを確認しておくと計画が立てられます。曲の音域の調べ方を使うと、原曲キーで通せるかどうかの判断が早くなります。
視点2:高い音までの上がり方
低い音から段階的に上がっていく曲は、耳でも体でも次の音を準備できます。逆に、低い音から一気に跳ね上がる曲は、跳躍そのものが難所になります。跳躍が多い曲は、音程がぶら下がったり、当てにいって声が硬くなったりしやすい傾向があります。
視点3:高い音で何をさせられるか
同じ高さでも、まっすぐ伸ばすのか、細かく言葉を並べるのかで難易度は変わります。高音でロングトーンを求められる曲は音程と声量の安定が必要で、高音で早口を求められる曲は口の動きと息の配分が問われます。自分がどちらを得意とするかで、向いている曲は変わってきます。
なお、そもそも高音が思うように出ないと感じている場合は、選曲より先に発声の確認が有効です。高音の出し方・練習方法で、力まずに高い音を出すための考え方を整理しています。
高音が気持ちいいボカロ曲おすすめ15選 早見表
順位づけはしていません。山場のタイプ別に分け、各タイプの中は発表年の順に並べています(2026年9月時点で確認できた情報に基づきます)。
| 曲名 | ボカロP | 年 | 山場のタイプと歌い手視点のポイント |
|---|---|---|---|
| 東京テディベア | Neru | 2011 | 瞬発型。サビの一点に向けて体力を残す |
| セツナトリップ | Last Note. | 2012 | 瞬発型。速いテンポの中で高音を当てる |
| どりーみんチュチュ | emon(Tes.) | 2014 | 瞬発型。明るい響きを保ったまま上げる |
| アスノヨゾラ哨戒班 | Orangestar | 2014 | 瞬発型。サビ終盤の伸ばしが聴かせどころ |
| ロキ | みきとP | 2018 | 瞬発型。勢いで押し切れるが音程がぶれやすい |
| アンハッピーリフレイン | wowaka | 2011 | 持久型。高い位置に居続ける時間が長い |
| ロストワンの号哭 | Neru | 2013 | 持久型。速さと高さが同時に来る |
| ゴーストルール | DECO*27 | 2016 | 持久型。サビ全体が高めで体力配分が要 |
| ヒバナ | DECO*27 | 2017 | 持久型。テンポが速くブレスの余地が少ない |
| 拝啓ドッペルゲンガー | kemu | 2017 | 持久型。高速ロック。後半ほど負担が増す |
| カゲロウデイズ | じん(自然の敵P) | 2011 | 落差型。低いパートと高いサビの往復 |
| 脳漿炸裂ガール | れるりり | 2012 | 落差型。早口と跳躍が混ざる |
| エイリアンエイリアン | ナユタン星人 | 2016 | 落差型。短い跳躍が繰り返し出てくる |
| 命に嫌われている。 | カンザキイオリ | 2017 | 落差型。静かな導入から終盤で開ける |
| テレキャスタービーボーイ | すりぃ | 2019 | 落差型。裏声と地声の切り替えが肝 |
タイプ1:サビの一点に山場が来る「瞬発型」5曲
最高音が限られた箇所にしか出てこないタイプです。そこまでにどれだけ余力を残せるかが鍵になるので、AメロやBメロを抑えて歌う設計ができれば、原曲キーでも通せる可能性があります。高音が得意な方が「気持ちよく1発決める」感覚を味わいやすいのもこのタイプです。
東京テディベア/Neru
2011年発表、鏡音リンを使用した楽曲です。バンドサウンドの疾走感のあるロックで、Neruさんの初期を代表する1曲として知られています。
山場はサビです。Aメロから力を入れて歌うと、サビに入る前に声が硬くなります。前半は音量を落とし、サビで初めて開ける配分にすると、対比もついて聴きやすくなります。
セツナトリップ/Last Note.
2012年発表、GUMIを使用した楽曲です。テンポの速い明るいロックで、音の動きが大きい箇所が随所にあります。
難所は、速いテンポの中で高い音を正確に当てる点です。速さに気を取られると音程が甘くなりやすいので、原曲より遅い速度で高音の位置だけを確認してから、テンポを戻す練習順が有効です。
どりーみんチュチュ/emon(Tes.)
2014年発表、巡音ルカと初音ミクを使用した楽曲です。明るいダンスポップで、跳ねたリズムに乗せて音が上下します。
ポイントは、高い音でも響きを明るいまま保つこと。高音を出そうとして喉に力が入ると、音は届いても曲の軽やかさが失われます。あくびをするときのように喉の奥を開けた状態を保つほうが、曲調に合った響きになりやすくなります。
アスノヨゾラ哨戒班/Orangestar
2014年発表、IAを使用した楽曲です。爽やかで疾走感のあるサウンドが特徴で、歌ってみたでも長く歌われてきました。
聴かせどころはサビ終盤の伸ばしです。ここで音量が落ちると失速して聞こえるため、伸ばしている間の息の量を一定に保つ意識が要ります。伸ばす直前で深く吸い直せるよう、ブレスの位置を決めておくと安定します。
ロキ/みきとP
2018年発表、鏡音リンを使用した楽曲です。ストレートなロックで、勢いのまま歌い進められる構成になっています。
勢いで押せる反面、力んだ結果として音程が上ずりやすい曲でもあります。録音したあと、サビだけを聴き返して原曲より高くなっていないかを確認すると精度が上がります。
タイプ2:高い音が続く「持久型」5曲
サビのフレーズ全体が高い位置にあり、一度上がったらしばらく降りてこないタイプです。1コーラス歌えても最後まで保てないことがあるため、キーの判断は必ず通しで行ってください。原曲キーにこだわらず、2つ下げても曲の魅力は損なわれにくい種類の曲です。
アンハッピーリフレイン/wowaka
2011年発表。速いテンポと言葉数の多さを両立させた、いわゆる高速ボカロロックの代表格の一つに挙げられる楽曲です。
高い音域に居続ける時間が長く、そのうえ休符が短いのが難所です。歌詞を書き出してブレスの位置に印をつける準備を、練習より先に済ませておくことをおすすめします。
ロストワンの号哭/Neru
2013年発表、鏡音リンを使用した楽曲です。速さと高さが同時に来るタイプで、歌ってみたのカバーも数多く投稿されてきました。
負担が集中するのは、繰り返される高音パートです。1回目を全力で歌うと2回目以降が保ちません。最初は7割ほどの出力で通してみて、最後まで届く配分を探るところから始めると失敗が減ります。
ゴーストルール/DECO*27
2016年発表の初音ミク曲です。ダークな質感のロックサウンドで、サビは全体的に高めの位置に置かれています。
体力配分がそのまま完成度に出る曲です。歌い出しから声を張ると後半で余力がなくなるため、Aメロは息を多めに混ぜて軽く歌い、サビで芯のある声に切り替える組み立てが機能しやすくなります。
ヒバナ/DECO*27
2017年発表の初音ミク曲です。テンポが速く、言葉が細かく並ぶうえにサビの音域も高めという、負担の重なる構成になっています。
課題はブレスの余地の少なさです。すべての言葉を丁寧に発音しようとすると息が続かないので、軽く処理する箇所とはっきり出す箇所を決めて、メリハリで聴かせるほうが現実的です。
拝啓ドッペルゲンガー/kemu
2017年発表、GUMIを使用した楽曲です。kemuさんの活動再開時に発表された高速ロックで、テンポと音域の両方で負荷がかかります。
後半に向けて負担が増していくため、前半でどれだけ省エネで歌えるかが鍵になります。キーを下げる判断も選択肢に入れて、最後のサビまで声が保てる高さを優先してください。
タイプ3:低音と高音の落差で聴かせる「落差型」5曲
低いパートと高いパートが交互に現れるタイプです。高音だけでなく低音側も出す必要があるため、キーを下げると低音が沈み、上げると高音が苦しくなるという調整の難しさがあります。音域の幅そのものが課題になる点で、前の2タイプとは性質が違います。
カゲロウデイズ/じん(自然の敵P)
2011年発表の初音ミク曲です。カゲロウプロジェクトの中核となった楽曲として広く知られています。
低めに置かれた語り気味のパートと、開けるサビの往復が特徴です。両端の音を先に確認し、低いほうが聞こえなくならない範囲でキーを決めてください。自分の音域の測り方で自分の下限を把握しておくと判断が速くなります。
脳漿炸裂ガール/れるりり
2012年発表。早口のパートと大きな跳躍が同居する構成で、難曲として名前が挙がることの多い楽曲です。
山場は、速い言葉の直後に跳躍が来る箇所です。言葉を追いかけているうちに次の高音の準備ができず、当てにいって硬くなりがちなので、跳躍の直前だけを取り出して繰り返す練習が効きます。
エイリアンエイリアン/ナユタン星人
2016年発表の初音ミク曲です。ポップで覚えやすい曲調のなかに、短い跳躍が繰り返し出てきます。
1回ごとの跳躍は大きくありませんが、回数が多いぶん、当て方が安定しないと全体がぐらつきます。跳躍のパターンは似た形が繰り返されるので、1か所を丁寧に固めれば他にも応用が利きます。
命に嫌われている。/カンザキイオリ
2017年発表の初音ミク曲です。静かな導入から終盤に向けて厚みを増していく構成で、歌ってみたのカバーが数多く投稿されてきました。
盛り上がりは曲の後半に置かれています。序盤を小さく歌えるかどうかで終盤の印象が決まるため、抑えるパートの作り込みに時間をかけるほうが効果的です。声量で差をつけようとすると音程が不安定になりやすいので、息の量で調整してください。
テレキャスタービーボーイ/すりぃ
2019年発表、鏡音レンを使用した楽曲です。跳ねたリズムのロックで、地声と裏声を行き来する箇所があります。
難所は切り替えのつなぎ目です。急に音色が変わると不自然に聞こえるため、切り替える直前の音を少し軽くして、段差を小さくする工夫が有効です。裏声を混ぜた発声を練習しておくと、つなぎ目が目立ちにくくなります。
高音曲を録るときに押さえておきたいこと
選曲が決まったあと、録音・投稿までにつまずきやすい点を整理しておきます。
- キーは通し録りを前提に決める:1コーラス歌えることと、最後まで保てることは別の話です。最終サビだけを先に歌ってみて、そこが成立する高さを基準にすると失敗が減ります。判断の手順は自分に合うキーの見つけ方にまとめています
- 録音レベルは高音側に合わせる:高音は音量も大きくなりやすく、通常のパートに合わせて設定すると、サビだけ音が割れることがあります。いちばん大きく歌う箇所を基準にレベルを決めてください
- 喉に負担を感じたら中断する:高音曲は無理を重ねやすいので、違和感があるときは日を改めるほうが結果的に早く仕上がります
- 音源と権利の確認を先に済ませる:オフボーカル音源の配布状況や利用条件は曲ごとに異なります。キーを変えた音源を使う場合の扱いも含めて、歌ってみたと著作権の基礎知識で確認しておくと安心です
まとめ:山場のタイプで選べば、高音曲は選びやすくなる
- 高音曲は「瞬発型」「持久型」「落差型」に分けて考えると、自分に合う曲を見つけやすくなります
- 瞬発型は体力を残す設計、持久型はキーの判断、落差型は低音側の確認がそれぞれ鍵になります
- 最高音の数値だけでなく、その音が何回・どんな形で出てくるかを見てから選ぶと、通せる曲を選びやすくなります
- 原曲キーで歌うことが目的ではありません。最後まで保てる高さで歌ったほうが、聴きやすい仕上がりになります
逆に低い音域を活かしたい方は低い声で歌えるボカロ曲おすすめ15選もあわせてご覧ください。声の高さを軸に選曲の幅を広げておくと、歌枠やコラボ企画でも対応しやすくなります。



















