歌ってみたの動画を見ていると、タイトルや概要欄に見慣れない言葉が並んでいることがあります。「本家様」「御本家」「歌みた」「合唱」「宴」。辞書を引いても出てこないし、誰も説明してくれない。けれど周りはみんな当たり前のように使っている——そんな言葉たちです。
これらは機材や発声の専門用語ではなく、動画投稿の文化のなかで自然に生まれた呼び方です。意味を知らなくても投稿はできますが、知っていると概要欄の書き方に迷わなくなりますし、他の人の動画の作りも読み解けるようになります。
この記事では、制作の技術用語ではなく「投稿文化としての呼び名」に絞って整理します。声や機材の用語を探している方は歌ってみた・歌い手の用語辞典のほうが目的に合うはずなので、そちらをご覧ください。
結論早見表:まず押さえる7語
| 言葉 | 読み | ざっくりした意味 |
|---|---|---|
| 本家 | ほんけ | 自分が歌った曲の、元になった作品・その投稿者 |
| 御本家・本家様 | ごほんけ・ほんけさま | 「本家」を敬って呼ぶ言い方 |
| 歌みた | うたみた | 「歌ってみた」の略。タグや会話で使われる |
| 合唱 | がっしょう | 複数人の歌声を重ねて1曲に仕上げた動画 |
| 宴 | うたげ | 大人数が集まって作られた企画動画に付けられることがある呼び名 |
| 合作 | がっさく | 複数人で分担して1本を作る企画 |
| ○○師 | ― | MIX師・絵師など、制作の担当を指す通称 |
以下、それぞれをもう少し詳しく見ていきます。
曲の出どころを指す言葉:本家・御本家・原曲
「本家」とは
歌ってみたは、誰かが作った曲を自分が歌い直すという形の文化です。その元になった作品のこと、またはその作品を公開した人を「本家」と呼びます。
ボカロ曲を歌ったのであれば、その曲を投稿したボカロPの作品が本家。オリジナル曲でなくアニメ主題歌などを歌った場合は、その原曲が該当します。
「御本家」「本家様」という言い方
本家に「御」を付けたり「様」を付けたりする言い方が、歌ってみた界隈では広く使われています。曲を作ってくれた人への敬意を表す形で、概要欄では「素敵な本家様」「御本家様はこちら」といった書き方をよく見かけます。
これは単なる丁寧語以上の意味を持っています。歌ってみたは他人の作品を土台にして成立する文化なので、元の作り手に敬意を示す言葉づかいが、そのまま界隈のマナーとして定着してきたという背景があります。
使うときの注意
本家へのリンクは、必ず公式に公開されている場所を貼ってください。転載された動画や、本人以外がアップロードしたものを「本家」として紹介するのは、作り手にとって望ましくない扱いになります。
また、本家が動画を非公開にしている場合や、歌ってみたを許可していない場合もあります。そもそも歌ってよい曲なのかという判断については、歌ってみたと著作権を先に確認しておくと安心です。
「〜してみた」というカテゴリの言葉
歌ってみた・歌みた
「歌ってみた」という言い方そのものが、動画投稿サイトのカテゴリ名から広がった言葉です。プロの歌手が「カバーする」のではなく、一般の投稿者が「ちょっと歌ってみた」という距離感で始まったことが、この語尾に残っています。
「歌みた」はその略で、タグや日常の会話で使われます。文章では「歌ってみた」、短くしたいときは「歌みた」、というくらいの使い分けで問題ありません。
踊ってみた・弾いてみた・描いてみた
同じ「〜してみた」の形を持つカテゴリがいくつもあります。
- 踊ってみた:曲に合わせて踊る動画
- 弾いてみた・演奏してみた:楽器で演奏する動画
- 描いてみた:イラストを描く過程や作品を公開する動画
- 作ってみた:工作や料理など、何かを作る動画
これらは別のジャンルですが、投稿者どうしの距離は近く、歌ってみたの動画にイラストや映像を提供しているのが「描いてみた」側の人だった、ということもよくあります。
複数人で作る動画の呼び方
合唱
複数の人が歌った音源を重ねて、1曲として仕上げた動画を「合唱」と呼びます。学校の合唱のようにパートで分かれているとは限らず、同じメロディを何人分も重ねて厚みを出すものも含まれます。
人数が多いほど声の個性がならされて、独特のまとまりが出るのが特徴です。主催者が音源を募集して、集まった音声をまとめるという作られ方が一般的です。
宴
「宴」は、多人数が集まって作られた企画動画に付けられることがある呼び名です。タイトルや概要欄に添えられて、「これは大勢で作った特別な一本ですよ」という合図として機能します。
使われ方には幅があり、合唱形式のものを指すこともあれば、記念企画やお祭り的な集まりを指すこともあります。厳密な定義があるわけではないので、見かけたら「大人数の企画ものだな」と受け取っておけば十分です。
合作・リレー
「合作」は複数人で分担して1本を作る企画全般を指します。「リレー」はそのうち、1曲を区間で区切って順番に歌い継いでいく形式です。どちらも参加者が公募されることが多く、初心者が他の投稿者と知り合うきっかけになっています。
参加のしかたや、自分が主催する場合の進め方はリレー動画・合作企画に参加する方法と主催の進め方にまとめてあります。
コラボ
2人以上で一緒に作ること全般を指す、いちばん広い言葉です。合唱や合作より人数が少なく、対等な関係で組むニュアンスで使われることが多くあります。
制作の担当を指す「○○師」
歌ってみたは分業で作られることが多く、それぞれの担当に通称が付いています。
| 呼び方 | 担当 |
|---|---|
| MIX師 | 歌声とオフボーカル音源を混ぜて音を仕上げる |
| 絵師 | イラスト・立ち絵を描く |
| 動画師 | 映像を組み立て、歌詞を配置する |
| エンコ師(エンコード師) | 投稿先に合わせて動画を変換・圧縮する |
この「師」は職業名ではなく、文化のなかで定着した敬称のような通称です。資格があるわけではなく、名乗ることは誰にでもできます。そのぶん、依頼するときは肩書きではなく実際の作品で判断する必要があります。
タイトルと概要欄の定型
【】を使うタイトル
「【曲名】歌ってみた【○○】」のように、隅付きかっこを多用するのが歌ってみた動画のタイトルの特徴です。これは動画投稿サイトの一覧表示で、曲名と投稿者名を一目で区別できるようにするために広まった書き方です。
かっこの中に入れるものは、曲名・歌い手名・企画名・その動画の売り(「女性が歌う」「男女で歌う」など)が一般的です。ただし詰め込みすぎると読みにくくなり、検索結果でも途中で切れてしまいます。
概要欄の定型文
概要欄には、おおむね次のような要素が並びます。
- 本家(御本家様)の作品へのリンク
- 使用したオフボーカル音源の提供元
- 歌・MIX・イラスト・動画それぞれの担当者名とリンク
- 投稿者自身のSNSやチャンネルへのリンク
- ひとことコメント
ここで大事なのは、関わった人のクレジットを正確に書くことです。表記のしかたを指定されている場合は、その通りに書いてください。何をどの順で書くかは歌ってみたの概要欄の書き方で具体的に解説しています。使わせていただく音源の扱いについてはオフボーカル音源の扱いを参照してください。
これらの言葉はどこから来て、今どうなっているか
ここで挙げた呼び名の多くは、日本の動画投稿サイトのコミュニティのなかで、投稿者とリスナーのやり取りから生まれたものです。運営が決めたわけではなく、誰かが使い始めたものが広まって定着した、という成り立ちです。
その後、歌ってみたの主な発表の場が他の動画プラットフォームやSNSにも広がっていくなかで、言葉のほうも一緒に移動しました。そのため、元のサイトの仕組みに由来する言葉が、仕組みのない場所でも使われ続けているケースがあります。
結果として、意味が少しずつ変わったり、人によって使い方が違ったりすることが起きています。この記事の説明も「こういう使われ方が多い」という整理であって、絶対の定義ではありません。迷ったら、自分が交流している場での使われ方に合わせるのがいちばん確実です。
よくある質問
Q. 全部覚えないと投稿できませんか?
そんなことはありません。最低限、「本家」と「オフボーカル音源」の2つが分かっていれば、概要欄は書けます。残りは動画を見ているうちに自然と身につきます。
Q. 「本家様」と書くのは大げさではありませんか?
界隈では一般的な書き方なので、浮くことはありません。気になるようであれば「原曲:○○」といった表記でも問題はなく、大事なのは敬称の形よりもリンクが正しいかどうかです。
Q. 「宴」や「合唱」に参加してみたいのですが
多くは主催者がSNSや動画サイトで参加者を募集しています。応募の前に、締め切り・提出形式・音源の扱いを確認しておいてください。初参加なら、人数が少なめの企画から試すほうが負担が軽くなります。
Q. 知らない言葉が出てきたらどうすればいいですか?
その言葉と「歌ってみた」を組み合わせて検索すると、たいていは使われている文脈ごと見つかります。制作や発声まわりの言葉であれば、当サイトの用語辞典のほうに載っている可能性が高いです。
まとめ
歌ってみた界隈の言葉は、技術用語というより文化の言葉です。「本家」「御本家」は元の作り手への敬意を、「合唱」「宴」「合作」は大勢で作る楽しさを、「○○師」は分業で成り立っている制作のかたちを、それぞれ映しています。
覚えるべきは単語そのものよりも、その裏にある態度のほうかもしれません。曲を作った人に敬意を払い、関わってくれた人の名前をきちんと書く。この2つができていれば、言葉づかいが多少ぎこちなくても、界隈で困ることはほとんどないはずです。
そもそも「歌い手」という言葉自体の成り立ちが気になった方は、「歌い手」とは?も合わせてどうぞ。



















