サビにハモリを入れたいけれど、自分で音を探して録るのは難しい。高いほうのハモリはキーが合わなくて歌えない。そんなときに気になるのが、歌った声からハモリを自動で作る「ハーモナイザー」です。ただ、試してみると機械っぽく聞こえたり、どこか音が外れて聞こえたりして、使いどころがわからないという声もよく聞きます。
この記事では、ハーモナイザーの仕組みと、歌ってみたでハモリを生成するときの手順・注意点を解説します。ハモリの音の探し方や自分で録る方法は別の記事で扱っているので、ここではエフェクトでハモリを作る方法と、手で録ったハモリとの使い分けに絞っています。
結論:自動ハモリは「キーを教える」「小さく混ぜる」「部分的に使う」
ハモリを作る方法は、大きく3つに分けられます。
| 方法 | どう作るか | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ハーモナイザー(リアルタイム型) | トラックに挿して、元の声の音程をずらした声を足す | コーラスの厚み・掛け声・短いフレーズ | 曲のキーやスケールを設定しないと音が外れやすい |
| DAWのピッチ編集で生成 | 元の声をコピーして音程を変え、1音ずつ直せる | サビのハモリなど、きちんと聴かせたい部分 | 手間はかかるが、外れた音を直せる |
| 自分で歌って録る | ハモリのメロディを覚えて別に録音する | 1曲を通したハモリ、表情をつけたい部分 | 音を探す・歌えるようになるまでの練習が要る |
自動で作るハモリは、曲のキーを正しく設定すること、メインより小さく混ぜること、1曲すべてではなく必要な部分に使うことの3つを押さえるだけで、かなり自然に聞こえやすくなります。
ハーモナイザーとは何か
ピッチシフターとの違い
声の高さを決まった量だけずらすエフェクトを、ピッチシフターと呼びます。たとえば「3半音上げる」と設定すると、どの音も同じだけ上がります。ハーモナイザーは、このずらした声を元の声に重ねて、ハモリとして聞かせることを目的にしたエフェクトです。製品によっては、曲のキーやスケールを設定して、音ごとにずらす量を自動で変えるものもあります。
同じ量だけずらすと音が外れる理由
ハモリでよく使われる「3度」は、実は2種類あります。半音4つ分の長3度と、半音3つ分の短3度です。曲のスケールの中では、メロディの音によって、3度上が長3度になったり短3度になったりします。そのため、すべての音を同じ半音数だけずらすと、ところどころでスケールから外れた音が混ざり、「どこか変」に聞こえます。
これを避けるために、キーやスケールを設定して、スケールの中の音だけを使うようにずらし方を変える仕組みがあります。さらに、曲のコードを読み込んで、コードに合う音を選ぶ機能を持つDAWやプラグインもあります。どの方式かは製品によって違うので、取扱説明書でキーやコードを設定できるかを確かめてから使うと失敗しにくくなります。
DAWでハモリを生成する手順
Cubaseの「ハーモニーボイスの生成」の例
DAWの中には、録った声からハモリのトラックを作る機能を持つものがあります。たとえばCubaseのVariAudioには、ハーモニーボイスを生成する機能(Generate Harmony Voices)があります。Steinbergの公式マニュアルによると、次のような仕組みです。
- オーディオイベントを選んで実行すると、最大4声のハモリが、元の声のコピーとして別のトラックに作られる
- ダイアログでは、声の数とビブラートを弱める量を設定できる
- コードトラックを使わない場合、1声目は元の声から3半音上、2〜4声目は3・6・9半音下にずらされる
- コードトラックにコードを入力して設定すると、コードの構成に合わせて声が振り分けられる
3つ目のとおり、コードの情報がないと決まった半音数でずれるだけなので、前の章で説明したように音が外れる部分が出てきます。コードを入力してから生成するか、生成後に外れた音を1つずつ直すのが前提と考えてください。VariAudioは、Cubaseのグレードによって使えない場合があります。
ピッチ編集ソフトでコピーして作る
専用の機能がなくても、メインの声をコピーして、ピッチ編集ソフトで1音ずつ音程を変えればハモリを作れます。手間はかかりますが、どの音を何度上げるかを自分で決められるので、外れた音が残りにくい方法です。ピッチ編集の道具の違いはピッチ補正ソフトの選び方でまとめています。
リアルタイム型を使うときの手順
- 曲のキーとスケールを調べて設定する:途中で転調する曲は、その部分だけ設定を変えるか、別トラックに分けます
- ずらす量(上か下か、何度か)を決める:まずは3度上か3度下のどちらか1声から始めます
- 処理音だけを聴いて外れた音を探す:Mixのつまみがあれば一時的に処理音100%にすると、違和感のある音が見つけやすくなります。AppleのLogic Proのガイドでも、Pitch Shifterの設定を比べるときはMixを一時的に100%にすると、加工による変化が聞き取りやすいと案内されています
- メインに混ぜる:処理音の割合を下げるか、別トラックにしてフェーダーで小さく混ぜます
- 書き出して1音ずつ直す:外れた音が残る場合は、ハモリだけをオーディオに書き出して、ピッチ編集で直します
自動ハモリを自然に聞かせるコツ
メインより小さく、少し離して置く
生成したハモリは、元の声と声質も歌い方もまったく同じなので、同じ音量・同じ位置に置くと、2本が1つに溶けて不自然に聞こえます。メインより音量を下げ、定位を少し左右に振ると、ハモリとして聞き分けやすくなります。
声質(フォルマント)の変化に気をつける
音程を大きく上げ下げすると、声質まで変わって、子どもっぽい声や太すぎる声に聞こえることがあります。フォルマント(声質)を保つ設定があればオンにし、ずらす幅はできるだけ小さい音程から使うと自然に聞こえやすくなります。
タイミングと揺れを少しずらす
コピーから作ったハモリは、タイミングもビブラートも元の声とぴったり同じです。ビブラートを弱める設定があれば使い、必要に応じて、ほんのわずかに位置をずらすと、別の人が歌っているような感じに近づきます。
子音とブレスはメインに任せる
ハモリにもサ行やブレスがそのまま入っているので、重なると耳につきやすくなります。ハモリ側だけ子音を少し小さくしたり、ブレスを消したりしておくと、すっきり聞こえます。ハモリにかけるEQなどの処理は、メインと同じ帯域が出やすいので、ダイナミックEQで出すぎた瞬間だけ抑える方法もあります。
手で録ったハモリとの使い分け
| 場面 | 向いている方法 | 理由 |
|---|---|---|
| 1曲を通して聴かせるハモリ | 自分で録る | 言葉ごとの表情や強弱をメインと変えられる |
| サビの数小節だけ厚くしたい | DAWで生成して直す | 短い部分なら、音を直す手間も少ない |
| 掛け声・効果としてのコーラス | リアルタイム型 | 機械っぽさが演出として生きやすい |
| ハモリの音を探す練習 | 生成した音を聴いて覚え、自分で録る | 正しい音を耳で確かめながら練習できる |
自動ハモリは便利ですが、声の表情はメインのコピーになるため、聴かせたい部分では自分の声で録ったハモリのほうがなじみやすいことが多いです。生成した音を「お手本」として聴き、それを歌って録るという使い方もできます。自分でハモリを録る手順はハモリの付け方・重ね方で解説しています。
MIXを依頼する場合は、自動で作ったハモリかどうか、どの部分に入れたいかを、依頼文で先に伝えておくと話が早く進みます。
よくある質問
Q. ケロケロボイスとは何が違いますか
ケロケロボイスは、ピッチ補正を極端に速くかけて音程を階段状にする加工で、声を1本のまま加工します。ハーモナイザーは、ずらした声を重ねて和音を作ります。組み合わせて使うこともできます。作り方はケロケロボイスの作り方をご覧ください。
Q. 声を太くしたいだけなら、ハーモナイザーでいいですか
同じ音程で厚みを出したいなら、ハモリではなくダブリングや、軽い歪みを足す方法も合っています。歪みで厚みを足す方法はボーカルのサチュレーションとはで解説しています。
Q. 歌枠などの配信でも使えますか
リアルタイム型のハーモナイザーなら、配信ソフトや機材に組み込んで使う方法もあります。ただし、音程をずらす処理は遅れが出ることがあり、キーの設定を曲ごとに変える手間もかかります。使う場合は、配信の前に録画して聞き返しておくと安心です。
まとめ
- ハーモナイザーは、元の声の音程をずらした声を重ねて、ハモリを作るエフェクト
- すべての音を同じ半音数ずらすと、スケールから外れた音が混ざる。キーやコードを設定できるか確かめる
- DAWの生成機能やピッチ編集を使えば、外れた音を1つずつ直せる
- メインより小さく混ぜ、定位を少し離し、子音とブレスは控えめにする
- 1曲を通して聴かせるハモリは自分で録り、短い部分や演出には自動ハモリ、という使い分けがしやすい
自動ハモリは、うまく使えば録音の手間を減らしながら曲に厚みを足せる道具です。まずはサビの数小節から試して、メインとの音量の差や外れた音がないかを確かめながら取り入れてみてください。



















