MIXを終えて聴き返したら、声が耳に刺さる。イヤホンで通して聴くと疲れてしまい、スマホのスピーカーではシャリシャリと硬く聞こえる。歌ってみたを自分でMIXしていると、こうした「キンキンする」悩みにぶつかることがよくあります。高域を削れば済みそうに思えますが、削ると今度はこもってしまい、どこまで削ればいいのか分からなくなりがちです。
キンキンする原因は一つではなく、録音、EQ、コンプ、ピッチ補正、聴く環境のどこで生まれたかによって直し方が変わります。この記事では、MIXの段階で原因を順にさかのぼる方法、痛い帯域の探し方と削る量の目安、削りすぎを防ぐ聴き比べ方を解説します。歌い方で高音の響きを整える方法と、サ行の刺さりの対策はそれぞれ別の記事で扱っているので、ここではMIXで起きるキンキンに絞ります。
最初に疑うのは、音より聴き方
意外と多いのが、音そのものより聴き方に原因があるケースです。人の耳は数kHzあたりの音にもともと敏感だとされ、音の大きさの感じ方を周波数ごとに表した等ラウドネス曲線(国際規格ISO 226)でも、このあたりは小さな音でも聞こえやすい帯域として示されています。再生音量を上げるほど、この帯域が強く感じられやすくなります。
確かめ方は簡単です。
- 普段より再生音量を下げて、もう一度通して聴く
- ヘッドホンだけでなく、スマホのスピーカーや普段使いのイヤホンでも聴く
- 長く作業したあとは、休憩を挟んでから聴き直す
特に3つ目は見落とされがちです。長時間同じ音を聴いていると耳が慣れて、少しずつ高域を足していってしまいます。夜に仕上げたMIXを翌朝聴いたら痛かった、という経験があるなら、作業時間の区切り方から見直す価値があります。
プラグインを全部外して、録ったままの声を聴く
次に、ボーカルトラックのプラグインをすべてバイパスして、録ったままの声をオケと一緒に聴きます。ここで判断が大きく分かれます。
録り音の時点で痛い場合
何も処理していないのにキンキンするなら、原因は録音の段階にあります。よくあるのは次のようなパターンです。
- マイクの特性。メーカーが公開している周波数特性のグラフで、数kHzから10kHzあたりが持ち上がった形をしているマイクがあります。明るく抜ける音になる反面、もともと明るい声と組み合わさると刺さりやすくなります
- マイクの向きと距離。口の正面に近い距離でマイクを向けると、息や子音の成分が強く入りやすくなります
- 喉を締めた張り上げ。高音を力で押し上げた声は、録音した時点で硬い音色になっています
- 部屋の反射。硬い壁に囲まれた場所で録ると、高域の反射が声に混ざります
この場合、まだ録り直せるなら、マイクの角度を少しずらす、距離を少し取る、といった録り方の工夫を試すのが近道です。歌い方の面からの対処は高音がキンキン・薄いを解決|響きを整えるコツにまとめています。録り直せないときは、後の章の手順で控えめに削ります。
録り音は大丈夫で、MIXのあとに痛い場合
バイパスした状態では問題がないなら、原因はMIXの処理のどこかです。チェーンの先頭から順に1つずつプラグインをオンに戻し、どこで痛くなったかを探します。複数のプラグインで少しずつ高域が足されて、合計で痛くなっていることもあるので、1つずつ確かめるほうが結局は早道です。
処理のどこで痛くなったか
EQで高域を足しすぎた
よく見かけるのがこのパターンです。「抜けがほしい」と中高域を持ち上げる→オケと混ぜると負けて聞こえる→さらに持ち上げる、という繰り返しで、気づくと声だけが硬く張り出しています。まずは足したバンドを0に戻し、それでも抜けが足りないなら、声を足すよりオケ側の同じ帯域を少し下げる方向から考えると、痛くなりにくくなります。
コンプを強くかけすぎている
強く圧縮すると、母音のように大きな成分は抑えられる一方で、子音や息のような小さな成分が相対的に持ち上がります。その結果、声が硬く、シャリついて聞こえるのはこのためです。ゲインリダクションのメーターが常に大きく振れているなら、かかる量を減らして比べます。原音と強く潰した音を混ぜるパラレルコンプを使っている場合は、潰した側の高域が混ざって痛くなっていないかも確かめます。
サチュレーションやエキサイターを足しすぎている
歪みや倍音を加える処理は、高い周波数の成分を新しく作ります。少量なら存在感につながりますが、足しすぎると高域がざらついて刺さります。比べるときは、オンとオフで音量をそろえることが大切です。音が大きいほうが良く聞こえる錯覚があるため、音量差があるままだと足しすぎに気づきにくくなります。
ピッチ補正で大きく動かした音
ピッチ補正で音程を大きく動かした箇所は、声色が細く、硬く聞こえる場合があります。曲全体ではなく、補正した高い音だけが痛いなら、この副作用を疑ってください。補正前と後を聴き比べ、動かす量を減らす、ソフトにフォルマント(声色を決める響きの特徴)を別に調整する機能があれば確かめる、その1音だけ録り直す、といった対処が考えられます。
リバーブの響きに高域が多い
声そのものではなく、後ろで鳴っている響きが原因のこともあります。明るいリバーブを深めにかけると、歌い終わりのあとに「シャー」という響きが残り、全体がキンキンした印象になります。センドで使っているなら、リバーブのトラックにEQを挿して高域を下げると、声の明るさを変えずに響きだけを落ち着かせられます。
残った痛さはEQで探して、少しだけ削る
原因の処理を見直しても残る痛さは、EQで整えます。EQの基本的な扱い方はボーカルEQの基本にまとめているので、ここではキンキン対策に絞った探し方を紹介します。
- 再生音量を下げておく。探す途中で耳に強い音が入るので、普段より小さめにしておきます
- Qを狭めたバンドを大きめに持ち上げる。この状態でゆっくり周波数を動かし、痛さが強く出る位置を探します
- 持ち上げを戻し、その位置を少し削る。まずは2〜3dB程度から試すのが目安です
- オケと一緒に聴いて判断する。声だけで聴くと削りすぎやすいため、最後はオケと重ねた状態で決めます
削る位置の手がかりとして、帯域ごとのおおよその傾向を表にしておきます。声の高さや曲によって位置はずれるので、あくまで探し始めの目安です。
| 帯域の目安 | 聞こえ方 | 向いている処理 |
|---|---|---|
| おおよそ2〜5kHz | 声の芯が硬い、張り上げで刺さる | 狭めに少し削る。音程によって出たり出なかったりするならダイナミックEQ |
| おおよそ5〜8kHz | サ行やシ・チなどの子音が刺さる | ディエッサー |
| おおよそ8kHz以上 | 息やノイズがシャリシャリする | 高域を広くなだらかに下げる |
サ行の刺さりは、帯域を丸ごと下げるより、専用の処理に任せたほうが自然に仕上がりやすい部分です。詳しくはサ行が耳につく「歯擦音」の抑え方をご覧ください。
ここでの分かれ目は、痛さがいつ出ているかです。曲の最初から最後までずっと痛いなら、普通のEQで常に削って問題ありません。一方、サビの高い音程や「イ」「エ」の母音のときだけ刺さるなら、常に削ると他の部分までこもってしまいます。こういう場合は、その帯域が強く出た瞬間だけ削るダイナミックEQが向いています。仕組みと設定の手順はダイナミックEQとはで解説しています。
こもらせないための止めどころ
キンキンを気にしすぎると、今度は削りすぎて、声がこもったり歌詞が聞き取りにくくなったりします。止めどころを決めるために、次の3つを確かめてください。
- 同じジャンルの完成曲と比べる。音量をそろえて切り替えながら聴き、声の明るさが極端に違わないかを見ます。明るさの基準がないまま削ると、どこまでも暗くしてしまいがちです
- 小さい音量で歌詞が追えるか。削ったあとに歌詞が聞き取りにくくなったなら、削りすぎのサインです
- 削ったバンドをオンとオフで切り替える。オフにしたほうが自然に聞こえるなら、削る量か位置を見直します
削ったあとに「こもった」と感じたとき、別の帯域を足して埋め合わせたくなりますが、まずは削った量を少し戻すほうが元の声の質感を保ちやすくなります。足して削ってを繰り返すと、また最初のキンキンに戻ってしまうことがあるからです。
女性ボーカルの高いキーの曲や、男性の張り上げが続くロック調の曲は、キンキンしやすい代表的な場面です。こうした曲では、録音の段階からマイクの角度や距離を意識し、MIXでは足す処理を最小限にする、という両面から整えていくと、耳に痛くない明るさを保ちやすくなります。
さかのぼる順番のチェック表
最後に、ここまでの確かめ方を順番どおりに並べておきます。いきなりEQで高域を削る前に、上から1つずつ当てていくと遠回りが減ります。
| 順番 | 確かめること | 原因だった場合の主な対処 |
|---|---|---|
| 1 | 再生の音量と聴いている機材 | 音量を下げ、別の機材でも聴く |
| 2 | プラグインを全部オフにした録り音 | 録り直しを検討する、または控えめに削る |
| 3 | EQで高域を足していないか | 足した分を戻してから考える |
| 4 | コンプ・サチュレーションのかけすぎ | かかる量を減らし、音量をそろえて比べる |
| 5 | ピッチ補正で大きく動かした箇所 | 補正量を減らす、その音だけ録り直す |
| 6 | リバーブの響きの高域 | リバーブ側の高域を下げる |
当てはまった所が見つかったら、まずはそこだけを直して聴き直す。そのうえで残った痛さを、曲全体でずっと痛いなら普通のEQ、特定の音程や言葉のときだけならその瞬間だけ抑える処理、サ行ならディエッサーで整えます。



















