パラレルコンプとは|ボーカルを潰さず前に出すMIXの手順

パラレルコンプとは|ボーカルを潰さず前に出すMIXの手順

※記事内で紹介している商品の価格・在庫状況は変動します。最新の情報は各リンク先(Amazon・楽天市場)でご確認ください。


ボーカルにコンプを強めにかけると、声は前に出てくるものの、どこか平べったく息苦しい音になる。かといって弱めると、Aメロのささやくようなフレーズがオケに沈んでしまう。歌ってみたのMIXでは、この「潰したくないけれど、小さい所は聞こえてほしい」という板挟みによく出会います。

その間を取る方法として知られているのが、パラレルコンプ(パラレルコンプレッション)です。この記事では、パラレルコンプの考え方、DAWのセンドで作る方法とプラグインのMixつまみで作る方法、混ぜる量の決め方、見落としやすい遅延のずれ、そして普通のコンプやほかの処理で足りる場面までを順に解説します。スレッショルドやアタックといったつまみの意味は別の記事で詳しく扱っているので、ここでは「潰した音をどう混ぜるか」に絞ります。

先に要点だけ:原音に、潰した音を少し足す

パラレルコンプは、手を加えていない原音と、強くコンプをかけた音を並べて鳴らし、後者を少しだけ混ぜる方法です。作り方は大きく2つあります。

比べる点センド(バス)で作るプラグインのMixつまみで作る
準備コンプを挿した別トラックを作り、ボーカルから送るコンプのMix(Dry/Wet)つまみを下げるだけ
自由度潰した音だけにEQやディエッサーを挿せるそのプラグインの中で完結する
気をつける点原音との時間のずれ(遅延)Mixつまみがないプラグインでは使えない
向いている人潰した音の質感まで作り込みたい人まず手軽に試したい人

混ぜる量は、潰した音を下げきった位置から上げていき、小さなフレーズが聞き取れるようになったところで止めるのが基本の考え方です。張り上げた部分が平たく聞こえ始めたら混ぜすぎのサインです。

仕組み:上を削らず、下を持ち上げる

普通のコンプは、スレッショルドを超えた大きな音を抑えて、音量の差を縮めます。サビの張り上げが抑えられる代わりに、強くかけると声のアタック(言葉の頭の勢い)や抑揚まで一緒に削られます。

パラレルコンプでは、原音はそのまま鳴っています。そこに、大きい所も小さい所も同じくらいの音量に潰した音を足すと、もともと大きい部分は原音が支配的なのでほとんど変わらず、もともと小さい部分(語尾、ささやき、伸ばした音の消え際)だけが底上げされます。上を削るのではなく下を持ち上げて差を縮める、と説明されることが多いのはこのためです。ニューヨーク・コンプレッションという呼び名で紹介されることもあります。

AppleのLogic Proユーザガイド(英語版)でも、コンプレッサーのMixつまみについて、ドライ(原音)とウェット(エフェクト音)のバランスを決め、ピークを抑える方向にも、小さな信号のレベルを上げる方向にも使える、という説明があります。

歌ってみたで試す価値があるのは、たとえば次のような場面です。

  • Aメロはささやき、サビは張り上げと、1曲の中で声量の差が大きい
  • バラードで、伸ばした音の語尾がすっと消えてしまう
  • ギターが厚いロック調のオケで、声が細く聞こえる
  • コンプを強めると前に出るが、言葉の頭の勢いがなくなるのが気になる

2通りの作り方

方法1:センド(バス)で作る

多くのDAWで使える、昔からある作り方です。手順は次のとおりです。

  1. 潰す用のトラックを作る。FXチャンネルやAUXトラックなど、センドの受け皿になるトラックを1本作り、コンプを挿します。このコンプにMixつまみがあるなら100%(ウェットのみ)にしておきます。原音はボーカルトラックから鳴っているので、ここで原音まで出すと二重になるためです。
  2. ボーカルから送る。ボーカルトラックのセンドをこのトラックに向けます。ポストフェーダーで送ると、ボーカルのフェーダーを動かしても原音と潰した音の比率が崩れにくくなります。
  3. 思い切って潰す。レシオは高め、スレッショルドは低めにして、ゲインリダクションのメーターが大きく振れる状態にします。どのくらい潰すかに決まった数値はありません。潰した音だけを単独で聴いて、音量の起伏がほとんどなくなっていれば十分です。
  4. 戻りのフェーダーを下げきった位置から上げる。原音を鳴らしたまま、潰した側のフェーダーをゆっくり上げます。「足したと分かる」ところの少し手前が、出発点の目安です。
  5. オンとオフで聴き比べる。潰した音を足すと全体の音量も上がるので、ボーカルのフェーダーを少し下げて大きさをそろえてから比べます。音が大きいほうが良く聞こえる錯覚を避けるためです。

センドで作る利点は、潰した音にだけ別の処理を足せることです。強く潰した音は、低域のもたつきやサ行の刺さりも一緒に持ち上がりやすいので、戻りトラックで低域を切ったり、ディエッサーを挿したりすると、原音の質感を変えずに整えられます。インサートとセンドの違いや、挿す順番の考え方はボーカルMIXのエフェクトの順番で解説しています。

方法2:プラグインのMixつまみで作る

最近のコンプには、「Mix」「Dry/Wet」「Blend」といった名前で、原音と処理後の音の割合を決めるつまみを持つものがあります。100%なら普通のコンプとして働き、下げていくほど原音が混ざります。つまり、このつまみを下げるだけでパラレルコンプになるわけです。

手順はシンプルです。まずMixを100%にした状態で、センドのときと同じように強めに潰します。次にMixを下げていき、原音の勢いが戻ってきて、なおかつ小さなフレーズが聞き取れる位置を探します。どこから試すか迷ったら、潰した音が少数派になる側(原音が多い側)から始めると、やりすぎを避けやすくなります。

手軽な反面、潰した音だけにEQをかけることはできません。潰した音のシャリつきや低域が気になったときは、センドの方式に切り替えるか、プラグインの中にある機能(サイドチェインのフィルターなど)で対応できるかを、その製品の説明書で確かめてください。つまみの名前や働き方は製品によって違います。

センドで作ったら、遅延と位相のずれを確かめる

センドで作るときに見落としやすいのが、原音と潰した音の時間のずれです。プラグインの中には、処理のためにわずかに音を遅らせるもの(先読みをするコンプなど)があります。潰した側だけが遅れて鳴ると、同じ声が少しずれて重なり、声がこもったり、シュワシュワとした細い音になったりします。

多くのDAWには、プラグインの遅延を自動でそろえる機能があります。CubaseではPlug-in Delay Compensation(プラグインの遅延補正)と呼ばれ、録音時に遅延を減らすために補正を制限する「Constrain Delay Compensation」という機能も用意されています。Steinbergの公式ヘルプ(英語版)では、制限をオンにすると低遅延モードのないプラグインが無効になること、録音が終わったらオフに戻すことが案内されています(2026年10月時点)。録音のときにこうした設定を使ったなら、MIXの前に元に戻しておきましょう。

ずれていないかは、次の方法で確かめられます。

  1. 潰す側のコンプをバイパス(素通し)にする
  2. 原音と同じくらいの音量になるまで、戻りのフェーダーを上げる
  3. 戻りトラックの位相反転(極性反転)ボタンを押す

時間がそろっていれば、同じ音が逆向きに重なって、声はほとんど聞こえなくなるはずです。はっきり声が残るなら、どこかで遅延が生まれています。確かめ終わったら、位相反転とバイパスを元に戻すのを忘れないでください。なお、Mixつまみで作る方法はプラグインの内部で原音と処理後の音を混ぜるので、この種のずれは起きにくいと考えられています。

どこまで混ぜるか

混ぜる量を決めるときは、サビではなく声の小さいフレーズを基準に聴くと決めやすくなります。Aメロの語尾や、落ちサビの最初の一言など、これまで沈んでいた所が聞き取れるようになったら、そこで止める候補です。

一方で、混ぜすぎたときに歌ってみたの宅録で起きやすいのが、ブレスや部屋の響き、リップノイズが目立ち始める現象です。潰した音は小さな音ほど持ち上げるので、歌の合間の息や、録音した部屋の反響も一緒に大きくなります。ブレスが急に生々しく聞こえたり、歌い終わりのあとに部屋の「わーん」という響きが残ったりしたら、混ぜる量を戻すか、潰した側のスレッショルドを見直してください。

ほかにも、次のような変化はやりすぎのサインです。

  • サビの張り上げが、勢いではなく「押しつぶされた」感じに聞こえる
  • 声が前に出たというより、ずっと同じ大きさで張り付いて聞こえる
  • 小さい音量で再生すると、オケより声だけが目立つ

もう一つの分かれ目は、「サビではちょうどいいのに、Aメロでは足りない(またはその逆)」という状態です。これはパラレルコンプの量で解決しようとするより、セクションごとの音量をクリップゲインやオートメーションで先にそろえたほうが早いことが多い場面です。パラレルコンプは、ある程度そろった声に「張り」を足す仕上げの道具と考えると、使い所を見失いにくくなります。

パラレルコンプでなくてもいい場面

パラレルコンプは便利ですが、どんな悩みにも合うわけではありません。症状ごとに、先に試したい処理をまとめておきます。

気になること先に試したいこと
1語だけ大きく飛び出すその部分のクリップゲインやオートメーションで下げる
全体の音量差がほどほどにある1台のコンプを軽めにかける
高い音程のときだけ耳に痛いその帯域だけを動的に抑えるダイナミックEQ
声がオケに埋もれるオケ側の同じ帯域を削る、音量の基準を見直す
声に厚みや存在感が欲しいサチュレーションを薄くかける

1台のコンプの設定の決め方はボーカルのコンプ設定、高い音だけ痛い場合はダイナミックEQとは、オケに沈む問題の全体像はボーカルがオケに埋もれるときの直し方が参考になります。潰した音を足したあとに声が硬く耳に刺さるようになった場合は、ボーカルがキンキンする原因の切り分け方が使えます。

また、MIXを依頼する予定なら、パラレルコンプをかけたボーカルを素材として渡すのは避けます。どれだけ潰すか、どのくらい混ぜるかはMIX師さんがオケと合わせて判断する部分なので、素材はエフェクトのない状態で渡すのが基本です。

まとめ

  • パラレルコンプは、原音を残したまま強く潰した音を少し足し、小さな部分を持ち上げる方法です
  • 作り方は、センドで別トラックに送る方法と、コンプのMixつまみを下げる方法の2つ
  • 混ぜる量は、小さなフレーズを基準に、潰した音を下から上げて決めます
  • ブレスや部屋の響きが目立ってきたら、混ぜすぎのサインです
  • センドで作るときは、遅延補正の設定と位相反転での確認を忘れずに

最初の一歩は、いつも使っているコンプにMixつまみがあるかを確かめることです。あれば少しだけ下げ、Aメロの語尾が聞き取れるようになるかを、自分の録音で聴き比べます。



歌い手部公式ボイトレテキスト
絶対歌唱力トレーニングブック

歌い手部公式のボイストレーニング教本がついに登場!「歌が上手くなりたい!」という人の夢を叶える最初の一歩になるべく、歌で最も大切な「絶対歌唱力」を徹底的に身につけられる内容にしました。期間限定で無料プレゼント中なので、今すぐ手に入れよう!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です