コンプレッサーを挿してみたものの、スレッショルド、レシオ、アタック、リリースと並んだつまみを前に、「どれをどのくらい回せばいいのかわからない」と感じていませんか。プリセットを選んでみても、かかっているのかいないのか、かけすぎなのかの判断がつかず、なんとなくのまま進めてしまう方は少なくありません。
この記事では、歌ってみたのボーカルにコンプをかけるときの、各つまみの決め方を順番に解説します。コンプの機種選びではなく、手元のコンプ(DAW付属のものでも構いません)をどう設定するかに絞った内容です。数値はソフトの公式マニュアルに載っている範囲や例をもとにしていますが、声や録音によって合う値は変わるので、あくまで「決め方の手順」として読んでください。
結論:つまみごとの役割と、決める順番
まず全体像です。上から順に決めていくと迷いにくくなります。設定範囲はCubase付属のCompressorの公式マニュアルに載っているもので、ほかのコンプでも考え方は同じです。
| 順番 | つまみ | 決めること | 設定範囲の例(Cubase Compressor) | 決めるときの見方 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | レシオ(Ratio) | 超えた分をどれだけ抑えるか | 比率で指定 | 弱めの比率から始める |
| 2 | スレッショルド(Threshold) | どの大きさから抑え始めるか | -60〜0dB | 大きいフレーズでだけメーターが動く位置 |
| 3 | アタック(Attack) | 超えてから抑え始めるまでの速さ | 0.1〜100ms | 言葉の頭の子音が引っ込まないか |
| 4 | リリース(Release) | 下回ってから元に戻るまでの時間 | 10〜1000ms、またはAuto | フレーズの間で息や雑音が膨らまないか |
| 5 | メイクアップ(Make-up) | 抑えて下がった音量を戻す | 0〜24dB、またはAuto | オンとオフで音量がそろうか |
ポイントは、レシオとスレッショルドで「どれだけかけるか」を決め、アタックとリリースで「どうかかるか」を決め、最後にメイクアップで音量を戻すという3段階で考えることです。
設定の前に確認しておきたいこと
何のためにかけるのかを1つ決める
コンプで整えたいことは、人によって違います。「サビだけ大きすぎる」「語尾が消えて聞き取りにくい」「ときどき一音だけ飛び出す」など、特に気になっている症状を1つ決めてから設定を始めると、どこで止めればよいかがはっきりします。目的がないまま回すと、かけすぎに気づきにくくなります。
録音レベルと、極端な音量差
スレッショルドはdBの数字で決めるので、録音レベルによって合う値が変わります。小さく録った声では、同じ設定でもコンプがほとんど反応しません。録音レベルの目安は録音レベル(ゲイン)設定の記事で確認してください。
→ 歌ってみたの録音レベル(ゲイン)設定|音割れ・小さすぎを防ぐ合わせ方
また、Aメロとサビでまったく音量が違うような大きな差は、コンプだけで揃えようとすると強くかけざるを得ず、不自然になりやすいです。大きな差は先に波形の音量(クリップゲイン)で近づけておき、コンプには細かい揃えを任せる、という分担がおすすめです。コンプをEQやディエッサーのどこに置くかは、エフェクトの順番の記事で整理しています。
→ ボーカルMIXのエフェクトの順番|EQ・コンプ・空間系の挿す順
スレッショルドとレシオ:どれだけかけるかを決める
2つはセットで動く
スレッショルドは「この大きさを超えたら抑える」という線、レシオは「超えた分をどのくらい縮めるか」という比率です。Logic Proのユーザガイドには、次のような例が載っています。
- スレッショルドを-20dB、レシオを4:1に設定する
- -16dBのピーク(スレッショルドより4dB上)が入ってくる
- 超えた4dBが4分の1の1dBに縮められ、出力は-19dBになる(3dB下がる)
つまり、同じ音でもスレッショルドを下げれば抑える範囲が広がり、レシオを上げれば抑え方が強くなります。たとえばスレッショルドを8dB超える大きな声が来たとき、レシオごとの結果は次のように計算できます。
| レシオ | 出力で超える量 | 下がる量 |
|---|---|---|
| 2:1 | 4dB | 4dB |
| 3:1 | 約2.7dB | 約5.3dB |
| 4:1 | 2dB | 6dB |
決め方の手順
- レシオを弱めにしておく:たとえば2:1のような控えめな比率から始めます
- 曲の中で特に大きく歌うところを再生する:サビなど、抑えたい場所をループさせます
- スレッショルドを0dBから少しずつ下げる:ゲインリダクション(GR)メーターが、大きいフレーズで動き始める位置を探します
- 静かなフレーズも再生する:Aメロなどでメーターがほとんど動かず、0付近に戻っていれば、大きいところだけを抑えられています
- 足りなければレシオを上げる:スレッショルドを下げすぎるより、レシオを少し上げるほうが、静かな部分まで抑えずに済みます
ニー(Knee)はなめらかさの調整
ニーは、スレッショルド付近で急に抑えるか、なだらかに抑え始めるかを決めるつまみです。Appleのガイドでは、0に近いとスレッショルドで急に抑えるハードニー、値を上げると滑らかに変化するソフトニーになると説明されています。ボーカルで「抑えたところが急に引っ込む」と感じたら、ソフト寄りにしてみてください。
アタックとリリース:どうかかるかを決める
アタックは「言葉の頭」で判断する
アタックは、スレッショルドを超えてから抑え始めるまでの時間です。Logic Proのガイドでは、声のように最初の立ち上がりで音の特徴が決まるものを圧縮するときは、アタックを高めの値にして立ち上がりが失われないようにする、と説明されています。Cubaseのマニュアルでも、アタックが長いほど、信号の最初の部分が処理されずに通過すると書かれています。
- 速すぎると、「か」「た」などの子音の頭まで抑えられ、声がこもったり、言葉が引っ込んだりして聞こえやすくなります
- 遅すぎると、大きな声の頭がすり抜けて、抑えたいピークが残ります
速めから少しずつ遅くしていき、子音がはっきり聞こえ始めたところを目安にします。
リリースは「フレーズの間」で判断する
リリースは、音がスレッショルドを下回ってから、抑えるのをやめるまでの時間です。Appleのガイドでは、リリースを長くするとダイナミクスの差が均等化され、短くすると差が強調されると説明されています。
- 短すぎると、抑える・戻すが細かく繰り返され、音量が揺れるように聞こえたり、フレーズの間の息や雑音が急に持ち上がったりします
- 長すぎると、大きなフレーズのあと次のフレーズまで抑えたままになり、歌い出しが小さく聞こえます
GRメーターが、フレーズの切れ目でゆっくり0に戻っていく様子を見ながら合わせると判断しやすくなります。迷ったら、CubaseのようにAutoリリースがあるコンプでは、それを出発点にするのもひとつの方法です。
なお、Appleのガイドには、アタックとリリースの結果は素材の種類だけでなく、レシオやスレッショルドの設定によっても大きく変わる、という注意もあります。レシオやスレッショルドを動かしたら、アタックとリリースも聞き直してください。
メイクアップとメーターの読み方
メイクアップは「比べるため」に合わせる
コンプは音を抑えるので、かけると全体の音量が下がります。これを戻すのがメイクアップです。大事なのは、コンプのオンとオフで音量がほぼ同じになるように合わせてから比べることです。音量が上がっただけで「良くなった」と感じてしまう聞き間違いを防げます。
自動でメイクアップするAuto機能は便利ですが、Logic Proのガイドには、Auto GainとRMSを同時にオンにすると信号が過飽和になることがあり、歪みを感じたらAuto Gainをオフにしてメイクアップを手動で調整するよう注意書きがあります。
PeakとRMSの切り替え
音の大きさをピーク(瞬間の最大値)で見るか、RMS(平均的な大きさ)で見るかを選べるコンプもあります。Cubaseのマニュアルでは、一般的な目安として、ボーカルのように不連続な部分が少ない素材にはRMSが、パーカッシブな素材にはピークが向いているとされています。
GRメーターは「どこで動いているか」を見る
ゲインリダクションの数字が何dBかよりも、どのフレーズで動いて、どのフレーズで休んでいるかを見るほうが役に立ちます。曲の最初から最後までメーターが動きっぱなしなら、スレッショルドが低すぎる可能性があります。
うまくいかないときの切り分け
| 症状 | 疑うつまみ | 試すこと |
|---|---|---|
| 声がこもる・言葉が引っ込む | アタック | アタックを遅くして、子音の頭を通す |
| 大きな声の頭だけ飛び出す | アタック | アタックを少し速くする |
| 息継ぎや部屋の雑音が目立つ | スレッショルド・リリース | スレッショルドを上げる。リリースを長めにする |
| 抑揚がなく平坦に聞こえる | レシオ・スレッショルド | レシオを下げ、抑える範囲を大きいところだけにする |
| 音量が揺れるように聞こえる | リリース | リリースを長めにする |
| かけても音量が上がらない | メイクアップ | 下がった分をメイクアップで戻す |
| コンプをかけたらサ行が痛い | 順番 | コンプの後ろにディエッサーを置く |
1台で強くかけて不自然になる場合は、弱めのコンプを2台並べて少しずつ抑える方法もあります。また、録音時にコンプをかけて録る「かけ録り」は、あとから取り消せません。MIXを依頼する予定があるなら、素の状態で録っておくほうが安心です。実機とプラグインの違いや、かけ録りが向いている人については、コンプレッサーの選び方の記事で詳しく扱っています。
→ 歌ってみた用コンプレッサーの選び方【実機とプラグインの違い】
コンプを決めたあとは、声の小さい部分が持ち上がったぶん、リバーブへの送り量も変わって聞こえます。空間系はコンプのあとで合わせ直してください。
→ リバーブとディレイの違い|歌ってみたのボーカルにかける量と使い分け
コンプでは抑えきれない、張った声のこもりや高い音の刺さりを出たときだけ削る方法は、ダイナミックEQの使い方で詳しくまとめています。
まとめ
- レシオとスレッショルドで「どれだけ」、アタックとリリースで「どう」かけるかを決め、最後にメイクアップで音量を戻す
- レシオは弱めから。スレッショルドは、大きいフレーズでだけメーターが動く位置まで下げる
- アタックは言葉の頭の子音、リリースはフレーズの間の息や雑音を聞いて決める
- オンとオフは音量をそろえてから比べる。数字よりも、メーターがどこで動いているかを見る
- 大きな音量差は先に波形の音量で近づけ、コンプには細かい揃えを任せる
コンプは、かかり具合が目に見えにくいぶん、手順で決めるのが近道です。まずは1曲、特に気になる症状を1つだけ決めて、上の順番でつまみを動かしてみてください。



















