マイクの商品ページや仕様表を見ると、「単一指向性」「カーディオイド」「無指向性」「双指向性」といった言葉が並んでいます。ハート形や8の字のマークが描かれたスイッチが付いているマイクもあり、どれを選べばいいのか、どの向きで使えばいいのか迷う方は多いと思います。
指向性は、マイクがどの方向の音をどれくらい拾うかを表す性質です。種類の名前を覚えるだけでなく、「どの方向の音を拾いにくいか」まで知っておくと、自宅の録音でマイクの向きや置き場所を決めやすくなります。
この記事では、指向性の種類と仕組み、仕様表に載っている指向性の図(ポーラーパターン)の読み方、宅録でのマイクの向け方を、歌ってみたを自宅で録る場面に合わせて解説します。特定の機種のおすすめではなく、選ぶときと使うときの「見方」に絞っています。
結論早見表:指向性の種類と宅録での使いどころ
まずは全体像です。角度の数字は、デンマークのマイクメーカーDPAが仕様の読み方として公開している解説にもとづく、理想的なパターンでの目安です。実際のマイクは機種や音の高さによって形が変わります。
| 指向性 | よく拾う方向 | 拾いにくい方向の目安 | 宅録での使いどころ |
|---|---|---|---|
| 無指向性(全指向性) | 全方向をほぼ均等に | 特になし | 響きを整えた部屋、複数人で囲んで録るとき |
| 単一指向性(カーディオイド) | 正面〜横 | 真後ろ(180°) | ひとりで歌を録るときの基本 |
| スーパーカーディオイド | 正面(カーディオイドより狭い) | 斜め後ろ(約135°) | 周りの音を減らしたいとき。真後ろは少し拾う |
| ハイパーカーディオイド | 正面(さらに狭い) | 斜め後ろ(約115°) | 口の位置を固定して歌えるとき |
| 双指向性(8の字) | 正面と真後ろ | 真横(90°) | 2人が向かい合って録るとき |
迷ったら、ひとりで歌を録るなら単一指向性(カーディオイド)から始めるのが一般的です。ただし単一指向性でも部屋の反射音は入るので、「指向性で防げること・防げないこと」を分けて考えるのが大切です。
指向性とは:マイクの「耳の向き」を表す性質
指向性は、正面から来た音を基準にして、横や後ろから来た音がどれくらい小さく録れるかを表したものです。正面と同じ大きさで拾う方向が広いほど「指向性が広い」、狭いほど「指向性が鋭い」と言います。
指向性と「ダイナミック/コンデンサー」は別の話
よく混同されますが、ダイナミックマイクかコンデンサーマイクかは「音を電気に変える方式」の違いで、指向性とは別の項目です。ダイナミックマイクにも単一指向性や無指向性がありますし、コンデンサーマイクにも単一指向性や双指向性があります。仕様表では「形式」と「指向性」の欄を分けて確認しましょう。指向性を切り替えられるマイクはコンデンサー型に多く見られます。
指向性が生まれる仕組み
DPAの解説によると、振動板の片面だけで音を受ける構造は全方向から均等に拾う無指向性になり、振動板の両面で音を受ける構造は前後を拾って横を拾わない双指向性になります。単一指向性(カーディオイド)の仲間は、この2つの性質を組み合わせて作られています。指向性を切り替えられるマイクは、内部に2枚の振動板を持ち、その組み合わせ方を変えることで種類を切り替えているものが多いです。
指向性の種類ごとの特徴
無指向性(全指向性):向きのズレに強いが、部屋の音も入る
全方向の音をほぼ同じように拾います。歌う人が少し動いても音色が変わりにくいのが長所です。一方で、壁からの跳ね返りやエアコンの音も同じように拾うため、響きや生活音の多い部屋ではそのまま入ってしまいます。仕様表では「全指向性」と書かれていることもあります。
単一指向性(カーディオイド):宅録ボーカルの基本
正面の音をよく拾い、真後ろの音を拾いにくい形です。DPAの解説では、理想的なカーディオイドは真横(±90°)で正面より約6dB小さくなるとされています。つまり横の音はそれなりに入り、強く減るのは真後ろです。「単一」という名前から正面しか拾わないように思えますが、横からの音も録れている点は覚えておきましょう。
スーパー/ハイパーカーディオイド:正面が狭く、後ろに小さな「耳」がある
カーディオイドより正面の範囲が狭く、横の音をより抑えます。その代わり、真後ろにも小さく拾う範囲があり、拾いにくい方向は斜め後ろにずれます。DPAの解説では、スーパーカーディオイドは約±135°、ハイパーカーディオイドは約±115°の方向がほぼ拾わない向きとされています。口がマイクの正面から外れると声が細くなりやすいので、スタンドやアームで固定して、同じ位置で歌える人に向いています。
双指向性(8の字):前後を拾い、真横を拾わない
正面と真後ろを同じように拾い、真横はほとんど拾いません。2人がマイクを挟んで向かい合えば、1本のマイクで2人の声を同じように録れます。ひとりで歌うときに使うと、背後の壁の反射音も正面と同じくらい入るので、宅録のソロボーカルで選ぶ場面は多くありません。
ポーラーパターン(指向性の図)の読み方
仕様表や説明書には、丸い図で指向性が描かれていることがあります。これを「ポーラーパターン」と呼びます。見方を知っておくと、名前だけではわからない違いが見えてきます。
- 上が正面(0°):図の上側がマイクの正面です。左右と下は、横と後ろを表します
- 円は音の大きさ(dB):外側の円が正面と同じ大きさ(0dB)で、内側に向かうほど小さく録れることを示します。DPAの解説では、太い円の間隔は一般に5dBごととされています
- 線が内側にへこんでいる方向が「拾いにくい方向」:線が中心近くまで入り込んでいる向きが、雑音源を置きたい方向です
- 線が何本もあるときは音の高さ別:250Hz、1kHz、4kHzのように周波数ごとに線が分かれていることがあります
4つめは見落とされがちです。指向性は音の高さによって変わります。DPAの解説では、無指向性のマイクでも高い音では正面寄りに拾う傾向が出るとされています。単一指向性のマイクも、低い音では後ろの音を思ったより拾うことがあります。図の線が音の高さごとに大きく違うマイクは、横や後ろから入った音の音色が変わりやすい、という読み方ができます。
また、指向性の図はふつう1〜2mほど離れた位置で測られています。口を近づけて歌う宅録とは条件が違うので、図はあくまで「どの方向が拾いにくいか」をつかむために使いましょう。図以外の数字(感度や周波数特性など)の読み方はマイクのスペックの見方で解説しています。
宅録でのマイクの向け方と置き方
まず「どこが正面か」を確かめる
マイクには、先端に向かって歌う「エンドアドレス型」と、側面に向かって歌う「サイドアドレス型」があります。ボーカル向けの大きめのコンデンサーマイクはサイドアドレス型が多く、正面と裏面を間違えると、単一指向性なら声がこもって小さく録れます。ロゴや正面のマークの位置は機種ごとに違うので、説明書で確認してから設置しましょう。
拾いにくい方向に、うるさいものを向ける
指向性をいかすコツは、マイクを声に向けることと同じくらい、拾いにくい方向を雑音源に向けることです。
- 単一指向性:パソコンのファン、エアコン、ドアなどがマイクの真後ろに来るように置く
- スーパー/ハイパーカーディオイド:真後ろではなく、斜め後ろに雑音源が来るように少し角度をつける
- 双指向性:真横に雑音源が来るように置く
モニタースピーカーで伴奏を流しながら録ると、正面以外からでも音が入ります。録音中はモニターヘッドホンで聴くのが基本です。
指向性は「部屋の反射音」までは防げない
単一指向性のマイクは正面を歌う人に向けています。ということは、歌う人の背後の壁から跳ね返った声は、マイクの正面から入ってきます。背中側の壁が近く、何もない平らな面だと、お風呂のような響きが乗りやすくなります。対策は、歌う人の後ろ(マイクから見て正面の奥)に毛布や厚手のカーテンを置くことです。録る場所の選び方は歌ってみたの録り環境の作り方にまとめています。
近づくと低音が増える「近接効果」
単一指向性や双指向性のマイクは、口を近づけるほど低い音が強く録れる性質があります。これを近接効果と呼びます。ShureのSM58のユーザーガイドでは、音源から約6mmまで近づくと100Hz以下が6〜10dB持ち上がるとされています。DPAの解説では、無指向性のマイクには近接効果が出ないとされています。
近接効果があると、歌の途中で口とマイクの距離が変わるたびに声の太さが変わって聞こえます。拳ひとつ分など自分なりの距離を決めて、録り直しのときも同じ距離にそろえておくと、テイクをつなぎやすくなります。
切り替え式マイクの設定と、ほかの指向性を選ぶ場面
USBマイクやコンデンサーマイクには、単一指向性・無指向性・双指向性、ステレオなどを切り替えられる機種があります。ひとりで歌を録るときは、録る前にスイッチが単一指向性(ハート形のマーク)になっているかを確かめましょう。前回の配信や対談で切り替えたまま戻し忘れると、部屋の響きが多く入った音になります。
切り替えると、拾う方向だけでなく録れる音量やノイズの量も変わることがあります。例えばソニーのコンデンサーマイクC-100の仕様表では、正面感度が単一指向性で-31dB、全指向性で-37dB、両指向性で-35dBと、指向性ごとに違う値が書かれています。指向性を変えたら、録音レベルも合わせ直すと覚えておきましょう。
ほかの指向性を選ぶのは、次のような場面です。
- 無指向性:吸音を整えた部屋で、自然な響きを含めて録りたいとき。歌いながら体が動きやすい人
- 双指向性:2人で向かい合ってデュエットやハモリを同時に録るとき
- ステレオ:ギターの弾き語りや環境音など、左右の広がりを録りたいとき。ボーカルを1本で録る歌ってみたでは、ふつうは使いません
USBマイク選びの全体の流れはUSBマイクの選び方、XLR接続のコンデンサーマイクはコンデンサーマイクの選び方で紹介しています。コンデンサーマイクを使う場合に必要な電源についてはファンタム電源とはをあわせてどうぞ。
まとめ:名前より「拾いにくい方向」で考える
指向性は、マイクがどの方向の音をどれくらい拾うかを表す性質です。宅録で押さえておきたいのは次の4点です。
- ひとりで歌を録るなら、単一指向性(カーディオイド)が基本
- 単一指向性でも横の音は入る。強く減るのは真後ろで、スーパー/ハイパーは斜め後ろ
- 拾いにくい方向にパソコンやエアコンを向け、歌う人の背後には布を置いて反射を減らす
- 近接効果があるので、口とマイクの距離はテイクごとにそろえる
指向性の名前を覚えるよりも、「このマイクはどこが耳で、どこが耳をふさいでいるか」をイメージして置き場所を決めるほうが、録り音の違いにつながりやすくなります。まずは今あるマイクの正面と指向性スイッチの位置を確かめるところから始めてみてください。



















