マイクを選ぶときにメーカーの仕様表を開くと、「感度 -37dB」「周波数特性 20Hz〜20kHz」「最大SPL 144dB」「自己雑音 16dB(A)」のような数字が並んでいます。比べようとしても、マイナスの数字が大きいほうがいいのか、小さいほうがいいのか、そもそも何を表しているのかがわかりにくいですよね。
仕様表の数字は、音の良し悪しを点数にしたものではなく、つなぐ機器や録る環境との相性を見るための情報です。項目ごとに「何がわかるか」と「宅録でどこを見るか」を押さえれば、カタログの数字を判断材料として使いやすくなります。
この記事では、マイクの仕様表によく出てくる項目の意味と単位の読み方、数字を比べるときの注意点を、歌ってみたを自宅で録る場面に合わせて解説します。具体的な機種のおすすめではなく、「読み方」に絞った内容です。
結論早見表:仕様表の項目と宅録での見方
| 項目 | 書き方の例 | 何がわかるか | 宅録での見方 |
|---|---|---|---|
| 感度 | -40dBV/Pa、10mV/Pa | 同じ声でどれくらいの電気信号が出るか | 低いマイクほどゲインを多く上げる必要がある |
| 周波数特性 | 50Hz〜15kHz、グラフ | どの高さの音をどれくらい拾うか | 範囲の数字よりグラフの形を見る |
| 自己雑音(固有雑音) | 16dB(A)、19dB SPL | マイク自体が出す「サー」というノイズ | 小さいほど静か。主にコンデンサーマイクで見る |
| S/N比・ダイナミックレンジ | 78dB、113dB | ノイズと信号・上限との差 | 大きいほど静か・余裕がある |
| 最大入力音圧レベル(最大SPL) | 132dB SPL(THD 1%) | この音量を超えると歪みが増える上限 | 歪みの条件(%)を一緒に見る |
| インピーダンス | 150Ω、300Ω | マイクの出力側の電気的な性質 | XLRでインターフェースにつなぐなら気にしすぎなくてよい |
| 電源・指向性 | P48、単一指向性 | 動かすのに何が要るか、どの方向を拾うか | 買う前にまず確認する |
先に「測定条件」を見る
マイクの仕様は国際規格(IEC 60268-4)をもとに測られていますが、デンマークのマイクメーカーDPAが公開している仕様の読み方の解説では、同じ用語でもメーカーによって解釈が違うことがあるとされています。数字の横にある「1kHz」「1Pa」「A特性」「THD 1%」といった条件がそろっていないと、数字どうしを正しく比べられません。また、仕様表の値は「公称値」で、±2dBのような幅を持つものとされています。1〜2dBの差で優劣を決めないようにしましょう。
感度:同じ声でどれくらいの信号が出るか
「1Paの音で何ボルト出るか」を表す
感度は、マイクに一定の大きさの音を当てたときに出る電気信号の大きさです。DPAの解説では、1kHzの音を1Pa(=94dB SPL)の大きさで正面から当てたときの電圧で表すとされています。書き方には「mV/Pa」と「dBV/Pa(0dB=1V/Pa)」の2通りがありますが、同じことを別の単位で書いているだけです。
| dBV/Pa | mV/Pa(おおよそ) |
|---|---|
| -30dB | 約31.6mV |
| -40dB | 10mV |
| -50dB | 約3.2mV |
| -56dB | 約1.6mV |
dBで書かれた感度は、0に近いほど(マイナスの数字が小さいほど)出力が大きいと読みます。20dB違うと、出る電圧は10倍違います。
ダイナミックとコンデンサーで20dB以上違うことも
例えば、ShureのダイナミックマイクSM58のユーザーガイドでは感度が-56.0dBV/Pa(1.6mV)、ソニーのコンデンサーマイクC-100の仕様表では単一指向性で-31dB(0dB=1V/Pa)とされています。差は25dBほどで、同じ声で録るなら、SM58のほうがインターフェースのゲインをそのぶん多く上げる必要がある、ということです。
感度が低いこと自体は欠点ではありません。DPAの解説でも、大きな音を録る用途では感度の低いマイクが向いているとされています。宅録で気にしたいのは、手持ちのインターフェースのゲインで足りるかどうかです。感度の低いダイナミックマイクでゲインが足りない場合の対処はマイクプリアンプは必要?で扱っています。
古い表記「0dB=1V/μbar」に注意
古い資料や一部の製品では、感度が「0dB=1V/μbar」の基準で書かれていることがあります。1Paは10μbarなので、この表記の数字は「0dB=1V/Pa」の表記より20dB小さく(マイナスが大きく)なります。-74dB(1V/μbar)と書かれていたら、1V/Pa基準では-54dBにあたります。基準が違う数字をそのまま並べないようにしましょう。
周波数特性:範囲の数字よりグラフの形を見る
周波数特性は、低い音から高い音まで、どの高さの音をどれくらいの大きさで拾うかを表したものです。仕様表には「20Hz〜20kHz」のような範囲と、グラフが載っていることが多いです。
範囲の数字だけでは差がわかりにくい
DPAの解説によると、多くのマイクは実際にはもっと広い範囲で音を拾っていても、仕様表には20Hz〜20kHzの範囲で書かれることが多いとされています。また、範囲の端では音が大きく下がっていることもあるため、「±2dB」のような許容幅つきで書かれた範囲のほうが実態に近い情報です。
範囲が狭いから歌に向かない、というわけでもありません。SM58の周波数特性は50Hz〜15kHzとされていますが、ボーカル用として長く使われている機種です。範囲の広さより、その範囲の中でどこが持ち上がり、どこが下がっているかのほうが、声の聞こえ方に関わります。
グラフの読み方
- 横軸は音の高さ(Hz)、縦軸は大きさ(dB)。真ん中の0dBの線が基準です
- 数kHzのあたりが持ち上がっていると、声が前に出て明るく聞こえやすい一方、サ行が目立つこともあります
- 低い側がなだらかに下がっているのは、こもりや吹かれを抑える設計であることが多いです
- 点線や別の線が描かれていたら、ローカットスイッチを入れたときの特性です
グラフは、ふつう口元より離れた距離で測られています。単一指向性のマイクは口を近づけるほど低音が増える「近接効果」があるため、近くで歌うとグラフより低音が多く録れます。近接効果と指向性の関係はマイクの指向性とはで解説しています。
自己雑音・S/N比・ダイナミックレンジ:静かさの3つの書き方
この3つは別々の項目に見えますが、どれもマイク自体のノイズの少なさに関わる数字で、互いに計算でつながっています。
自己雑音(固有雑音・等価雑音レベル)
マイクが何も音を拾っていないときに出る「サー」というノイズを、同じ大きさの音に置き換えて表した数字です。小さいほど静かです。DPAの解説では、A特性で15dB(A)を下回れば非常に低いノイズとされています。ソニーC-100の仕様表では、単一指向性で19dB SPL以下(A特性)と書かれています。ダイナミックマイクは内部に増幅回路がないため、仕様表に自己雑音の項目がないことが多いです。
S/N比は「94 − 自己雑音」
S/N比は、1Pa(94dB SPL)の音に対して、自己雑音がどれだけ小さいかを表します。C-100の仕様表では、単一指向性のS/N比が75dB以上とされていて、94dBから自己雑音の19dBを引いた値と一致します。自己雑音が書かれていればS/N比はほぼ計算できるので、片方しか書かれていないマイクどうしでも比べやすくなります。
ダイナミックレンジは「最大SPL − 自己雑音」
DPAの解説では、ダイナミックレンジは歪みが1%になる音の大きさと自己雑音の差とされています。C-100の場合、最大入力音圧レベル132dB SPLから自己雑音19dBを引くと113dBで、仕様表のダイナミックレンジ113dB以上と合います。
ささやくようなパートが多い人ほど、自己雑音の差が聞こえやすくなります。ただ、自宅ではエアコンやパソコンのファンなど、部屋の音のほうが大きいこともよくあります。自己雑音の数字を詰める前に、録る部屋のノイズを減らすほうが先に効くことも多いので、両方をあわせて考えましょう。
最大SPL・インピーダンス・電源の欄の見方
最大入力音圧レベル:歪みの条件を一緒に読む
この音の大きさを超えると歪みが増える、という上限です。ソニーC-100の仕様表では「1kHzで1%の波形ひずみを生じる入力レベル」として132dB SPL以上と書かれています。DPAの解説によると、歪み率を10%として書くメーカーもあり、なかにはマイクが壊れない限界を書いている例もあるとされています。数字だけでなく、何%の歪みで測った値かを確かめましょう。歌の録音で音が割れるときは、マイクの上限より先に、インターフェースのゲインの上げすぎを疑うのが基本です。
インピーダンス:XLR接続なら気にしすぎなくてよい
マイクの出力インピーダンスは、つなぐ先のプリアンプの入力インピーダンスより十分低いのが望ましく、DPAの解説では10分の1程度が目安とされています。SM58は300Ω、C-100は90Ωと書かれています。今のオーディオインターフェースのマイク入力はこの前提で作られているので、XLRケーブルでつなぐ宅録では、インピーダンスの数字で迷う必要はほとんどありません。
電源と指向性:最初に確認する2項目
数字の比較より先に見ておきたいのが、電源と指向性です。電源の欄に「P48」「ファンタム電源」とあれば、48Vを供給できるインターフェースが必要です。くわしくはファンタム電源とはをどうぞ。指向性は、ひとりで歌を録るなら単一指向性が基本です。
仕様表を使った比べ方の手順
候補のマイクが2〜3本にしぼれたら、次の順で仕様表を見ていくと判断しやすくなります。
- 接続と電源:XLRかUSBか、ファンタム電源が要るか。手持ちの機材で動くかを確認する
- 指向性:単一指向性か、切り替え式なら単一指向性に設定できるか
- 感度:ダイナミックマイクなら特に、インターフェースのゲインで足りそうかを見る
- 自己雑音:コンデンサーマイクどうしなら、条件(A特性など)をそろえて比べる
- 周波数特性のグラフ:高域の持ち上がりと低域の下がり方を見て、自分の声の気になる部分と照らし合わせる
- 音を聴く:メーカーや販売店の試聴音源、店頭での試奏で最後に確かめる
最後の手順が欠かせない理由は、DPAの解説にもあるとおり、仕様表は客観的な性能は教えてくれても、聞いたときの印象までは伝えられないからです。数字は候補をしぼるために使い、決めるのは耳、と分けておくと迷いにくくなります。具体的な機種を探すときはコンデンサーマイクの選び方で、今回の見方を当てはめながら比べてみてください。
まとめ:数字は「相性」と「条件」で読む
- 感度は0に近いほど出力が大きい。低いマイクはゲインを多く上げる必要があるが、それ自体は欠点ではない
- 周波数特性は範囲の数字よりグラフの形。近くで歌うと近接効果で低音が増える
- 自己雑音・S/N比・ダイナミックレンジは計算でつながっている。S/N比はおおよそ「94 − 自己雑音」
- 最大SPLは歪みの条件、感度は基準(1V/Paか1V/μbarか)を確かめてから比べる
- 最初に見るのは電源と指向性。最後に決めるのは自分の耳
仕様表の読み方がわかると、マイクの紹介記事や商品ページに書かれた数字の意味も読み取りやすくなります。まずは今使っているマイクの仕様表を開いて、この記事の項目と照らし合わせてみてください。



















