2010年代のボカロ曲は、いま歌ってみたを始める人にとって「競争相手が少ないのに、知っている人は確実にいる」という珍しい位置にあります。近年の曲は投稿された時点でカバーが何百本も並びますが、10年前後たった曲は新規のカバーが減り、そのぶん見つけてもらいやすくなります。
もうひとつの利点は、当時の曲は歌ってみた前提の作りになっているものが多いことです。2010年代前半はニコニコ動画を中心に歌ってみた文化が広がった時期で、人が歌うことを想定した音域やフレーズ構成の曲が数多く残っています。近年の曲に比べて音の詰まり方が穏やかな曲も多く、初めて人前に出す一本としても扱いやすい傾向があります。
この記事では、2010年から2019年までに発表されたボカロ曲を15曲、3つの時期に分けて紹介します。作者名と発表年はいずれも確認したうえで掲載しています。あわせて、当時の曲を今歌うときのキーの考え方と、オフボーカル音源が見つからないときの対処もまとめました。
2010年代のボカロがいま歌ってみたで強い理由
年代で曲を選ぶ利点を整理すると次のようになります。
| 観点 | 2010年代の曲 | 近年の曲 |
|---|---|---|
| カバーの本数 | 落ち着いており、新規が埋もれにくい | 投稿直後から大量に並ぶ |
| 知名度 | 当時を知る層には確実に届く | 幅広い層に届くが競争が激しい |
| 音の詰まり方 | 穏やかな曲が比較的多い | 語数が多く速い曲が増えている |
| 音源の入手 | 曲によっては探す手間がかかる | 公式配布が整っていることが多い |
注意点は最後の行です。古い曲ほどオフボーカルの入手経路が分散しているので、選曲の前に音源があるかを確かめておかないと、練習してから歌えないことに気づく、という事態になります。この点は記事の後半で扱います。
2010〜2012年:歌ってみたブーム期の名曲5曲
歌ってみたが急速に広がった時期です。人が歌うことを前提にした曲が多く、いま歌っても扱いやすいものが揃っています。
え?あぁ、そう。/蝶々P(2010年)
蝶々Pの代表作のひとつで、投げやりな質感が持ち味です。テンポは速くありませんが、感情を込めすぎると音程が不安定になるタイプなので、抜いた状態で音が取れているかを確認しながら進めてください。抑えた表現で通せると、この曲らしい温度になります。
人生リセットボタン/kemu(2011年)
kemuの高速路線を決定づけた一曲です。語数が多く、息を吸う隙間が少ないのが最大の難所になります。歌詞を音符に乗せる前に、まずテンポを落として読む練習を挟んでください。速い曲全般の攻略は早口なボカロ曲の歌い方もあわせて参考になります。
エンヴィキャットウォーク/トーマ(2011年)
トーマらしい癖のある譜割りで、拍の裏に言葉が入る箇所が多く出てきます。耳で覚えたつもりで歌うとずれるので、区間ごとに区切って確認するのが確実です。跳ねるリズムを体で覚えてから言葉を乗せると崩れにくくなります。
クワガタにチョップしたらタイムスリップした/タカハシヨウ・家の裏でマンボウが死んでるP(2011年)
タイトルのインパクトで知られる曲ですが、歌の中身はテンポと言葉数の両方が厳しいタイプです。勢いだけで押し切ろうとすると後半で崩れるので、どこで息を吸うかを先にすべて決めておいてください。決めずに通すと、毎回違う場所で苦しくなります。
アカツキアライヴァル/Last Note.(2012年)
Last Note.らしいバンドアレンジの厚い一曲です。伴奏が厚いぶん多少の粗は埋まりますが、声を張り続ける区間が長いので配分を考えないと最後まで持ちません。一番強く出す場所を1か所決めて、それ以外は抑えて置く形にすると通せます。
2013〜2016年:高速・高音化が進んだ時期の5曲
テンポと音の高さが上がっていった時期です。歌ってみたの難易度も上がりましたが、そのぶん歌いごたえのある曲が揃っています。
ブリキノダンス/日向電工(2013年)
語数が極端に多く、言葉を詰め込む力が問われる曲です。子音を立てないと全部がつながって聴こえます。滑舌の練習と並行して進めるのが前提になるタイプなので、早口言葉で滑舌を良くする練習方法を先に通しておくと詰まりが減ります。
ビバハピ/Mitchie M(2013年)
Mitchie Mの曲は調声の質感が特徴ですが、歌う側から見るとポップスとしての作りが素直で扱いやすい部類です。テンポは軽快で、明るさを保ったまま音程を合わせるのが課題になります。声を浅くして明るさを作ると上ずりやすいので、息の支えは保ったままにしてください。
LUVORATORRRRRY!/Giga・Reol(2014年)
Gigaの作曲にReolが詞を付けた一曲です。言葉の切り方が細かく、リズムに乗せる精度が問われます。メロディを追うより先に、伴奏のどこに言葉を置くかを決めてしまうほうが安定します。勢いのある曲なので、テンポが走りやすい点にも注意してください。
ドクター=ファンクビート/nyanyannya(2015年)
語りに近い区間と歌う区間が入り混じる構成です。語りに寄せすぎると音程が曖昧になり、歌に寄せすぎると雰囲気が出ないという綱引きが起きます。区間ごとにどちら寄りにするかを決めてから録ると、方針がぶれません。
脱法ロック/Neru(2016年)
Neruの曲のなかでも勢いの強い一曲です。テンポが速く、休符が少ないため息継ぎの設計が必須になります。高さも出るので、原曲キーで通せるかを最初に確認してください。通せない場合は下げたうえで、言葉の明瞭さとリズムに集中するほうが完成度は上がります。
2017〜2019年:現在の定番につながる5曲
近年の曲調に近づいていく時期です。いま聴いても古さを感じにくく、歌枠のレパートリーにも組み込みやすくなります。
阿吽のビーツ/羽生まゐご(2017年)
羽生まゐごの曲は和の質感を持つものが多く、この曲もその系統です。母音の処理を丁寧にしないと独特の雰囲気が出ません。洋楽的に子音を強く立てるより、母音を長めに扱うほうが曲に合います。ふだんの歌い方とは切り替えが必要になるタイプです。
猛独が襲う/一二三(2017年)
一二三らしい重さのある一曲です。低い側で語るように置く区間と、高さが出る区間の落差が大きく、声の出し方を切り替える必要があります。低い区間で息が抜けると聴こえなくなるので、小さく歌う練習を先にしておいてください。
ハローディストピア/まふまふ(2018年)
まふまふは歌い手としても知られていますが、この曲はボカロPとして発表したボカロ曲です。紹介するときに混同しないよう注意してください。歌の面では言葉数が多く、テンポも速めです。詰まった区間をテンポを落として練習し、原曲速度に戻す順番が確実です。
グリーンライツ・セレナーデ/Omoi(2018年)
Omoiの曲は明るく開けた作りで、サビで高さが出るぶん助走の作り方が効きます。いきなり当てにいくと喉に力が入りやすいので、手前のフレーズから息の速さを上げていくとつながります。高さが厳しければ下げて、明るさの表現に集中するほうが聴きやすくなります。
アンドロイドガール/DECO*27(2019年)
DECO*27の近年の作風につながる一曲です。テンポは中庸ですが、同じパターンに見えて譜割りが微妙に変化する箇所があります。耳で覚えただけだとずれるので、区間ごとに違いを確認しながら進めてください。
当時の曲を今歌うときのキーとアレンジの考え方
2010年代の曲を扱うときに気をつけたいのは、当時の歌ってみた文化と今の基準が少し違うことです。当時は原曲キーで歌いきることが評価されやすい空気がありましたが、今は自分に合うキーに変えるのが一般的です。
キーを決めるときは、サビの高さだけで判断しないでください。2010年代の曲はAメロが低く、サビで高さが出る構成のものが多く、サビに合わせて下げると低音が出なくなることがあります。曲全体の上下の幅を確認してから決めると失敗が減ります。手順は曲の音域の調べ方にまとめています。
アレンジ面では、当時の音作りをそのまま使う必要はありません。MIXの傾向は年々変わっているので、音源は当時のもの、処理は現在の基準という組み合わせで問題ありません。むしろ当時の質感を無理に再現しようとすると、今の環境で聴いたときにこもって聴こえることがあります。
音源・オフボーカルが見つからないときの探し方
古い曲でつまずきやすいのが音源です。年数がたつほど、当時の配布先が残っていないことがあります。順番に確認してください。
| 手順 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 原曲の動画説明欄に配布リンクが残っているか |
| 2 | 作者本人の配布ページやアカウントが現在も動いているか |
| 3 | カラオケ音源として公式に配信されているか |
| 4 | 上記で見つからない場合、その曲は一旦候補から外す |
4番目が重要です。配布が確認できない音源を無理に使おうとしないのが安全な進め方になります。扱い方の基準はオフボーカル音源の探し方と使い方で整理しているので、迷ったら先に確認してください。
2010年代の曲はバンドの音が主役になっているものも多く、ギター1本やピアノ1台に落とすと物足りなくなることがあります。逆に、削っても輪郭が残る曲を選べば弾き語りでも形になります。その条件で選んだ曲は弾き語りしやすいボカロ曲15選にまとめてあります。
まとめ:年代で追うと自分に合う曲が見つかる
2010年代のボカロ曲を選ぶときの要点です。
| 確認すること | 判断の基準 |
|---|---|
| 時期 | 前半は歌いやすさ、後半は歌いごたえで選べる |
| キー | サビだけでなくAメロの低さも確認する |
| 音源 | 練習を始める前に入手できるか確かめる |
| 作者表記 | 歌い手とボカロPを混同しないよう確認する |
年代を軸に探すと、流行に関係なく自分の声質と音域に合う曲を見つけやすくなります。2010年代の前半と後半では曲調の傾向がはっきり違うので、まずどちらが自分に合うかを試してから範囲を絞るのが効率的です。
近年の曲と比べたい場合は2020年代のボカロ曲おすすめ15選を、年代を横断した代表曲から探したい場合は定番・有名なボカロ曲おすすめ15選も参考にしてください。



















