録った歌を聞き返すと、声が箱の中で鳴っているようにこもっている。語尾のあとに「ワーン」と部屋の響きが残る。自分の部屋で録った歌ってみたでは、こうした部屋鳴りに後から気づくことがよくあります。歌い直す前に、編集でどこまで減らせるのかを知りたい人も多いはずです。
この記事では、録音した声に入ってしまった部屋鳴りを、編集で減らすときの考え方をまとめます。録音後の響きは完全には消せないという前提、残響を減らす専用の処理の仕組みとかけすぎのサイン、EQやゲートでできること、MIXを依頼するときの伝え方、次の録音で減らすための工夫まで順に説明します。
| やりたいこと | 使う手段 | 期待できる範囲 |
|---|---|---|
| 語尾に残る長い響きを減らす | 残響を減らす専用の処理(デリバーブ) | 弱めなら自然に減らせることがある。強くすると声が不自然に |
| 箱っぽい・こもった感じを和らげる | EQで中低域を少し削る | 聞こえ方は軽くなるが、響きそのものは残る |
| フレーズの間の響きを下げる | ノイズゲート | 歌っている最中の響きには届かない |
| 響きの強い素材を仕上げてもらう | MIX依頼時に状況を伝える | 無加工の元ファイルを渡すと判断してもらいやすい |
録音後の部屋鳴りは「減らせるが、消せない」前提で考える
部屋鳴りは、口から出た声が壁や天井、床に跳ね返ってマイクに戻ってきた音です。歌っている声とほぼ同じ高さの音が、少し遅れて重なっています。声と同じ時間・同じ帯域に混ざっているため、響きだけをきれいに取り出すことは難しいのです。
エアコンの音のように一定に鳴り続ける雑音とは性質が違う点も知っておきたいところです。Audacityの公式マニュアルでは、標準の「ノイズの低減」は、ハムやヒス、ファンの音のような一定の背景音を対象とする機能として説明されています。響きは声と一緒に変化し続けるため、この機能で消すことは想定されていません。雑音のほうが気になる場合は歌ってみた録音のノイズ除去が向いています。
部屋鳴りの聞こえ方は2種類ある
- 声のすぐあとに来る短い反射:壁が近いと、声とほぼ同時に跳ね返りが重なり、箱の中で歌っているような、こもった音になります。長い余韻は聞こえないのに「なんだか抜けが悪い」と感じるのはこちらが多いです
- 声が止まったあとに残る余韻:語尾やブレスのあとに「ワーン」と残る響きです。広くて物の少ない部屋ほど目立ちます
どちらが強いかで、効く手段が少し変わります。余韻は専用の処理やゲートで減らせることがありますが、声と同時に重なる短い反射は、後から分けるのがさらに難しくなります。
残響を減らす専用の処理の仕組みと、かけすぎのサイン
音声修復ソフトの中には、録音の中の残響を推定して減らす処理(デリバーブなどと呼ばれます)を持つものがあります。製品によって細かい仕組みは違いますが、iZotope社のRXに含まれるDe-reverbの公式マニュアルを見ると、考え方の流れがつかみやすいので、例として紹介します。
- 学習(Learn):素材を解析して、帯域ごとの響きの量と、響きが消えるまでの長さを見積もります。マニュアルでは、部屋の無音部分から始まり、声と余韻の両方を含む範囲で学習させると結果がよくなるとされています
- 低減量(Reduction):どれだけ響きを減らすかを決めます。値を大きくするほど多く取り除かれ、結果が不自然なときは少しずつ下げるよう案内されています
- 響きの長さ(Tail Length):処理後に響きが鈍くこもったように聞こえるときは下げる、と説明されています
- 取り除いた音だけを聞く(Output Reverb Only):何が削られているかを確かめるための機能です
AIを使った音声分離のサービスやソフトにも、声と響きを分けて響きを減らすとうたうものがあります。どの手段でも、弱めから始め、処理前と同じ位置で聞き比べることが基本です。
かけすぎのサイン
- 声が金属っぽい、水の中のような質感になる
- 語尾が急にぶつっと切れて、余韻が不自然に短い
- 母音が細くなり、子音や息の音だけが浮いて聞こえる
- 伸ばした音の中で、音色がゆらゆらと揺れる
一つでも当てはまったら、低減量を下げます。オケと合わせると、響きが少し残っていても気にならないことが多いので、最後の判断はソロではなくオケと一緒に聞いて行います。
EQとノイズゲートでできること
専用の処理がなくても、手持ちのDAWやAudacityの機能で、部屋鳴りを目立ちにくくする方法はあります。ただし、どちらも響きを「消す」道具ではない点は押さえておきます。
EQ:こもり感を和らげる
短い反射が重なった素材は、中低域がふくらんでこもって聞こえがちです。ボーカルEQの基本で中低域(おおよそ150〜500Hz)と呼んでいる帯域の中から、こもりの中心をスイープで探し、狭すぎない幅で少しだけ下げると、軽く聞こえやすくなります。削りすぎると声の厚みがなくなるので、オケと合わせて「少し物足りない」手前で止めます。
ノイズゲート:フレーズの間の余韻を下げる
ノイズゲートは、決めた音量より小さくなった部分を下げる処理です。フレーズが終わったあとに残る響きを下げるのに使えます。Audacityの公式マニュアルでは、主な設定として次の項目が説明されています。
- Gate threshold:この音量を下回るとゲートが閉じて音が下がる境目
- Level reduction:閉じたときにどれだけ下げるか。下げすぎると音が息をつくように揺れて聞こえるため、必要以上に下げないよう案内されています
- Attack・Hold・Decay:開く速さ、開いたままにする時間、閉じる速さ。Decayを長くすると、ゆっくり閉じて余韻が自然に消えていきます
ゲートは歌っている最中の響きには何もしません。また、閉じるのが早すぎると語尾まで切れてしまいます。Level reductionは浅めにして、響きを「ゼロにする」のではなく「少し下げる」程度にとどめると自然です。
リバーブを足すときの注意
MIXでは、仕上げにリバーブを足して声を曲になじませることがよくあります。部屋鳴りの強い素材では、ここに少し注意が要ります。
- 部屋の響きの上にさらに長いリバーブを重ねると、言葉の輪郭がぼやけやすくなります
- リバーブを短めにする、量を控えめにする、プリディレイで声との間を空けるなど、足す側で調整します
- 部屋の響きが逆に「味」として合う曲もあるので、オケに合わせて判断します
リバーブのつまみごとの意味と量の決め方は、リバーブとディレイの違いで解説しています。
MIXを依頼するときの伝え方
自分で処理しきれない場合は、MIXを依頼するのも一つの方法です。そのときは次の点を押さえておくと、仕上がりの相談がしやすくなります。
- 無加工の元ファイルを渡す:自分で残響を減らした場合も、処理前のファイルを一緒に渡すと、MIX担当の人が自分の方法で処理し直せます。かけすぎた処理は後から戻せないためです
- 気になっている点を言葉で伝える:「部屋の響きが強めです」「サビの語尾に響きが残ります」など、場所と内容を書いておきます
- 録った環境を一言添える:「物の少ない6畳間で、壁から近い位置で録りました」といった情報は、処理の見当をつける手がかりになります
ただし、MIX担当の人が使う道具でも、響きを完全に消すことはできません。仕上がりの幅について、事前に相談しておくと行き違いを避けやすくなります。
次の録音で部屋鳴りを減らすには
後から減らすより、録る段階で響きを入れないほうが、声の自然さは保ちやすくなります。次の録音では、次のような工夫を試してみてください。
- 録る場所を変える:壁際や部屋の真ん中を避け、服がたくさん掛かったクローゼットの前など、柔らかい物に囲まれた場所を探します。詳しい探し方は歌ってみたの録り環境の作り方にあります
- マイクの後ろ側に布を下げる:歌う人の正面、マイクの奥側に毛布やカーテンを吊るすと、跳ね返りを減らしやすくなります。マイクの周りを囲う市販の道具についてはリフレクションフィルターの効果と選び方で、効くこと・効かないことを整理しています
- 口とマイクの距離を一定に保つ:離れるほど、声に対して部屋の響きの割合が増えます。吹かれない範囲で距離を決めておきます
- 録る前に数秒録って確かめる:本番の前に一声出して、語尾の響きを聞いておくと、場所を変えるべきかの判断がしやすくなります
部屋鳴り対策のおさらい
- 録音後の部屋鳴りは、声と同じ時間・帯域に混ざっているため、減らせても消すことはできない
- 専用の処理は弱めから使い、かけすぎのサインが出たら戻す
- EQはこもり感を、ゲートはフレーズの間の余韻を、少し和らげる道具
- MIXを依頼するときは、無加工の元ファイルと気になる点を一緒に渡す
- 根本的には、次の録音で響きを入れない工夫をするのが近道
響きの気になる素材でも、オケと合わせると思ったより気にならないことがあります。処理を重ねる前に一度オケと合わせて聞き、それでも気になる部分から手を付けてみてください。



















