気持ちよく歌えたテイクを聞き返したら、サビの張ったところで「バリッ」「ジャリッ」と音が割れていた。もう一度同じように歌える自信はないし、できれば直して使いたい。歌ってみたの宅録では、こうした音割れ(クリップ)に後から気づくことがあります。
この記事では、すでに割れてしまった録音を、どこまで修復できるのかをまとめます。割れているかどうかの見分け方、修復機能が中で何をしているのか、どの程度なら使えそうか、32bit floatで録っていても割れる場面、そして録り直したほうがよいときの判断まで、順番に説明します。これから割れないように録る設定は別の記事で詳しく扱っているので、ここでは「割れた後」に絞ります。
| 割れ方 | 目安の判断 | 理由 |
|---|---|---|
| 一瞬だけ・数か所・波形の頭が少しだけ平ら | 修復機能を試す価値がある | 失われた部分が小さく、補いやすい |
| 張ったフレーズの間ずっと割れている | その部分を録り直す | 補う範囲が広く、ざらつきが残りやすい |
| 波形の上側か下側だけがつぶれている | 上下を別に扱える機能で試す | 上下同じ高さで割れる前提の機能もある |
| 波形は平らでないのに歪んで聞こえる | 録り直しを優先 | 機材の手前で歪んだ可能性があり、直しにくい |
本当に割れているかを見分ける
修復を考える前に、録音ファイルそのものが割れているのかを確かめます。耳で「割れた気がする」と感じても、実は別の原因だったということもあるからです。
波形で見る
デジタルの録音には、それ以上大きな音を記録できない上限があります。上限を超えた部分は記録されず、波形の山の頭が上限の位置で平らに切り取られた形になります。録音ソフトで割れたと思う位置を横に拡大し、山の頭が天井に張り付いて横一直線になっていないかを見てください。聞こえ方としては、声に「ジャリッ」「バリッ」というざらつきや、ひずんだ音が混ざります。
Audacityで探す
Audacityには、割れている箇所を探す機能があります。公式マニュアルでは次の2つが紹介されています。
- 表示メニューの「Show Clipping in Waveform」(英語表示の場合の名前):割れているサンプルを波形の上に表示します
- 分析メニューの「Find Clipping」:割れている区間をラベルとして一覧にします。何サンプル続いたら割れとみなすか(Start Threshold)と、何サンプル割れていなければ区間の終わりとみなすか(Stop Threshold)を決められ、どちらも初期値は3サンプルと説明されています。音量を変えたあとは、自動では更新されないので実行し直します
録音ファイルの割れと、MIX中の赤ランプは別
MIXの途中でDAWのメーターが赤くなっても、録音したファイルが割れているとはかぎりません。多くのDAWは内部で余裕のある数値の形式を使っており、途中の段で上限を超えても、音量を下げれば元の形に戻せることがあります。一方で、録音した時点で入口が割れていたファイルは、あとからどう音量を下げても割れたままです。判断は、エフェクトをすべて外した状態で、録音したままのクリップの波形を見て行います。
修復機能は中で何をしているのか
割れた部分は、山の頭が切り取られ、その部分のデータがありません。修復機能がしているのは、切り取られる前と後の波形の流れから、なくなった山の形を推測して描き足すことです。元の音を取り戻しているのではなく、それらしい形で補っている点を押さえておきましょう。
AudacityのClip Fix
Audacityには、エフェクトメニューの「Noise Removal and Repair」の中に「Clip Fix」があります(英語表示の場合の名前)。公式マニュアルでは、割れた部分を補間して作り直す機能で、効果が出やすいのは軽い割れの場合だとされています。主な設定は次の2つです。
- Threshold of Clipping (%):上限にどこまで近いサンプルを「割れている」とみなすか
- Reduce amplitude to allow for restored peaks (dB):描き足した山が再び上限を超えないよう、選択範囲の音量を下げる量。初期値は-9dBと説明されています
マニュアルには、処理に時間がかかるため数秒ずつ選んで使うこと、上下の山が同じ高さで割れている前提の機能であること、上側か下側だけしか直らないときは先に直流成分(DCオフセット)の補正をすることも書かれています。
専用の修復ソフトの場合
音声修復ソフトにも同じ目的の機能があります。たとえばiZotope社のRXのDe-clipは、公式マニュアルで、割れの境目を決めるしきい値(Threshold)、上下を別々に設定する機能、処理後の音量を整えるMakeup Gainなどを持つと説明されています。上側だけ・下側だけ割れている素材も扱いやすい作りです。ただし、仕組みが「推測して補う」ことである点は同じで、割れがひどい場合には限界があります。
修復でどこまでなら使えるか
修復がうまくいくかどうかは、失われた部分の大きさでおおよそ決まります。目安として、次の順に考えてみてください。
- 割れている長さ:ほんの一瞬、数か所だけなら補いやすく、フレーズ全体にわたると難しくなります
- つぶれ具合:山の頭が少し平らな程度なら補えることがあります。上限に長く張り付いて四角に近い形なら、描き足す部分が大きすぎて、ざらつきが残りやすくなります
- オケと合わせた聞こえ方:ソロで少しざらついていても、オケと合わせると気にならない場合があります。逆に静かな伴奏の曲では目立ちます
また、波形が平らになっていないのに歪んで聞こえる場合は注意が必要です。マイクやオーディオインターフェースの入力の手前で音が歪むと、波形がきれいに平らにならない割れ方になることがあります。この場合は「上限で切れた部分を補う」という修復の前提に当てはまらず、直しにくいことが多いです。
修復をかけたら、処理前と処理後を同じ位置で聞き比べ、ざらつきが減ったか、逆に不自然な音が増えていないかを確かめてから採用します。元のファイルは別名で残しておきましょう。
32bit floatで録っていても割れる場面
「32bit floatで録れば割れない」と聞いたことがあるかもしれません。32bit floatは、DAWの中で上限を超えた音も数値として残せる形式ですが、それはデジタルの段の話です。マイクの音がオーディオインターフェースの入口でデジタルに変わる時点で割れてしまえば、その割れはファイルの形式では戻りません。32bit floatでの録音に対応した一部の機材を除けば、録音時のゲインはこれまでどおり割れない位置に合わせる必要があります。
この点はサンプリングレートとビット深度とはで詳しく説明しています。「DAWの設定が32bit floatだから大丈夫」と思っていたのに割れていた場合は、入口の段で割れていたと考えるのが自然です。
録り直したほうがよいときの判断
修復は便利ですが、「録り直すより早くてきれい」とはかぎりません。次のどれかに当てはまるなら、その部分だけ録り直すことを考えてみてください。
- 張ったフレーズの間、何度も割れている
- 修復しても、オケと合わせてざらつきが聞こえる
- サビの頭など、何度も聞かれる大事な場所で割れている
- 波形が平らになっていないのに歪んで聞こえる
全部を録り直す必要はなく、割れたフレーズだけを差し替える方法もあります。どこまで録り直すかの考え方はテイクの選び方と録り直しの判断にまとめています。差し替えるときは、元のテイクと同じマイクとの距離で、ゲインだけを割れない位置まで下げて録ると、つないだときの声質の差が出にくくなります。
次から割れないためのゲインの合わせ方は、歌ってみたの録音レベル(ゲイン)設定で解説しています。曲の中で特に大きく張るところを基準に合わせるのが基本です。
よくある質問
Q. 割れた部分の音量を下げれば、割れは目立たなくなりますか?
A. 音量を下げても、切り取られた波形の形はそのままなので、ざらつきは残ります。小さく聞こえて目立ちにくくなることはありますが、割れが消えるわけではありません。
Q. 歌枠の配信アーカイブで声が割れていました。同じ方法で直せますか?
A. 考え方は同じですが、配信の音声は圧縮されているため、波形で割れを見分けにくく、修復の効果も出にくい傾向があります。次の配信で割れないようにする設定は歌枠の音割れ対策が参考になります。
Q. AIで音声をきれいにするサービスなら、割れも直せますか?
A. 割れを目立たなくするとうたうサービスもありますが、なくなった部分を推測で補う点は同じです。処理前と聞き比べ、声の質感が変わっていないかを確かめてから使いましょう。
まとめ
- まず録音したままのクリップの波形で、本当に割れているかを確かめる
- 修復機能は、なくなった山の形を推測して描き足すもので、元の音を取り戻すものではない
- 一瞬・数か所・軽い割れなら試す価値があり、広く割れているなら録り直しを考える
- 32bit floatでも、機材の入口で割れた音は戻らない
割れたテイクは、修復で使える場合と、録り直したほうが早い場合があります。元のファイルを残したうえで、まずは割れた箇所を一つ修復してオケと合わせて聞き、使えるかどうかを判断してみてください。



















