歌枠でマイクの声とパソコンで流す伴奏をまとめて配信したい、Discordで話している相手の声は配信に乗せたくない、あるいは逆に乗せたい。こうした「音の振り分け」を、機材を買い足さずにパソコンの中だけで行えるのがVoicemeeter(ボイスミーター)です。
ただ、初めて画面を開くとつまみやボタンが並んでいて、どこから触ればよいか迷いやすいソフトでもあります。ボタンの細かい操作を覚えるより、「どの音を、どこへ送るか」という考え方を先につかむほうが、つまずきにくくなります。
この記事では、仮想ミキサーの仕組み、歌枠での接続例(マイク+伴奏+通話をOBSへ)、最初に決めておく設定、遅延や音が出ないときの確認、ASIOとの関係を順に解説します。仕様や表記は、2026年10月時点のVB-Audio公式サイトと公式ユーザーマニュアル(Voicemeeter Banana 2.1.3.0版)にもとづいています。
結論早見表:3つの版の違いと歌枠での選び方
Voicemeeterには、入出力の数が異なる3つの版があります。いずれもWindows用で、公式サイトでは寄付制(ドネーションウェア)として配布されています。
| 版 | 入力(物理/仮想) | 出力(物理/仮想) | 歌枠での目安 |
|---|---|---|---|
| Voicemeeter | 3(2/1) | 3(2/1) | マイクとパソコンの音をまとめるだけなら足りる |
| Voicemeeter Banana | 5(3/2) | 5(3/2) | マイク・伴奏・通話を配信用と通話用に分けたいとき |
| Voicemeeter Potato | 8(5/3) | 8(5/3) | 機材や送り先が多い人向け。リバーブなどの内蔵エフェクトあり |
数値は2026年10月時点の公式サイトの仕様欄によるものです。通話をしながら歌枠をするなら、仮想入力が2つあるBananaが扱いやすいため、この記事ではBananaを例に説明します。公式サイトによると、Bananaの配布パッケージには無印のVoicemeeterも含まれ、Potatoのパッケージには3つの版すべてが含まれています。
寄付制の扱いについて、公式サイトでは「すべての機能を無料で使える(一部のオプション機能を除く)」「30日後に、ライセンスの購入か評価の継続を案内する画面が表示される」と説明されています。条件は変わることがあるので、導入前に公式サイトで確認してください。公式マニュアルには、入手先はVB-Audioの公式ダウンロードとMicrosoft Storeに限るよう書かれています。
仕組み:Voicemeeterは「パソコンの中のミキサー」
Voicemeeterは、インストールすると「仮想のオーディオ機器」がWindowsに追加され、その機器を通る音をミキサーの画面でまとめたり振り分けたりできるソフトです。公式マニュアルでは、Windowsのミキサーの代わりとして使うことを想定したものと説明されています。仕組みは次の3つの言葉で整理できます。
入力:音の入り口
画面の左側に並ぶ縦の列(ストリップ)が入り口です。Bananaでは、物理入力が3つ、仮想入力が2つあります。
- 物理入力:マイクやオーディオインターフェースなど、実際の機材を選ぶ入り口
- 仮想入力:パソコンのアプリの音を受け取る入り口。Windowsからは「再生デバイス」として見え、アプリの出力先にVoicemeeterの仮想デバイスを選ぶと、その音がこの列に入ります
バス:音をまとめて送る道
各ストリップには、A1・A2・A3・B1・B2のボタンが並んでいます。押したボタンの道に、その音が送られます。考え方は次のとおりです。
- Aのバス:ヘッドホンやスピーカーなど、実際の機材へ出す道。自分が聞く音に使います
- Bのバス:仮想デバイスを通して、ほかのアプリへ渡す道。Windowsからは「録音デバイス」として見え、OBSやDiscordでマイクの代わりに選びます
公式マニュアルでは、Windows 10以降の新しいドライバーで、B1・B2の出力が「Voicemeeter Out B1」「Voicemeeter Out B2」という名前で表示されると説明されています。表示名は版によって異なることがあるので、自分の画面で確かめてください。
入力ごとに送り先を選べる
Voicemeeterの便利な点は、音ごとに送り先を変えられることです。たとえば「マイクの声は配信にも通話にも送る」「通話相手の声は自分が聞くだけ」「伴奏は自分と配信へ」といった組み合わせを、ボタンの押し分けで作れます。ハードのミキサーでいう「どの音をどの出力に送るか」を、画面上で決めていくイメージです。
歌枠での接続例:マイク+伴奏+通話をOBSへ
ここでは、オーディオインターフェースにマイクをつなぎ、パソコンで伴奏を流し、Discordで相手と話しながらOBSで配信する場面を例にします。考え方を表にすると次のとおりです。
| 音 | どこから入れるか | 送り先のボタン |
|---|---|---|
| 自分の声(マイク) | 物理入力1にオーディオインターフェースを選ぶ | B1(配信)・B2(通話) |
| 伴奏・パソコンの音 | Windowsの既定の再生デバイスを「Voicemeeter Input」にする | A1(自分の耳)・B1(配信) |
| 通話相手の声 | Discordの出力デバイスを「Voicemeeter AUX Input」にする | A1(自分の耳)・相手の声を配信に乗せるならB1も |
そのうえで、受け取る側のアプリを次のように設定します。
- OBSのマイク音声(または音声入力キャプチャ)に「Voicemeeter Out B1」を選ぶ
- Discordの「ユーザー設定」→「音声・ビデオ」で、入力デバイスに「Voicemeeter Out B2」を選ぶ
- OBSのデスクトップ音声は無効にする(B1と同じ音が二重に入るのを防ぐ)
通話相手に自分の声だけを返す
この接続例のポイントは、通話相手の声をB2に送らないことです。B2はDiscordの入力なので、ここに相手の声を入れると、相手に自分の声が返って聞こえてしまいます。相手に伴奏も聞かせたい場合は、伴奏の列のB2を押します。公式マニュアルでも、各ストリップの送り先を選ぶことで、相手に返す音から特定の音を外す処理(ミックスマイナス)ができると説明されています。
Discord側のノイズ抑制やエコー除去がオンのままだと、歌声や伴奏が削られることがあります。通話アプリ側の設定はDiscordで歌うときの音声設定で解説しています。
自分の声はインターフェースで聞く
表では、マイクの列のA1を押していません。オーディオインターフェースにダイレクトモニター機能があるなら、自分の声はそちらで聞くほうが遅れを感じにくいためです。マイクの列でA1も押すと、ダイレクトモニターの声とVoicemeeterを通った声が少しずれて重なり、二重に聞こえることがあります。モニターの考え方はOBSの音声モニタリングとはも参考になります。
最初に決めておく2つの設定
A1の出力機器を選ぶ
画面右上のA1を押すと、メインの出力機器を選べます。公式マニュアルでは、A1の機器がVoicemeeter全体の基準(マスタークロック)になり、ここで決まるサンプルレートがミキサー全体の処理の基準になると説明されています。ヘッドホンをつないでいるオーディオインターフェースを選ぶのが一般的です。
機器の一覧には、同じ機材がMME・WDM・KS・ASIOといった方式ごとに並びます。公式マニュアルでは、遅延を小さくするためにASIO(ある場合)かWDMを選ぶことが勧められており、MMEは遅延が100ミリ秒前後になりうる一方、WDM(WASAPI)は30ミリ秒未満とされています。また、WDMやKSで選んだ再生機器は初期設定で排他モードになり、Windowsの音量調整を通らないことがある、とも書かれています。
Windowsのサウンド設定を合わせる
インストールすると、Windowsが仮想デバイスを既定の再生デバイスにしてしまい、Voicemeeterを起動していないと何も聞こえなくなることがあります。公式マニュアルではこれを故障ではなく設定の問題としており、Windowsのコントロールパネルの「サウンド」で次の点を確認するよう案内しています。
- 既定の再生デバイス・既定の録音デバイスが、意図したものになっているか
- 通話アプリと一緒に使う場合、「通信」の設定を「何もしない」にしているか
- マイクのプロパティで「このデバイスを聴く」がオンになっていないか(Voicemeeterの振り分けを乱すことがある)
遅延・音が出ない・二重に聞こえるときの確認
音が出ない
- A1に出力機器が選ばれているか
- 聞きたい音の列で、A1のボタンが押されているか
- インストール・アンインストールのあとに再起動したか(公式マニュアルでは、仮想ドライバーの導入を完了させるために再起動が必要とされています)
- Windowsの既定の再生デバイスと、各アプリの出力先が意図どおりか
声が遅れて聞こえる
A1やマイクの入力をMMEで選んでいると、遅れが大きくなりやすくなります。公式マニュアルでも、入力機器はWDMを選ぶのが望ましく、MMEは入力と出力の間の遅れが大きくなることがあると書かれています。それでも遅れが気になる場合は、前の章のとおり、自分の声だけはオーディオインターフェースのダイレクトモニターで聞く形にします。
二重に聞こえる・音がループする
同じ音が2つの道を通っていると、二重に聞こえたり、音が回り続けたりします。よくあるのは次のケースです。
- OBSのデスクトップ音声とVoicemeeter Out B1の両方で、パソコンの音を拾っている
- オーディオインターフェースのループバック機能がオンのまま、Voicemeeterでも伴奏を送っている
- Bのバスの音を受け取ったアプリが、その音をまたVoicemeeterの仮想入力に戻している
公式マニュアルでも、録音アプリとつなぐ場合はループに気をつけ、出力をミュートするかモニターを切るよう注意されています。機材側のループバックとの違いはループバック機能とはで詳しく解説しています。
ASIOとの関係:DAWと一緒に使うとき
A1にはASIOの機器も選べます。ただし、ASIOドライバーは機種によって複数のアプリから同時に使えないことがあり、VoicemeeterがA1でASIOを使っていると、DAWから同じ機器のASIOを選べない場合があります。ASIOそのものの仕組みはASIOドライバーとはを参照してください。
この場合の選択肢として、Voicemeeterには仮想のASIOドライバーも用意されています。公式マニュアルによると、仮想ASIOは最大4つのアプリから使え、B1(またはB2)の音をアプリに渡し、アプリの出力は対応する仮想入力に混ぜられます。仮想ASIOのサンプルレートとバッファはA1の設定で決まります。とはいえ、歌ってみたの録音では、経路が増えるほど遅れや設定ミスが起きやすくなります。録音のときはDAWとオーディオインターフェースだけ、歌枠のときはVoicemeeterを使うと分けて考えるほうが、トラブルの切り分けが簡単です。
ソフトで足りるか、ミキサーを使うかの考え方
Voicemeeterは、マイク・伴奏・通話といった音を、パソコンの中で「どこへ送るか」決めるためのソフトです。入力(物理と仮想)、Aのバス(自分が聞く)、Bのバス(ほかのアプリへ渡す)の3つを押さえれば、画面の見方がぐっと分かりやすくなります。最初にA1の出力機器とWindowsのサウンド設定を決め、音ごとに送り先のボタンを選んでいきましょう。
一方で、ソフトの設定に時間をかけたくない、つまみで直接音量を変えたいという人には、ハードの配信用ミキサーという選択肢もあります。違いは歌枠・配信用オーディオミキサーの選び方で比べられます。仕様や配布条件は2026年10月時点のものなので、導入するときはVB-Audio公式サイトで最新の内容を確認してください。



















