歌ってみたを録るとき、ヘッドホンから聞こえている自分の声とオケのことを「返し」と呼びます。返しの声が小さいと、自分の声を確かめようとして張りすぎてしまう。逆に大きすぎると、オケが遠くなって音程やリズムの手がかりを失う。録音はうまくいかないのに、原因が返しにあると気づきにくいのがやっかいな所です。
この記事では、返しがどういう経路でヘッドホンに届くのか、声とオケのバランスの決め方、返しにだけリバーブを足す方法、片耳を外して歌うときの注意を、自宅で歌ってみたを録る場面に沿って説明します。声が遅れて聞こえる問題は録音で声が遅れる原因と対策で、配信中のモニターは歌枠の機材と音声設定で扱っているので、ここでは「録音中に何をどのくらいの大きさで聴くか」に絞ります。
結論:返しは録音とは別の「歌いやすさのための音」
まず、返しで決めることと目安を表にまとめます。
| 決めること | 目安 | 録音される声への影響 |
|---|---|---|
| 返しの経路 | 遅れにくいダイレクトモニターか、エフェクトを足せるDAW経由か | なし |
| 声とオケの比 | 自分の声がオケに埋もれず、少し上に乗って聞こえる程度から | なし |
| 全体の音量 | 静かな所でヘッドホンの音がマイクに入らない程度 | 大きすぎると漏れた音が録音に入る |
| リバーブ | 乾いた声で歌いにくければ、返しにだけ薄く足す | 送り(センド)で足せば録音は加工なしのまま |
| 片耳 | 外すなら、外した側から音が出ないようにする | 外した側の音漏れが入りやすい |
大事なのは、返しのバランスをいくら変えても、録音される声そのものは変わらないということです。録音される声の大きさを決めるのはマイクのゲインで、返しは自分が歌いやすいかどうかだけで決めて構いません。たとえばヤマハのオーディオインターフェースURX22Cの取扱説明書では、入力の音とDAWの音のバランスを変えるMIXつまみについて、操作してもパソコンに送られる信号には影響しないと説明されています。
返しの仕組み:ヘッドホンに届く2つの経路
ダイレクトモニター(インターフェースの中で返す)
マイクの音を、パソコンに送る前にインターフェースの中でヘッドホンへ分ける方法です。パソコンの処理を通らないので遅れを感じにくいのが利点です。機種によっては、マイクの音とDAWから戻るオケの比率を変えるつまみがあり(MIXなど、名前は製品で違います)、これがそのまま声とオケのバランスになります。つまみがなくスイッチだけの機種では、DAW側でオケのトラックやマスターの音量を下げて比率を作ります。
DAWを通して返す
マイクの音をいったんDAWに通し、DAWからヘッドホンへ返す方法です。エフェクトをかけた声を聴けるのが利点ですが、パソコンの処理の分だけ声が遅れて聞こえることがあります。ダイレクトモニターとDAW経由の両方がオンになっていると、声が二重に聞こえるので、どちらか一方にします。
迷ったらダイレクトモニターから
初めて録るときは、ダイレクトモニターで声とオケの比率を決めるところから始めるのが扱いやすいでしょう。乾いた声で歌いにくいと感じたら、後で説明する方法でリバーブを足すことを考えます。
声とオケのバランスの決め方
次の順番で合わせると、行ったり来たりが少なくて済みます。
- 先にゲインを合わせる:録音レベルはここで決まります。返しで声が小さく聞こえるからといってゲインを上げると、録音の音割れにつながります。返しの調整は、ゲインを決めたあとにヘッドホン側のつまみで行います。
- オケを普段聴く程度の大きさで鳴らす:ヘッドホン全体の音量つまみで、オケだけを聴いて疲れない大きさにします。
- 声を足していく:声の比率を少しずつ上げ、サビなど大きく歌う所と、Aメロなど静かな所の両方を歌ってみて、どちらでも自分の声が聞き取れるかを確かめます。
- 1コーラス録って聞き返す:歌っていたときの感覚と、録れた歌を比べます。張りすぎていないか、音程がふらついていないかを見て、比率を微調整します。
症状から返しを直す
録れた歌の様子から、返しの状態を見当づけることもできます。
| 録れた歌の様子 | 考えられる返しの状態 | 試す調整 |
|---|---|---|
| 全体に声を張りすぎて、すぐ疲れる | 返しの声が小さい | 声の比率を上げる |
| 音程がふらつく、オケとハモっている感じがしない | 声が大きすぎてオケの音程が聞こえにくい | 声を下げるか、オケを上げる |
| リズムが走る、もたつく | オケのドラムやベースが聞こえにくい | オケを上げ、全体の音量は上げすぎない |
| 静かな所にオケの音がうっすら入っている | ヘッドホン全体の音量が大きい | 全体を下げ、声の比率で聞き取りやすさを補う |
曲の性格で、比率の出発点を変える
声を張る曲では、自分の声が体の中からも大きく聞こえるため、返しの声が小さくても張っている自覚が薄くなりがちです。返しの声を少し上げ目にしておくと、張りすぎに気づきやすくなります。反対に、ささやくように歌うバラードでは、返しの声を上げすぎると息の音ばかりが耳について、音程の感覚がつかみにくくなることがあります。オケの中で音程の手がかりになるピアノやギターが聞こえる程度に、声を控えめにするところから試してみてください。
早口で言葉の多い曲では、ドラムやベースがリズムの手がかりになります。こうした曲では声よりもオケを少し前に出し、声は言葉が聞き取れる程度にとどめるのも一つの考え方です。
決めたら録音中は変えない
返しのバランスが変わると、歌い方も変わります。1曲を録っている間は返しを固定し、つまみの位置をスマホで撮っておくと、後日録り直すときも同じ聞こえ方に戻せます。ガイドメロを鳴らす場合は、その音量も返しの一部です。ガイドの扱いはガイドメロの作り方で説明しています。
返しにだけリバーブを足す
加工していない声は、近くて硬い音に聞こえます。響きのない声だと歌いにくい、気持ちが乗りにくいと感じる人は、返しにだけ薄くリバーブを足す方法があります。録音される声は加工なしのまま残せるので、MIXで響きを決め直せます。
DAWで返しにリバーブを足す
- リバーブを挿した送り先のトラック(FXトラック、AUXなど、DAWによって名前が違います)を作る
- 録音するボーカルトラックから、送り(センド)でそのトラックへ声を送る
- 送りの量で、返しに混ざる響きの量を決める
録音トラック自体にリバーブを挿す方法もありますが、DAWや挿す場所によっては効果ごと録音されることがあります。送りを使う形にしておくと、録音されるのは元の声だけ、とわかりやすくなります。この方法は声がDAWを通るので、遅れが気になる場合は先にバッファの設定を見直します。
ダイレクトモニターの場合
ダイレクトモニターではDAWで挿したリバーブは返しに届きません。インターフェースによっては、遅れの少ないモニター用のリバーブを本体側で使える機種があります(たとえばヤマハ・Steinberg系の一部のインターフェースは、専用のソフトでリバーブをかけられます)。録音にも響きが乗るかどうかは設定によって変わるので、取扱説明書で確かめてから使います。
量は普段のMIXより少なめに
返しのリバーブは、歌いやすくするための少しの響きです。残響が長いと、言葉の輪郭や自分の音程の終わりが聞き取りにくくなります。普段のMIXより少なめ、短めから始めてください。リバーブの各つまみの意味はリバーブとディレイの違いで解説しています。
片耳を外して歌うときの注意
ヘッドホンを片耳だけずらして、もう片方の耳で自分の生の声を聴きながら歌う人もいます。生の声が直接聞こえるので、音程を取りやすいと感じる人がいる一方、次の点に気をつけないと録音に影響が出ます。
- 外した側の音がマイクに入りやすい:耳から離れたヘッドホンは、小さなスピーカーと同じです。外した側を頭や頬に軽く当てて向きを変えるか、DAWで返しのパンを当てている側に寄せて、外した側から音が出ないようにします。
- 左右に分かれた楽器が片方しか聞こえなくなる:オケの中で左右に振られた楽器は、片耳では聞こえにくくなります。リズムの手がかりになる楽器が聞こえないときは、返しをモノラルにできるか、インターフェースやDAWの設定を確かめます。
- 返しの声は下げてよい:生の声が聞こえる分、返しの声の比率は両耳のときより下げて構いません。
イヤホンを片耳だけ使う場合も考え方は同じです。ただしBluetoothのイヤホンは音が遅れやすいので、録音には有線のものを使います。録音用のヘッドホンの選び方はモニターヘッドホンの選び方を参考にしてください。
録る前に確かめるチェックリスト
- ゲインは録音レベルとして合わせてあるか(返しのために上げていないか)
- ダイレクトモニターとDAW経由のどちらか一方だけがオンになっているか
- 大きく歌う所と静かな所の両方で、自分の声とオケが聞き取れるか
- ヘッドホン全体の音量は、静かな所で漏れが入らない大きさか
- リバーブを足すなら、返しだけにかかっていて、録音される声は加工なしか
- 片耳を外すなら、外した側から音が出ていないか
- 決めたつまみの位置を記録したか
配信ソフトのOBSで自分の声やBGMを耳に返すときの3つの設定の違いと、聞こえない・遅れるときの確認順は、OBSの音声モニタリングの解説でまとめています。
まとめ:返しは歌いやすさだけで決めてよい
返しは録音される声とは別の、自分のための音です。ゲインを先に決め、オケを普段の大きさで鳴らし、声を少しずつ足して、大きく歌う所と静かな所の両方で聞き取れるかを確かめます。乾いた声で歌いにくければ返しにだけ薄くリバーブを足し、片耳を外すなら外した側の音漏れに気をつけます。
録れた歌が張りすぎている、音程がふらつく、と感じたときは、歌い方を変える前に返しのバランスを見直してみてください。聞こえ方が変わるだけで、同じ人でも歌いやすさが変わることがあります。



















