「歌ってみた」という文化は、いつ、どこで生まれて、どうやって今の形になったのでしょうか。普段なにげなく見ている歌ってみた動画にも、実は20年におよぶ歴史があります。
この記事では、ニコニコ動画の誕生から、初音ミクとボカロ文化との出会い、YouTubeへの広がり、そしてTikTok・ショート動画の時代まで、「歌ってみた」の歩みを年表形式でたどります。年号や出来事は、公式発表や信頼できる記事で確認できたものを中心にまとめ、諸説あるものは「〜頃」「〜とされています」と表記しています。
文化の流れを知ると、いま自分が投稿している1本の動画が、大きな歴史の続きにあることが実感できるはずです。これから歌い手を始める人にも、長く活動している人にも楽しんでもらえる読み物としてどうぞ。
歌ってみた史・主要トピック年表(2006〜2026)
まずは全体の流れを一望できる年表から。それぞれの詳細は後の章で解説します。
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 2006年12月 | 「ニコニコ動画(仮)」サービス開始 |
| 2007年3月 | 動画投稿サービス「SMILEVIDEO」開始。ユーザーが自分の動画を投稿できるように |
| 2007年5月 | 「歌ってみた」がニコニコ動画のカテゴリとして成立(2007年5月とされています) |
| 2007年8月 | 「初音ミク」発売。ボカロ文化が誕生し、歌ってみたと結びつく |
| 2010年代前半 | 歌ってみた黄金期。メジャーシーンで活躍する歌い手が現れ始めた頃 |
| 2017年夏 | TikTokが日本でサービス開始 |
| 2019年6月 | ニコニコ動画のカテゴリタグ制度が終了(ジャンル制へ移行)とされています |
| 2019年11月 | YouTubeで「THE FIRST TAKE」開始。一発撮り歌唱動画が広く注目される |
| 2020年10月 | 歌い手出身のAdoさんが「うっせぇわ」でメジャーデビュー |
| 2021年7月 | YouTube ショートが日本を含む世界100か国以上で提供開始 |
| 2020年代半ば〜 | ショート動画・配信・AI技術の浸透で活動スタイルが多様化 |
2006〜2007年:ニコニコ動画の誕生と「歌ってみた」の成立
すべての始まりは2006年12月12日。ニコニコ動画公式の年表によると、この日「ニコニコ動画(仮)」がスタートしました。当初は自分の動画を投稿するサイトではなく、既存の動画にコメントを付けて楽しむサービスだったとされています。
転機は2007年3月。動画投稿サービス「SMILEVIDEO」が始まり、ユーザーが自分で作った動画を投稿できるようになりました。ここから「自分の歌を録音して投稿する」という遊びが本格化します。
そして2007年5月、ニコニコ大百科によると「歌ってみた」が公式のカテゴリとして成立しました。「〜してみた」という動詞の連用形にニコニコらしい遊び心を乗せたこの名前が、そのままジャンル名として定着したわけです。同年6月にはニコニコ動画上の人気曲をメドレーにした「組曲『ニコニコ動画』」が投稿され、これを大勢のユーザーが歌ってみたでカバーする一大ムーブメントが起きました。「誰かの動画に、歌で参加する」という文化の原型が、この時期にできあがったと言えます。
2007〜2010年頃:初音ミクとボカロ文化との出会い
歌ってみたの歴史を語るうえで欠かせないのが、2007年8月31日に発売された歌声合成ソフト「初音ミク」です(ITmediaほか各種報道より)。
発売後まもなく、「ボカロP」と呼ばれるクリエイターたちがオリジナル曲を次々とニコニコ動画に投稿し始めます。そして重要なのはここからで、ボカロ曲を人間が歌い直す「歌ってみた」が創作の連鎖の中に組み込まれたことです。楽曲に触発されたユーザーがイラストを描き、踊り、歌う——この連鎖の一角として、歌ってみたはボカロ文化とともに成長していきました。一時はニコニコ動画のランキングがボカロのオリジナル曲とその派生動画で埋め尽くされるほどの盛り上がりだったと伝えられています。
「ボカロ曲の高難度メロディを人間が歌いこなす」という楽しみ方はこの時期に確立し、2026年現在も歌ってみたの選曲の中心にボカロ曲があるのは、この歴史の延長線上にあります。
2010年代:黄金期からYouTube時代への移行
2010年代前半は、ニコニコ動画を中心に歌ってみたが最も盛り上がった時期のひとつとされています。人気歌い手のメジャーデビューやユニット活動が相次ぎ、「歌い手」という言葉が広く知られるようになっていきました。この頃に活動を始めた歌い手が、現在の音楽シーンの第一線で活躍しています。
2010年代後半になると、活動の中心は徐々にYouTubeへ移っていったと見られています。個々の移行時期はさまざまですが、象徴的な出来事をいくつか挙げると次の通りです。
- 2017年夏:TikTokが日本上陸。楽曲の一部を切り取った短い動画が拡散する、新しい音楽の広まり方が生まれました
- 2019年6月:ニコニコ動画のカテゴリタグ制度が終了(ジャンル制へ移行)とされています。2007年から続いた「歌ってみたカテゴリ」の形がひとつの区切りを迎えました
- 2019年11月:YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」開始。白いスタジオでの一発撮りという形式が大きな話題となり、「歌唱そのものを聴かせる動画」がYouTubeの主要コンテンツであることを印象づけました
プラットフォームが変わっても、「好きな曲を自分の声で歌って届ける」という核は変わりませんでした。むしろYouTubeの広い視聴者層に触れることで、歌ってみたはニコニコ発の文化から、より一般的な音楽コンテンツへと広がっていったと考えられます。
2020年代前半:メジャーシーンとの合流とショート動画の衝撃
2020年10月、歌い手として活動していたAdoさんが「うっせぇわ」でメジャーデビューし、同曲は社会現象と呼べるヒットになりました。ボカロPが楽曲を提供し、歌い手出身のシンガーが歌う——ニコニコ動画で育った文化の組み合わせが、そのままJ-POPの最前線に躍り出た出来事として、歌ってみた史に残るトピックです。
並行して、動画の「長さ」にも革命が起きます。2021年7月、YouTube ショートが日本を含む世界100か国以上で提供開始されました。TikTokと合わせて、楽曲のサビだけを60秒前後で聴かせるショート動画が、歌声に出会う入口として一気に存在感を増したのです。フル尺の歌ってみた動画を投稿しつつ、ショートで新規リスナーとの接点を作る二段構えは、現在では定番の戦略になっています(具体的なやり方はショート動画攻略で解説しています)。
また、歌ってみた音源をサブスクで配信する歌い手や、歌枠(歌配信)を活動の軸にする歌い手も増えていきました。このあたりは歌ってみたのサブスク配信の記事などで詳しく扱っています。
2020年代半ば〜2026年:AIと多様化の時代へ
2020年代半ばになると、AI技術が歌ってみた制作の現場に入ってきます。ボーカルと伴奏を分離するAIボーカル抽出や、MIX作業の一部を自動化するAI MIXといったツールが登場し、「機材や専門知識がないと作れない」というハードルは着実に下がりつつあります。
2026年現在の歌ってみたは、ニコニコ動画・YouTube・TikTok・ショート・配信・サブスクと、活動の場が歴史上もっとも多様になった時代と言えるでしょう。一方で、カバー動画である以上ついて回る権利の問題は今も変わらず重要です(歌ってみたと著作権を必ず確認してください)。
この「現在地」の詳しい分析は、別記事で改めて考察する予定です。
まとめ:20年たっても核は「好きな曲を自分の声で」
歌ってみたの歴史をあらためて振り返ると、次のような流れでした。
- 2006〜2007年:ニコニコ動画の誕生とともに「歌ってみた」がカテゴリとして成立
- 2007年〜:初音ミク発売。ボカロ文化との連鎖の中で成長
- 2010年代:黄金期を経て、活動の中心がYouTubeへ広がる
- 2020年代前半:歌い手出身アーティストがメジャーシーンで大ヒット。ショート動画時代が到来
- 2020年代半ば〜:AI技術の浸透とプラットフォームの多様化
投稿する場所も、作り方も、20年間で大きく変わりました。それでも「好きな曲を、自分の声で歌って、誰かに聴いてもらう」という核の部分だけは、2006年から一度も変わっていません。この歴史の続きを作るのは、いま歌っているあなたです。これから始める人は歌い手の始め方ロードマップから、最初の一歩を踏み出してみてください。



















