歌い手部では2019年から2021年にかけて、「歌い手部総研」として歌い手志望者へのアンケート調査を全11回にわたって公開してきました。理想の歌い手像から練習時間、機材、録音場所、悩みまで、歌い手を目指す人たちの「リアル」を数字で記録してきたシリーズです。
調査から数年が経った今読み返すと、「これは今も変わらないな」という普遍的な部分と、「ここは時代が変わったかも」という部分の両方が見えてきて、なかなか面白い資料になっています。
この記事では、全11回の調査結果を1本にまとめて俯瞰できるようにしました。これから歌い手を始める人は「先輩たちがどこでつまずき、何を考えていたか」の参考に、すでに活動中の人は「自分だけじゃなかったんだ」という答え合わせに使ってみてください。
全11回の調査結果早見表
まずは全体像から。各回の詳細データはリンク先の元記事で確認できます。いずれも当サイトが実施したインターネット調査で、回答者は歌い手部ユーザー(歌い手志望者・活動者)です。
| 回 | テーマ(実施時期) | 主な結果 |
|---|---|---|
| 第1回 | 理想の歌い手(2019年7月・50名) | 憧れる理由は「歌声」への言及が最多。高音や透明感への憧れが目立った |
| 第2回 | 歌・ボイトレの悩み(2019年7〜8月・18名) | 最多の悩みは「練習場所」。技術の悩みと環境の悩みに大別された |
| 第3回 | 機材(2019年8〜9月・13名) | 8割が何らかの機材を所持。PC・マイク・ヘッドホンが中心 |
| 第4回 | 練習時間(2019年9月・20名) | 8割が練習中。平均は週12.4時間だが、実態は「ほぼ0」と「毎日約2時間」に二極化 |
| 第5回 | ユニット活動(2019年10月・42名) | 実際に活動中は17%だが、「やってみたい」は74%にのぼった |
| 第6回 | 使用マイク(2020年4〜5月・56名) | マイク所有者は43%。所有者の75%がコンデンサーマイク派 |
| 第7回 | 録音場所(2020年3月・57名) | 約7割が自宅録音。その多くは自室だった |
| 第8回 | 有名になったらやりたいこと(2020年6月・87名) | 約4割が「ライブをやりたい」。コラボ希望は14% |
| 第9回 | 動画イラスト(2020年6月・34名) | 7割以上が自作。一方で約7割は「今後は絵師さんに依頼したい」 |
| 第10回 | 練習内容(2020年3月・51名) | 94%が自分なりの練習法を持つ。ボイトレメニューは腹式呼吸(29%)が最多 |
| 第11回 | 2020年の振り返り(2020年12月・188名) | 85%以上が「今年歌が上手くなった」と回答。6割以上が翌年の目標を設定済み |
練習のリアル:9割が「自分なりの練習法」を持っている
まず練習まわりの調査(第4回・第10回・第2回)から見えてきたことを整理します。
練習時間は「二極化」していた
第4回(2019年)の調査では、回答者の8割が歌の練習をしており、練習時間の平均は週12.4時間、1日あたり約1.7時間でした。ただし平均値だけを見ると実態を見誤ります。分布を見ると「週0〜5時間のグループ」と「週15〜20時間のグループ」の2つの山に分かれていたのです。がっつり毎日練習する人と、なかなか時間が取れない人がはっきり分かれる——この構図は、今の歌い手コミュニティを見ていても頷ける結果ではないでしょうか。
練習メニューの王道は今も昔も変わらない
第10回(2020年)では94%が「自分なりの練習法がある」と回答しました。内容は「上手い人を参考にする」(24%)、「曲を聞きこむ」(21%)が上位で、ボイトレメニューとしては腹式呼吸(29%)、リップロール(20%)、エッジボイス(14%)が定番でした。意識していることは「発声」(36%)と「音程」(29%)が中心。特別な裏技ではなく、基礎練習の積み重ねが多数派だったという点は、これから始める人にとって安心材料になるはずです。
最大の悩みは技術ではなく「練習場所」
第2回(2019年)の悩み調査で最多だったのは、高音でも音程でもなく「練習場所がない」でした。思い切り声を出せる場所の確保は、当時も今も歌い手の共通課題と言えそうです。悩みは「高音が出ない・音程が合わない」といった技術系と、「場所・時間・お金がない」といった環境系に大別され、環境系の悩みが目立ったのがこのシリーズの特徴的な発見でした。
機材と録音環境のリアル:主戦場は「自室」
機材まわりの調査(第3回・第6回・第7回)からは、歌い手志望者の等身大の制作環境が見えてきます。
第6回(2020年)の時点で、マイクを持っている人は43%と半数以下でした。一方で所有者の75%はコンデンサーマイクを選んでおり、「買うならしっかりした録音用マイクを」という意識がうかがえます。メーカーはaudio-technicaが最多で、SHUREが続きました。マイクを持っていない層では、スマホ用イヤホンマイクで録音している人が2割以上いたことも当時の調査で分かっています。
録音場所は第7回(2020年)で約7割が「自宅」、その多くが「自室」でした。防音室を使える人は1割未満。つまり「普通の部屋で、工夫しながら録る」のが昔も今も多数派です。第3回(2019年)でも8割が何らかの機材(PC・マイク・ヘッドホンが中心)を持っており、欲しい機材の上位にはDAWソフトが入っていました。限られた環境でもクオリティを上げようとする姿勢は、シリーズを通して一貫していました。
活動スタイルと夢のリアル:ソロで始めて、いつかライブへ
活動面の調査(第5回・第8回・第9回・第11回)も振り返ります。
- ユニット活動(第5回):実際にユニットで活動している人は17%にとどまる一方、「やってみたい」は74%。「楽しそう」「切磋琢磨できる」が主な理由で、ソロ派は「自由度」「まず自分の実力を確立したい」を挙げていました
- 有名になったらやりたいこと(第8回):約4割が「ライブ開催」と回答。有名歌い手とのコラボ(14%)、グッズ化、声優活動が続き、「誰かを勇気づけたい」という声もありました
- 動画イラスト(第9回):7割以上が自分で描いて用意しつつ、約7割が「今後は絵師さんに依頼したい・している」と回答。動画のビジュアルへのこだわりは当時から強かったことが分かります
- 1年の振り返り(第11回):2020年末の調査では85%以上が「今年1年で歌が上手くなった」と実感。6割以上が翌年の目標(投稿頻度アップ、初投稿、クオリティ向上など)を決めていました
第1回(2019年)の「理想の歌い手」調査では、憧れる理由として「歌声」への言及が圧倒的に多く、高音や透明感のある声への憧れが目立ちました。誰かの歌声に憧れて始まり、ソロで力をつけ、いつか仲間とライブへ——この王道ストーリーは、調査データの上でもはっきり表れていたわけです。
2026年から見た「変わらない点」と「変わったと思われる点」【考察】
ここからは調査データを離れた、筆者の考察です。新しい調査を実施したわけではないので、あくまで「2026年時点でサイトを運営していて感じること」としてお読みください。
変わらない点(と筆者が考えるもの)
- 練習場所・防音の悩み:自室録音が中心である以上、声を出せる場所の確保は今も歌い手の最重要課題のままだと感じます
- 基礎練習の王道:腹式呼吸やリップロールといった定番メニューの価値は変わっていません
- 「憧れから始まる」構図:好きな歌い手の歌声に憧れて自分も歌い始める、という入口は今も健在です
変わったと思われる点(筆者の考察)
- 機材のハードルが下がった:調査当時はマイク所有率43%でしたが、現在はスマホだけで録音から投稿まで完結する選択肢が充実しています。スマホで歌ってみたを作る方法で解説している通り、「機材がないから始められない」という壁は当時より低くなったと考えています
- MIXの選択肢が増えた:当時は「MIX師さんに依頼するか、自分で覚えるか」の二択に近い状況でしたが、現在はAIを活用したMIXという第三の選択肢が生まれつつあります
- 投稿先が多様化した:調査当時の主戦場はニコニコ動画とYouTubeでしたが、現在はTikTokやショート動画も含めた多面的な展開が一般的になったと見ています
こうした変化を踏まえた始め方の全体像は歌い手の始め方ロードマップにまとめています。
まとめ:数字が教えてくれる「みんな同じ場所でつまずいている」という事実
全11回の調査を俯瞰して見えてくるのは、歌い手志望者の悩みや歩みが驚くほど共通しているということです。
- 誰かの歌声に憧れて始める(第1回)
- 練習場所と時間の確保に悩む(第2回・第4回)
- 自室で、手持ちの機材で工夫しながら録る(第3回・第6回・第7回)
- 基礎練習を積み重ねる(第10回)
- いつかのライブやコラボを夢見て続ける(第5回・第8回・第11回)
今あなたが「練習場所がない」「機材が揃わない」と悩んでいるなら、それは数年前の先輩たちが通ってきた道そのものです。各回の詳細データは早見表のリンクからぜひ読んでみてください。数字の向こうに、あなたと同じ場所で悩んでいた仲間の姿が見えるはずです。



















