「ソルフェージュ」という言葉を、ボイトレや音楽教室の案内で見かけたことはありませんか。音大を目指す人の勉強というイメージが強く、歌ってみたを楽しみたいだけの自分には関係ない、と感じている方も多いかもしれません。
ですが、ソルフェージュの中身を分けて見ると、「楽譜やドレミを見て歌う」「聴いた音を書き取る」「リズムを読む」という、歌い手が日ごろ困りがちな場面そのものを扱う練習です。この記事では、ソルフェージュとは何かを整理したうえで、移動ドと固定ドの違い、自宅でひとりで取り入れるときの練習メニューと確かめ方までをまとめます。
視唱・聴音・リズム読みと歌での使いみち
先に全体像を表にしておきます。どれか1つから始めてかまいません。
| 柱 | 何をするか | 歌ってみたでの使いみち |
|---|---|---|
| 視唱(ししょう) | 楽譜やドレミの並びを見て、楽器に頼らず歌う | 新しい曲やハモリパートを、音源を何度も聴き直さずに歌い始めやすくなる |
| 聴音(ちょうおん) | 聴こえた旋律やリズムを書き取る | 耳コピで「どこが分からないのか」を自分で切り分けやすくなる |
| リズム読み | 音の高さを付けずに、リズムだけを声や手拍子で読む | 走る・もたつくといった癖を、音程と切り離して確かめられる |
音大受験のような本格的な訓練をそのまま真似る必要はありません。1回10分ほど、短いフレーズを「見て歌う・聴いて書く・叩いて読む」の3方向から触るくらいの量でも、練習の見通しは立てやすくなります。
ソルフェージュとは:楽譜と音を行き来する基礎練習
ソルフェージュは、楽譜を読む力と、音を聴き取る力を育てる音楽の基礎練習の総称です。フランス語の solfège に由来し、ドレミの「ソ」「ファ」のような階名で歌う練習から来た呼び名とされています。
中身は「歌う・聴く・読む」の組み合わせ
国語辞典では、視唱は「初めて見る曲を楽器の助けを借りずに楽譜だけを見て歌うこと」、聴音は「聞こえた旋律や和音を楽譜に書き写すこと」と説明されています。これにリズムを叩いたり読んだりする練習を合わせたものが、一般にソルフェージュと呼ばれています。音符や記号の決まりを学ぶ「楽典」は、ソルフェージュと並べて扱われることが多い分野です。
音大の入試では科目名として出てくる
音楽大学の入試では、「新曲視唱」「聴音」「楽典」といった科目名で出題されることがあります。たとえば東京藝術大学音楽学部声楽科の2026年度入試の課題曲資料(2025年9月発表)では、第三回試験に「新曲視唱」と「リズム課題」が、音楽に関する基礎能力の検査として並んでいます。試験の内容は大学や専攻で異なるため、受験を考えている方は志望校の募集要項で確かめてください。
歌い手が自宅で取り入れる場合は、合否のための訓練ではなく、「楽譜とドレミと自分の声をつなぐ練習」と考えると、続けやすい量に調整できます。楽譜の記号そのものの読み方は、歌う人のための楽譜の読み方で扱っています。
移動ドと固定ド:歌い手はどちらで読むか
ソルフェージュを始めると、まず迷うのが「ドをどこに置くか」です。
| 読み方 | ドの位置 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 移動ド(階名唱) | その曲の主音をドと読む。短調では主音をラと読むのが一般的 | キーを変えて歌うことが多い人、ハモリの音程関係をつかみたい人 |
| 固定ド(音名唱) | 実際の高さで、ハ音(C)を常にドと読む | ピアノを習っていて、鍵盤の位置とドレミがすでに結びついている人 |
小学校と中学校の学習指導要領(平成29年告示)の音楽では、相対的な音程感覚を育てるために、適宜、移動ド唱法を用いることが示されています。歌ってみたでは原曲キーから上げ下げして歌う場面が多く、キーが変わっても「主音からの距離」で読める移動ドは、歌い手と相性のよい読み方だといえます。
とはいえ、固定ドが体に入っている方が無理に切り替える必要はありません。どちらで読む場合も、1つの練習の中では読み方を混ぜないことが混乱を避けるコツです。音名・階名・音程の言葉の違いや、音感トレーニング側から見た考え方は、音感をつけるトレーニング方法にまとめています。
視唱:ドレミを見て歌う練習の進め方
視唱はソルフェージュの中でも、歌い手の練習に直結しやすい柱です。楽譜が苦手な方は、五線ではなく「ドレミをカタカナで書いた並び」から始めてもかまいません。
- 主音を鳴らして耳に置く:鍵盤アプリでその曲のド(移動ドなら主音)を鳴らし、ハミングで同じ高さを出します。
- ドレミの音階を一往復歌う:ドからオクターブ上のドまで上がって戻り、その日の基準を作ります。
- 4〜8音の短いフレーズを見て歌う:鍵盤を鳴らさずに、ドレミで歌い切ります。分からない音があっても止まらずに進みます。
- 鍵盤で答え合わせをする:同じフレーズを鍵盤で弾き、ずれた音に印を付けます。
- 印の音だけを取り出して往復する:前の音から印の音へ、2音だけを何度か行き来します。
はじめは「隣の音に進む」動きが多い、跳躍の少ないフレーズを選ぶと進めやすくなります。慣れてきたら、ド→ミ→ソのように1つ飛ばしの動きや、ドから上のドへ跳ぶ動きを混ぜていきます。視唱で外れやすい音は、たいてい半音の動き(ミ→ファ、シ→ド)や大きな跳躍のところに集まります。
歌詞を付けるのは最後
練習中のフレーズに歌詞があっても、まずはドレミで歌い、次に「ラ」などの1つの音で歌い、最後に歌詞を付けます。歌詞を付けた途端に外れる場合は、音程ではなく母音や子音の切り替えでピッチが揺れている可能性があり、原因を分けて考えやすくなります。
聴音とリズム読み:聴いて書く・叩いて読む
聴音は「書き取れる単位」から
聴音は、鳴った音を楽譜やドレミに書き起こす練習です。いきなり1曲を書き取ろうとすると挫折しやすいので、次のように単位を小さくします。
- 鍵盤アプリで、自分で弾いた2音が上がったか下がったかを当てる
- 主音から始まる3〜4音の並びを、ドレミで書き取る
- 慣れたら、聴き慣れた曲の短いフレーズをドレミで書き出す
書き取ったら、自分で歌ってから鍵盤で答え合わせをします。「聴く→書く→歌う→確かめる」の順にすると、聴音と視唱が1回の練習でつながります。原曲から旋律を採る具体的な手順は、メロディの耳コピのやり方で詳しく扱っています。
リズム読みは高さを外して行う
リズム読みは、音の高さを付けずに「タン・タタ・ウン(休み)」のような言葉や手拍子でリズムだけを読む練習です。メトロノームを鳴らしながら、次の順で進めます。
- 拍を「1・2・3・4」と声に出して数える
- 拍を数えたまま、音符のところだけ手を叩く
- 手拍子をやめて、同じリズムを「タ」などの一定の高さの声で読む
- 最後に音の高さを付けて歌う
音程が合っているのに「なんとなく下手に聴こえる」ときは、リズムがずれていることがあります。リズム読みでずれる箇所は、歌でもずれやすい箇所として印を付けておくと便利です。メトロノームの設定の仕方はメトロノームを使った歌の練習方法が参考になります。
ひとりで回す1週間の練習メニューと確かめ方
3つの柱を毎日全部やる必要はありません。1回10分ほどを目安に、曜日ごとに主役を変えると、偏りなく触れやすくなります。
| 曜日の例 | 主役 | 内容の例 |
|---|---|---|
| 月・木 | 視唱 | 音階を一往復→4〜8音のフレーズを3つ見て歌い、鍵盤で答え合わせ |
| 火・金 | 聴音 | 主音から始まる3〜4音を5問書き取り、歌ってから答え合わせ |
| 水・土 | リズム読み | 2小節のリズムを4つ、メトロノームに合わせて読む |
| 日 | まとめ | 練習中の曲のワンフレーズを、ドレミ→ラ→歌詞の順に歌って録音する |
判定は録音で行う
歌っている最中の自分の声は、実際とは違って聴こえやすいものです。視唱の答え合わせは、可能ならスマホで録音し、鍵盤の音と並べて聴き比べてください。合っていた音と外れた音を記録しておくと、自分が外しやすい動き(半音・跳躍・高い音への上がり方など)の傾向が見えてきます。
教材は、音楽教室で使われる視唱やリズムの練習曲集のほか、短いフレーズを自分で作ってもかまいません。誰かに聴いてもらえる環境がある場合は、先生に「どこで外れていたか」だけを確認してもらうのも一つの方法です。ソルフェージュで身につけた読み方は、ハモリパートの練習にもそのまま使えます。パートを重ねる流れはハモリの付け方・重ね方で紹介しています。
続かないときの調整
練習が続かない原因は、量より「難しすぎる課題」にあることが多いものです。視唱で半分以上の音が外れるなら、フレーズを4音に縮める、跳躍のない並びに戻すなど、7〜8割は合う難しさまで下げてください。反対に、毎回ほぼ全部合うようになったら、音の数を増やすか、半音の動きを含む並びに進む合図です。
今日から始めるなら:見て・聴いて・叩いて確かめる
- ソルフェージュは、視唱・聴音・リズム読みなどを組み合わせた音楽の基礎練習の総称です
- 歌い手には、キーが変わっても主音からの距離で読める移動ドが扱いやすい読み方です。固定ドが身についている方はそのままでかまいません
- 視唱は短いフレーズをドレミで歌い、鍵盤で答え合わせをして、外れた2音だけを往復します
- 聴音とリズム読みは単位を小さくし、最後は自分の声で歌って確かめます
- 1回10分ほどを曜日ごとに回し、判定は録音で行います
ソルフェージュは、すぐに歌がうまくなる近道というより、練習の中で「どこが分からないのか」を自分で切り分けるための道具です。まずは今日、音階を一往復歌い、4音のフレーズを1つドレミで歌ってみてください。



















