歌ってみたや配信で耳にする、あの機械っぽくしゃくれる声。ケロケロボイス(オートチューン)と呼ばれる加工です。専門的な機材が必要に見えますが、仕組みそのものはとてもシンプルで、ピッチ補正の「直すスピード」を速い側に振り切ることが骨格になります。設定項目は多くても3つか4つで、考え方さえつかめば初挑戦でもその日のうちに形になります。
この記事では、無料で試せるプラグインを前提に、ケロケロボイスの作り方を手順として並べます。あわせて「かけたのにケロらない」「変な音程に飛ぶ」といった、初めてのときにつまずきやすいポイントの直し方もまとめました。
なお、不自然にならないようにピッチを整えるほうの考え方はピッチ補正はどこまで?歌ってみたで自然に使う考え方で扱っています。この記事は逆に「わざとケロらせて表現として使う」側の話だと思ってください。
結論:ケロケロボイスは3つの設定でほぼ決まる
ピッチ補正プラグインには多くのつまみが並んでいますが、ケロケロ具合を左右するのは実質的に「補正の速さ」「補正の強さ」「キーとスケール」の3つです。まずはこの表の「ケロケロ寄り」の列に合わせてみてください。
| 設定項目 | ケロケロ寄りにする | 自然に整える場合 |
|---|---|---|
| 補正の速さ(Speed / Retune Speed) | 速い側に振り切る | ゆっくりめに残す |
| 補正の強さ(Amount / Depth) | 100%付近まで上げる | 30〜60%程度 |
| キーとスケール | 曲のキーに合わせる | 同じく曲のキーに合わせる |
| 歌い方 | ビブラートやしゃくりを抑えて平らに | 抑揚をそのまま残す |
| 原音とのブレンド | 加工後の音だけを使う | 薄く混ぜて自然さを残す |
ポイントは、ケロケロボイスと自然なピッチ補正は別の処理ではなく、同じつまみの振り幅違いだということです。「速く・強く」寄せれば機械的になり、「ゆっくり・弱く」寄せれば自然に近づきます。同じプラグインで両方まかなえるので、1つ覚えれば使い回せます。
ケロケロボイスの正体|「速すぎる補正」が階段状の音程を作る
人の歌声は、目的の音にまっすぐ着地しているわけではありません。少し下から入って上がったり、伸ばすうちに揺れたり、次の音へなめらかにつながったりします。この細かい揺らぎこそが「人が歌っている感じ」の正体です。
ピッチ補正は、入ってきた声の高さを判定して、指定したスケール上の近い音へ引き寄せる処理です。ここで引き寄せる速さを極端に上げると、途中の滑らかなつながりが消え、音程が階段状に飛ぶように切り替わります。この不連続さが、機械が歌っているような印象につながります。
つまりケロケロボイスは「特別なエフェクト」ではなく、補正のやりすぎをあえて狙った状態です。裏を返せば、自然に仕上げたいのにケロってしまう場合も、原因は同じところにあります。
準備するもの|無料のプラグインと、曲のキー
無料で試せるピッチ補正プラグイン
2026年9月時点で、無料のまま配布されている代表的なものとして次の2つがあります。どちらもVST形式などに対応したプラグインなので、読み込めるソフトが別途必要です。
| 名称 | 提供元 | 特徴 |
|---|---|---|
| Graillon(無料版) | Auburn Sounds | ピッチ補正のほか、ボイスチェンジ寄りの音作りもできる。Windows / macOS / Linux対応 |
| MAutoPitch | MeldaProduction | 無料バンドルに含まれるシンプルな補正系。Depth(強さ)とSpeed(速さ)が分かれていて扱いやすい |
有料では Auto-Tune シリーズなどが定番として知られていますが、ケロケロボイスを作るだけなら無料のものでも十分に試せます。まずは無料で感覚をつかんでから、必要を感じたときに検討するので遅くありません。
プラグインを読み込む側のソフト(DAW)をまだ決めていない場合は、歌ってみた向けDAW・録音ソフトおすすめを参考にしてください。録音からMIXまでの全体像をつかみたいときは歌ってみたMIXのやり方・手順完全版が土台になります。
曲のキーとスケールを調べておく
ケロケロボイスで失敗しやすい原因としてよくあるのが、キー設定のズレです。間違ったキーを指定すると、曲に存在しない音へ引き寄せられて、単に音痴に聞こえる仕上がりになります。
キーは、カラオケ音源の配布ページや楽譜サイトの表記、動画の概要欄などで確認できることが多いです。どうしても分からないときは、スケールを「クロマチック(半音すべて)」にする手もあります。ただしクロマチックは近い音に吸い寄せられるぶん移動量が小さく、階段感は出にくくなります。しっかりケロらせたいなら、曲のキーを指定したほうが効果は分かりやすくなります。
手順|ケロケロボイスのかけ方5ステップ
1. まず、ふだんどおり丁寧に録る
「どうせ加工するから」と雑に歌うと、元の音程が半音ずれた場所で別の音に引き寄せられ、意図しないメロディになります。加工前提でも、元のテイクの精度が高いほど狙いどおりに仕上がりやすいという関係は変わりません。とくに半音単位のずれは、補正後に別の音へ着地してしまうため、その場で録り直したほうが早く済みます。
2. ノイズとブレスを先に処理する
ピッチ補正は、入力された音の高さを常に判定し続けています。エアコンの低い唸りやリップノイズが乗っていると判定が揺れ、歌っていない場所で変な音が鳴ることがあります。補正をかける前に歌ってみた録音のノイズ除去を済ませておくと、結果が安定しやすくなります。
3. キーとスケールを入力する
プラグインを立ち上げたら、まずKEYとSCALE(またはメジャー/マイナーの指定)を曲に合わせます。ここを飛ばしていきなり速さを上げると、原因の切り分けができなくなります。
4. 速さのつまみを速い側へ、強さを上げる
SpeedやRetune Speedにあたるつまみを、速い側いっぱいまで動かします。次にAmountやDepthを100%付近へ。この2つを動かした時点で、独特の折れ曲がった音程変化が聞こえてくるはずです。
5. 濃さを決める(原音とのブレンド)
全編べったりかけると、曲によってはうるさく感じることがあります。トラックを複製して、加工した声と素の声を場面ごとに切り替える、あるいはMixつまみで薄める、といった調整で濃さを決めます。サビだけ加工して落ちサビは素、という使い分けも扱いやすい形です。
うまくケロらない・不自然になるときの対処
思ったとおりにならないときは、次の対応表から当てはまるものを探してください。
| 症状 | よくある原因 | 対処 |
|---|---|---|
| かけたのにケロらない | 速さが足りない / スケールがクロマチック | 速さを速い側へ。スケールを曲のキーに指定し直す |
| 音程が変な場所へ飛ぶ | キー設定の間違い / 元のテイクが半音ずれ | キーを再確認。該当部分だけ録り直す |
| ロングトーンだけ揺れる | ビブラートが深い | 揺らさず平らに伸ばして録り直す |
| 金属的でガサガサする | かけすぎ / フォルマント系の設定が極端 | 強さを少し戻す。フォルマントは初期値付近へ |
| 声が細く前に出ない | 加工で成分が削られている | 素の声を薄く重ねる、音量バランスを取り直す |
とくに多いのが、3番目のビブラートです。歌として良い揺らぎほど、補正が追いかけて波打ち、ケロケロというより「ぐにゃぐにゃ」した質感になりがちです。ケロケロボイスを狙う区間だけは、あえて表情をつけずに歌うと狙いに近づきやすくなります。
曲の中での使いどころと、よくある質問
全編かけるスタイルも1つの選択ですが、切り替えのある構成のほうが聴き手の印象に残りやすいという考え方もあります。サビだけ、Bメロの掛け合いだけ、ラップ調のパートだけ、語りのような部分だけ、といった具合に区間を決めると、加工そのものが表現になります。
歌が苦手でもケロケロにすればごまかせますか?
音程の細かいばらつきは目立ちにくくなりますが、リズムのずれや発音のあいまいさはそのまま残ります。むしろ機械的な声になるぶん、タイミングのずれは目立ちやすくなる傾向があります。
スマホだけでもできますか?
ボイスエフェクト機能を備えたアプリであれば、それらしい質感までは作れます。ただしキーやスケールの細かい指定ができないものも多く、狙った階段感を出したい場合はパソコン側のほうが調整の幅は広くなります。
MIX師さんに頼む場合は何を伝えればいい?
「どの区間に」「どのくらいの濃さで」かけてほしいかを、参考になる既存曲とあわせて伝えると認識がそろいやすくなります。素材の渡し方はMIX依頼の準備ガイドにまとめてあります。
AIツールでも作れますか?
自動でバランスを整えるタイプのツールは、どちらかというと「自然に近づける」方向に働くものが中心です。狙って崩す加工は自分で設定したほうが再現しやすい場面が多くなります。現状のできることはAIでMIXはどこまでできる?で整理しています。
ピッチ補正で声を加工していると、いっそボイスチェンジャーで声質ごと変えられないかと考える人もいます。歌声に使ったときに何ができて何が難しいのかは、ボイスチェンジャーを歌ってみたに使うときの限界と使い分けで整理しています。
まとめ
ケロケロボイスは、ピッチ補正の「速さ」と「強さ」を振り切り、曲のキーを正しく指定することで作れます。特別なソフトを買わなくても、無料のプラグインで手順そのものは一通り試せます。
うまくいかないときの原因は、ほとんどがキー設定の間違いか、ビブラートの残りか、かけすぎのどれかです。今回の対応表を手元に置いて、1か所ずつ切り分けてみてください。そして仕上げの段階では、加工した区間と素の区間を並べて聴き比べ、曲として気持ちよく聞こえる濃さを探すのがおすすめです。



















