歌ってみたを聴いていると、イントロや曲の途中で、声が急に古いラジオや電話越しのような細い音に変わる演出に出会うことがあります。あの「ラジオボイス(電話ボイス)」は、特別な機材がなくても、DAWに付属しているEQといくつかのエフェクトで作れます。
この記事では、ラジオボイスがなぜあのように聞こえるのかを整理したうえで、EQを中心にした作り方の手順、曲の中での使いどころと切り替え方、うまくいかないときの対処までを解説します。数値は出発点の目安なので、最後は自分の声とオケに合わせて耳で決めてください。
結論:帯域を狭く切って、少しだけ歪ませる
ラジオボイスの作り方を、工程ごとにまとめます。
| 工程 | 使うもの | 設定の目安 |
|---|---|---|
| 1. 低音を切る | EQのハイパスフィルター | 300〜600Hzあたりから下をばっさり切る |
| 2. 高音を切る | EQのローパスフィルター | 3〜5kHzあたりから上を切る |
| 3. 中域に癖をつける | EQのベル(ピーク) | 1〜2kHz付近を数dB、狭めに持ち上げる |
| 4. ざらつきを足す | サチュレーション・ディストーション | 原音と混ぜて、わずかに歪む程度 |
| 5. 粒をそろえる | コンプレッサー | 音量の上下を少し抑える |
| 6. 音量を合わせ直す | トラックのフェーダー | 前後のパートと聞こえの大きさを揃える |
中心になるのは1と2です。声の低いほうと高いほうを大胆に削り、真ん中の帯域だけを残すことで、小さなスピーカーから鳴っているような音になります。そこに少しの歪みを足すと、「録音が悪い声」ではなく「演出としてのラジオ声」に聞こえやすくなります。
なぜ「ラジオっぽく」聞こえるのか
ふだん私たちが電話やラジオで聞いている声は、もとの声の一部の帯域しか含んでいません。従来の電話の音声帯域は、おおむね300〜3,400Hzとされています。声の太さを作る低い帯域と、息づかいや空気感を作る高い帯域がない状態です。
また、ラジオや電話の小さなスピーカーには、特定の帯域が強く鳴る癖があり、音量が大きくなると音がわずかにひずみます。ラジオボイスは、この3つの特徴をまねして作ります。
- 帯域が狭い:低音も高音も足りない、細い声
- 中域に癖がある:鼻にかかったような、やや硬い響き
- 少しひずんでいる:スピーカーや回線を通った感じのざらつき
さらに、ラジオや電話の声は基本的に1つのスピーカーから聞こえるため、左右に広がりません。ラジオボイスにするパートは、ダブラーやステレオで広げるエフェクトを控えて、中央にまとめると雰囲気が出やすくなります。
DAWでの作り方の手順
ここからは、DAWでの具体的な手順です。使うのは、ほとんどのDAWに付属しているEQ・サチュレーション(またはディストーション)・コンプレッサーです。
1. ラジオボイスにする部分を別トラックに分ける
曲全体ではなく、イントロの一節やセリフ部分など、一部だけをラジオボイスにすることがほとんどです。ボーカルトラックの該当部分をクリップごと切り分け、新しく作ったトラックへ移します。こうしておくと、通常のボーカルの設定を崩さずに、そのパートだけ別のエフェクトをかけられます。
2. ハイパスとローパスで帯域を絞る
EQでハイパスフィルターを入れ、300〜600Hzあたりから下を切ります。続けてローパスフィルターで、3〜5kHzあたりから上を切ります。通常のボーカルMIXで低域を整えるときより、ずっと高い位置で切るのがポイントです。
フィルターの傾き(スロープ)は、選べるなら急なものにすると、帯域の外がはっきり落ちて「ラジオらしさ」が出やすくなります。EQの基本的な考え方はボーカルEQの基本で解説しています。
3. 中域を少しだけ持ち上げる
残った帯域の中で、1〜2kHz付近を狭め(Qを高め)に数dB持ち上げます。周波数を少しずつ動かしながら聴き、声が鼻にかかったような硬さを帯びる位置を探します。上げすぎると耳に痛い音になるので、少し物足りないくらいで止めておくと、あとの工程で調整しやすくなります。
4. サチュレーションで薄く歪ませる
次に、サチュレーションやディストーションを挿して、声にざらつきを足します。原音と処理音を混ぜるつまみ(Mix・Dry/Wet)があれば、処理音を少なめにして、ほんのり歪む程度から始めます。強くかけるほど古いラジオのような荒れた音になるので、曲の雰囲気に合わせて量を決めます。
EQと歪みのどちらを先に挿すかで、歪み方が変わります。先にEQで帯域を絞ってから歪ませると、残した帯域の中だけで歪むため、ラジオらしいまとまった音になりやすいです。エフェクトの並べ方の考え方はボーカルMIXのエフェクトの順番にまとめています。
5. コンプで粒をそろえ、音量を合わせ直す
帯域を大きく削ると、声は細くなるだけでなく小さく聞こえるようになります。コンプレッサーで音量の上下を少し抑えてから、トラックのフェーダーで前後のパートと聞こえの大きさを揃えます。ラジオボイスの部分だけ急に小さくなると、演出ではなく音量のミスに聞こえてしまうので、切り替わる前後を何度か聴き比べて調整しましょう。
6. 空間系は控えめにする
通常のボーカルと同じ量のリバーブをかけると、細い声に響きばかりが目立って、ぼやけた音になりがちです。ラジオボイスのパートは、リバーブを減らすか外し、余韻がほしいときは短めのディレイを薄く足す程度にすると、輪郭が保ちやすくなります。
曲の中での使いどころと切り替え方
ラジオボイスは、ずっと使い続けると単調になります。効果的に聞かせるには、使う場所と切り替えの瞬間を意識することが大切です。
使いどころの例
- イントロや歌い出しの数小節:細い声で始めて、本編で通常の声に戻すと、曲が開ける感じが出しやすくなります
- セリフや語りのパート:歌と語りの区別がはっきりします
- 落ちサビやブリッジ:音数が減る場所で、雰囲気を変える演出として使えます
- ハモリや合いの手の一部:メインの声と区別して、遠くから聞こえるような役割を持たせます
切り替えの境目を自然にする
通常の声とラジオボイスの切り替わりで、ブツッと音が途切れたり、息の音だけ残ったりすることがあります。クリップを分けるときは、息継ぎや無音の部分で切り、境目に短いフェードを入れておくと自然につながります。
トラックを分けずに、EQのフィルターの周波数をオートメーションで動かす方法もあります。少しずつ帯域を狭めていけば、声がだんだん遠ざかるような演出にもできます。最初はトラックを分ける方法のほうが管理しやすいので、慣れてきたら試してみてください。
うまくいかないときの対処
よくある症状と、見直す場所をまとめます。
| 症状 | 考えられる原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 歌詞が聞き取りにくい | 帯域を絞りすぎている | ローパスの位置を少し上げる、ハイパスを少し下げる |
| 演出ではなく、録音の失敗に聞こえる | 歪みや中域の癖が足りない | 中域のピークとサチュレーションを少し足す |
| そのパートだけ音量が小さい | 帯域を削った分、聞こえが小さくなった | コンプのあとでフェーダーを上げて揃える |
| 耳に刺さる・痛い | 中域を上げすぎ、または歪みが強すぎる | ピークを下げる、歪みの量を減らす |
| オケに埋もれる | オケも同じ中域で鳴っている | そのパートだけオケを少し下げる、オケの同じ帯域を軽く削る |
完成形のイメージがつかめないときは、ラジオボイスの演出が入った曲を参考にしつつ、通常の声のパートはリファレンス曲と比べて仕上げると、全体のバランスが取りやすくなります。比べ方はMIXのリファレンス曲の使い方で解説しています。
よくある質問
Q. 有料のプラグインがないと作れませんか
いいえ、DAWに付属しているEQで基本の音は作れます。ラジオ風・電話風のプリセットを用意しているプラグインもあるので、それを出発点にして、帯域の位置を自分の声に合わせて動かすのも1つの方法です。
Q. スマホのアプリだけでも作れますか
EQで低音と高音を削れるアプリなら、同じ考え方で近い音を作れます。ただし、フィルターの位置を細かく決められないアプリもあるので、その場合はプリセットや「電話」「ラジオ」などの名前がついたエフェクトを探してみてください。
Q. ケロケロボイスと組み合わせてもいいですか
組み合わせることもできます。ピッチ補正で作るケロケロボイスにラジオボイスを重ねると、機械的で遠い雰囲気が出ます。ただ、加工を重ねるほど歌詞が聞き取りにくくなるので、使う範囲は短めにしておくと聴きやすさを保ちやすくなります。ケロケロボイスの作り方はケロケロボイスの作り方で紹介しています。
Q. オケのキーを変えた曲でも同じ設定でいいですか
帯域の目安は同じですが、キーを大きく変えると声の高さも変わるため、中域のピークの位置は聴きながら探し直すのがおすすめです。オケのキーの変え方は歌ってみたのオケのキー変更にまとめています。
帯域を絞るだけでは物足りず、声に軽い歪みを足して質感を変えたいときのかけ方と量の決め方は、ボーカルのサチュレーションの解説で詳しくまとめています。
まとめ
- ラジオボイスは「狭い帯域」「中域の癖」「少しの歪み」の3つで作る
- ハイパスは300〜600Hzあたり、ローパスは3〜5kHzあたりから試す
- 中域を狭く持ち上げ、サチュレーションは薄めから始める
- 帯域を削ると小さく聞こえるので、前後のパートと音量を揃え直す
- 使う場所を絞り、切り替えの境目にフェードを入れて自然につなぐ
まずはイントロの数小節など、短い部分で試してみてください。通常の声との対比が生まれるだけで、曲の始まりや展開に変化をつけやすくなります。



















