ボイストレーニングをしていると、
腹式呼吸という言葉をよく耳にします。
「腹式呼吸で歌うことは
歌を歌う上で基礎中の基礎である。」
私もこのことに関して
異論を唱えるつもりはありません。
腹式呼吸をすることで
喉まわりの無駄な力を抜くことができる。
それだけでなく、
息をしっかり吸うことができる。
歌を歌う面で、
腹式呼吸をする利点はたくさんあります。
ただ、腹式呼吸は
難しいものではありません。
横になって寝る時に
自然に腹式呼吸になります。
何も、腹式呼吸は
特別なテクニックではありません。
だからこそ、
難しいことがひとつあります。
それは腹式呼吸ができているかどうかを
チェックすることが難しいということです。
「腹式呼吸ができているかわからないです。」
という質問をよくされます。
この質問をされた時に
私はいつも決まった回答をします。
「腹式呼吸は意識しなくていい。」
ということです。
なぜ腹式呼吸を
意識しなくていいと思うのか?
腹式呼吸ができているか
どうすればチェックできるか?
今回はこのふたつの議題を
掘り下げていきたいと思います。
腹式呼吸ができているか確認する方法
まず腹式呼吸ができているか
チェックする方法について話していきます。
腹式呼吸のチェックをする方法は
ふたつあります。
鏡を見ながら歌う
まずひとつが
鏡の前で歌うことです。
腹式呼吸は
名前の通りお腹が動きます。
息を吸う時にお腹が膨らんで、
息を吐く時にお腹がしぼむ。
お腹が動いていれば、
腹式呼吸ができていると言えます。
ただ、ゆるい服を着ていると
動いているかわからない時があります。
そういう時は服をまくるなど
工夫していただければと思います。
お腹に手を当てる
ただ歌っている場所に
鏡があることは意外と少ないです。
お腹の動きを確認するためには
大きめの鏡が良いです。
そういう時は
お腹に手を当てると良いです。
また鏡を見てわからない人は
こちらのやり方をおすすめします。
お腹に手を当てた状態で、
歌ってみましょう。
お腹が動いていることを
手で確認できればOKです。
腹式呼吸は意識しなくていい
ただ、個人的には
腹式呼吸を意識する必要はないと思います。
少なくとも、歌う時に
腹式呼吸を意識しすぎる必要はありません。
先ほども言ったように、
腹式呼吸は特別なスキルではありません。
横になって寝る時に
誰もが腹式呼吸をしているのです。
腹式呼吸をするメリットは
力まずに歌えることです。
リラックスして歌うことは
とても大切です。
無理に腹式呼吸をしようとすると
逆に緊張してしまうことがあります。
力まないためにやっているのに
意識しすぎて力んでいては本末転倒です。
だから歌う時には
意識する必要はないと思います。
歌う前にウォーミングアップをすれば
腹式呼吸に自然と切り替わります。
それで、あとは
リラックスして歌えば良いと思います。
腹式呼吸に切り替える方法
では、どうすれば
腹式呼吸に切り替えることができるのか?
それはロングブレスです。
- まず、口から
息を全て出し切ります。 - その状態で3秒間、キープします。
- 次に鼻から
息をできるだけ吸います。 - その状態で3秒間、キープします。
(1番に戻る。)
これを3セットやると
自然と腹式呼吸になります。
歌う前にぜひやってください。
腹式呼吸より先に決めておきたい「息をどこで吸うか」
腹式呼吸ができているかどうかを気にする方は多いのですが、実際の曲を歌うときに差が出やすいのは、呼吸の種類そのものよりも「どこで吸うか」「どれくらい吐くか」の配分だと言われています。同じ肺活量でも、吸う場所を決めているかどうかで歌いやすさは変わってきます。
まずやってみていただきたいのが、歌詞カードにブレス位置を書き込む作業です。歌詞を印刷するか、スマホのメモに歌詞を貼り付けて、息を吸う場所に「/」を入れていきます。頭の中で決めているつもりでも、書き出してみると「ここは吸っていなかった」「毎回違う場所で吸っていた」ということに気づきやすくなります。
ブレスは、ひとまとめに「息継ぎ」と呼ばれますが、曲の中では性質の違うものが混ざっています。それぞれ狙いが違うので、分けて考えると設計しやすくなります。
| ブレスの種類 | 使う場面 | 気をつけたいこと |
|---|---|---|
| 余裕のあるブレス | 間奏明け、Aメロの入りなど時間があるところ | 時間があるぶん吸いすぎやすい。ゆっくり吸って肩を上げない |
| 短く入れるブレス | フレーズとフレーズの短い隙間 | 吸う量より速さ優先。口を少し開けておくと間に合いやすい |
| 吸わずにつなぐ | 言葉が続いていて切りたくないところ | 前のブレスで足りる長さかを事前に確認しておく |
| 表現としてのブレス | サビ前など、あえて聴かせたい場所 | 録音では音として残るので、量とタイミングを揃える |
この4種類のうち、初心者の方がつまずきやすいのは2番目の「短く入れるブレス」です。時間が足りないぶん焦って吸おうとして、結果的に肩や首に力が入ってしまうことが多いようです。短い隙間では「たくさん吸う」ことをあきらめて、次のフレーズに必要な分だけ入れると考えたほうが、落ち着いて歌える場面が増えます。
息が続かない・苦しくなるときの切り分け
「息が続かない」と感じたとき、原因を吸う側だと決めつけてしまうと、練習の方向を間違えることがあります。実際には吐く側に理由があることも少なくありません。症状ごとに、まず疑いたいところを整理しました。
| 症状 | 考えられる原因 | まず試すこと |
|---|---|---|
| フレーズの後半だけ苦しい | 歌い出しで息を使いすぎている | 出だしの音量を少し下げ、最後まで残す配分で通す |
| サビの頭で息が足りない | ブレスの位置が遅い、または吸う時間が確保できていない | ブレスを半拍〜一拍早める。前のフレーズの語尾を短めに切る |
| 吸うときに肩が上がる | 急いで吸っている、吸う量を求めすぎている | 「8割で止める」つもりで吸う。鏡で肩の位置を見る |
| ロングトーンが揺れる | 吐く息の勢いが一定になっていない | 小さい音量で長く伸ばす練習から始め、徐々に音量を上げる |
| 歌い出しから力んでしまう | 吸いだめして構えてしまっている | 吸ってから止めずに、すぐ声を出す流れにする |
ここで挙げたのは、あくまで優先して確認したい順番です。当てはまるものが複数あるときは、1回の練習で1つだけ変えるようにすると、何が効いたのかがわかりやすくなります。同時に複数を変えると、良くなっても悪くなっても理由が特定できません。この「変えるのは一度に一つ」という考え方については、質の高い練習をするためには?でも触れています。
録音して息の使い方を確認する
お腹に手を当てるチェックは動きを確認する方法ですが、聴き手にどう届いているかまではわかりません。歌ってみたを投稿する場合、ブレスは音として作品に残ります。録音して聴き返すと、体感と実際の音のズレが見つかりやすくなります。
- いつも歌っている曲を1コーラス、普段どおり録音します
- 歌詞を見ながら再生し、ブレスが入っている場所に印を付けます
- 印の位置が、事前に決めたブレス位置と合っているかを見比べます
- 語尾が息切れで下がっていないか、フレーズの最後だけを繰り返し聴きます
- ブレス音が大きすぎないか、逆に不自然に無音になっていないかを確認します
4番目の「語尾」は見落とされがちなポイントです。息が最後まで持っていないと、語尾の音程が下がったり、音量が急に落ちたりします。本人は歌えているつもりでも、録音では失速して聞こえることがあります。
録音するときは、機材の設定によってブレス音の入り方が大きく変わります。入力が大きすぎるとブレスまで強調され、小さすぎると声の細部が埋もれます。設定の考え方は歌ってみたの録音レベル(ゲイン)設定にまとめています。自宅で声を出しづらい方は、カラオケボックスで歌ってみたを録音する方法も参考になります。
よくある疑問
腹式呼吸ができていないと、歌ってはいけませんか?
そんなことはありません。呼吸は歌の要素のひとつであって、合格ラインを越えないと歌えないというものではないと考えてよいでしょう。実際には、曲を歌いながら少しずつ息の配分に慣れていく方も多くいます。呼吸だけを取り出して練習し続けるより、曲の中で困っている箇所を特定してから対処するほうが、変化を実感しやすい場合があります。
ロングブレスは毎日やったほうがいいですか?
回数や頻度に決まった正解があるわけではありません。歌う前の準備として取り入れる方もいれば、必要を感じたときだけ行う方もいます。大事なのは「何のためにやっているか」がはっきりしていることで、目的があいまいなまま続けても得られるものは限られやすくなります。
息をたくさん吸えば声量が出ますか?
吸う量と、出てくる声の大きさは別の軸として語られることが多い項目です。吸った息をすべて声に変えられるわけではなく、むしろ息を出しすぎると音がぼやけることもあります。声量の悩みは、息の量だけでなく声の響き方や録音の設定など複数の要因が関わるため、切り分けて考えたほうが遠回りになりにくいでしょう。歌い手として何から手をつけるか迷ったときは、歌い手の始め方 完全ロードマップで全体像を確認してみてください。























