ボイトレの情報を調べていると、「ベルティング」「ベルト発声」という言葉に出会うことがあります。地声のまま高い音を力強く出す声のこと、と聞いても、ミックスボイスとどう違うのか、張り上げとは何が違うのか、いまひとつはっきりしない人も多いのではないでしょうか。
この記事では、ベルティングがどんな声を指す言葉なのか、ミックスボイスや張り上げとの違い、歌ってみたで使われる場面、そして練習するときに無理をしないための目安を順番に整理します。出し方の細かいテクニックよりも、「何を目指す声なのか」「どこで止めるべきか」を判断できるようになることを目標にしています。
| 呼び名 | どんな声として説明されるか | 聞こえ方の目安 |
|---|---|---|
| ベルティング | 地声側の出し方を保ったまま、高めの音域を明るく強く響かせる歌い方 | 話し声や呼びかけの延長のような、前に飛ぶ明るい声 |
| ミックスボイス | 地声と裏声の切り替わりを目立たなくし、両方の要素を混ぜて出す声 | 高い音でも軽さがあり、地声と裏声の境目が聞こえにくい |
| 張り上げ | 音の高さに対して力と息の勢いで押し上げている状態 | 苦しそうに聞こえ、音程が上ずる・音量を下げられない |
ベルティングとはどんな声か
ベルティング(belting)は、英語の「belt」から来た言葉で、日本語では「ベルト発声」「ベルトボイス」とも呼ばれます。もともとはミュージカルの歌唱でよく使われる言葉で、話し声に近い地声の響きのまま、高めの音域を明るく力強く歌う声を指すと説明されることが多いです。
ポイントは「大きな声」という意味ではないことです。音量だけなら、どの発声でも大きくできます。ベルティングと呼ばれるのは、音色が地声寄りで明るく、言葉がはっきり前に飛んでくるような声です。遠くの人に「おーい」と呼びかけるときの声を、音程のある歌にしたもの、とたとえられることもあります。
研究ではどう説明されているか
海外では、ミュージカル歌手を対象にした発声の研究が行われています。女性のミュージカル歌手に地声寄りのベルトと、クラシック寄りの「レジット」と呼ばれる歌い方で同じ高さの音を出してもらった研究では、ベルトは地声と同じ側の声帯の振動のしかた(第1の発声機構)で出され、レジットは裏声側の振動のしかたで出されている、と報告されています。あわせて、ベルトのほうが音の強さが大きく、高い周波数の成分が多く含まれていたとされています。
つまり、聞いた印象の「地声っぽくて明るい」は、仕組みの面でもある程度裏づけがある、ということです。ただし、出し方の感覚や練習方法は指導者によって説明が分かれます。この記事でも、体の中で何が起きているかは「そう説明されている」という範囲で扱います。
呼び名がばらばらなので注意
日本語の解説では、同じ「ベルト」でも指している声が少しずつ違うことがあります。地声をそのまま引き上げる声をベルトと呼ぶ人もいれば、地声の明るさを残しつつ響きを足した声をベルトと呼ぶ人もいます。解説を読むときは、言葉よりも「どんな音色を目指しているか」「音量を変えられる状態か」に注目すると混乱しにくくなります。
ミックスボイス・張り上げとの違い
ベルティングがわかりにくいのは、ミックスボイスとも張り上げとも、聞こえ方が一部重なるからです。それぞれの違いを、入口と聞こえ方の両面から見ていきます。
ミックスボイスとの違い
ミックスボイスは、地声と裏声の切り替わる高さ(換声点)のまわりで、両方の要素をなじませて出す声として説明されます。裏声を土台に地声の芯を足していく考え方と、地声側から裏声の要素を混ぜていく考え方があります。
ベルティングは、どちらかといえば地声側の出し方を保ったまま高さを上げていく声です。先ほどの研究でも、ミックスと呼ばれる歌い方は、歌手自身の表現でもレジットとベルトの中間に位置づけられていたとされています。聞こえ方の目安としては、次のように考えるとわかりやすいでしょう。
- ミックスボイス:高い音でも軽さがあり、地声と裏声の境目が聞こえにくい
- ベルティング:高い音でも地声の明るさと強さがはっきり残る
どちらが上ということではなく、曲の場面によって使い分けるものです。ミックスボイスそのものの出し方はミックスボイスの出し方と練習方法、地声側から近づく方法はミックスボイスへの地声アプローチで詳しく扱っています。
張り上げとの違い
ベルティングと張り上げは、どちらも「地声で高い音を強く出している」ように聞こえるため、混同されやすい組み合わせです。違いはコントロールできているかどうかにあると説明されることが多く、次のような点で見分けます。
| 確かめること | ベルティングに近い状態 | 張り上げに近い状態 |
|---|---|---|
| 音量を下げられるか | 同じ高さ・同じ音色のまま少し小さくできる | 小さくしようとすると声が裏返る・出なくなる |
| 音程 | 狙った高さに収まる | 上ずる、または届かずにぶら下がる |
| 母音を変えたとき | 「エ」から「ア」に変えても音色が大きく崩れない | 母音によって急に苦しくなる |
| 伸ばしたとき | 途中で細ったり揺れたりしにくい | 伸ばすほど力が入り、息が続かない |
録音して聞き返したときに苦しそうに聞こえる、毎回同じ所で音程が上ずる、という場合は張り上げに寄っている可能性があります。張り上げの見分け方と切り替え方は張り上げ発声の原因と直し方にまとめています。
歌ってみたでベルティングが使われる場面
ベルティングは、曲の最初から最後まで使い続ける声ではありません。多くの場合、曲の中で「ここだけは強く届けたい」という要所で使われます。
- サビの頂点にある1〜2音、または盛り上がりのロングトーン
- 呼びかけや宣言のように、言葉そのものを強く前に出したいフレーズ
- ミュージカル調の曲や、ロック・ゴスペル寄りの力強い曲
- 落ちサビのあと、最後のサビで一段上げたい場面
反対に、Aメロや語りかけるような部分までベルティングで歌うと、曲全体が一本調子に聞こえやすくなります。強い声は、その前に抑えた部分があるからこそ際立ちます。ジャンルごとの声の設定の考え方はミュージカルの歌い方でも触れています。
録音で気をつけること
ベルティングは、その前後のフレーズに比べて音量が急に大きくなりやすい声です。宅録では、静かな部分に合わせて録音レベルを決めると、ベルティングの所だけ音割れすることがあります。録る前に、曲の中で強く出す所を実際に歌ってレベルを確かめておくと安心です。合わせ方は録音レベル(ゲイン)設定を参考にしてください。強い声のときだけ顔を少しマイクから離す、という方法もよく使われます。
練習の進め方と次へ進む目安
ベルティングの練習で大切なのは、いきなり高い音で試さないことです。話し声の延長から始め、少しずつ高さを上げていく流れが紹介されることが多いです。日数ではなく、「できているか」を目安に次の段階へ進みます。
| 段階 | やること | 次へ進む目安 |
|---|---|---|
| 1 | 話し声の高さで「ヘイ」「ヤー」と、少し離れた人に呼びかけるように短く言う | 喉を締めずに、明るい声が楽に出る |
| 2 | 同じ呼びかけに音程を付け、楽に出せる中音域で短く歌う | 音程が上ずらず、狙った高さに収まる |
| 3 | 「エ」「ア」など開いた母音で、半音ずつ上げていく | 上げても音色が急に変わらない |
| 4 | 出せた高さで、同じ音色のまま音量を少し下げてみる | 小さくしても声が裏返らない |
| 5 | 曲の要所の1フレーズだけに当てはめて録音する | 聞き返して苦しそうに聞こえない |
3で音色が変わったり、4で音量を下げられなかったりしたら、そこが今の上限です。その音にこだわらず、1つ前の段階に戻ります。上限を上げることより、出せる範囲を安定させることを先に置いたほうが、あとで伸ばしやすいとされています。
地声で歌うときの土台になる息の使い方や、力むことと支えることの違いは声量を増やすトレーニング法で扱っています。ベルティングの練習と並行して読んでおくと、どこに力を入れてよいのかを判断しやすくなります。
力みのサインと練習を止める目安
ベルティングは地声側の強い声なので、やり方を間違えると力で押し上げる歌い方になりやすい面があります。次のようなサインが出たら、その日はそれ以上高さを上げずに練習を終えるくらいの気持ちで構いません。
- 首の筋が浮き出る、あごが前に突き出る
- 肩が上がり、息を吸うたびに胸だけがふくらむ
- 高い音のたびに顔をしかめてしまう
- 録音を聞くと、強い所だけ音程が上ずっている
- 練習のあと、話し声が出しにくいと感じる
練習は短い時間に区切り、強い声を出したあとは軽いハミングや話し声の高さでの発声に戻すと、力みに気づきやすくなります。鏡の前やスマホで顔を撮りながら練習するのも、自分では気づきにくい力みを見つけるのに役立ちます。痛みや違和感が続くときは練習を止め、医療機関に相談してください。
ひとりで練習するときの考え方
ベルティングは、指導者によって説明や練習方法が分かれる分野です。動画や記事を見ながら独学で進める場合は、ひとつのやり方を数週間試し、録音で変化を確かめてから次を考えるほうが迷いにくくなります。いくつもの方法を同時に試すと、何が合っていたのかがわからなくなるためです。
まとめ
ベルティングは、地声の明るさと強さを保ったまま高めの音域を響かせる歌い方です。海外のミュージカル歌手の研究でも、地声側の振動のしかたで出される声として報告されています。ミックスボイスとは「軽さが残るか、地声の強さが残るか」、張り上げとは「音量や音程をコントロールできるか」で見分けると整理しやすくなります。
歌ってみたでは、曲の要所だけに使うことで、強い声がより際立ちます。練習は話し声の延長から始め、音量を下げられるか・音程が上ずらないかを確かめながら、少しずつ高さを上げていきましょう。力みのサインが出たら、そこで止めることも練習のうちです。



















