ボイトレ指導をしていて、
質と量という話になることがあります。
質と量のどっちが大切なのか?
という質問です。
この質問をすると、
人によって答えが変わります。
質が何よりも大切だという人もいれば、
量をこなさなければ意味がないという人もいます。
今回は、個人的に思う
歌の上達につながりやすい質と量をお伝えします。
質と量のどちらを優先するべきか?
ある芸術家が質と量のどちらを優先すれば、
良いモノができるか実験をしました。
陶器を作る内容で、
生徒を質と量の2つのグループに分けました。
量のグループは作った陶器の数で評価すると伝え、
質のグループには出来栄えで評価すると伝えました。
制限時間を与えて、
その間で陶器を作らせました。
その結果、量のグループの方が
クオリティーの高い陶器を作ったのです。
まずは量にこだわる
何かを始めるときには
量を意識すると良いでしょう。
実際、イチローなど成功している人は
数をこなしてきた人が多いです。
最初はどんなに頑張っても、
質の高いものを作ることができません。
どんなに考えてみても、
机上の空論でしかないでしょう。
そういう意味でも、
とりあえずやってみることが大切です。
そのうち、質が上がっていく
数をこなしていくと、
様々な問題が起こります。
単純なミスをしてしまったり、
やり方が良くないと気づいたり…。
このような発見を重ねることで、
改善するべきポイントが見つかります。
見つかった改善点を直していくことで
少しずつ質が上がっていきます。
量質転化の法則
哲学(弁証法)の考え方に、
量質転化の法則という法則があります。
量質転化の法則とは
量をこなすことで質が変化するという法則です。
自転車に乗れるようになった流れを考えると、
わかりやすいと思います。
最初はバランスが上手くとれず、
たくさん転んでケガをしたと思います。
補助輪をつけて練習したり、
後ろを持って支えてもらったりします。
そんな練習をこなしていくと、
ある日、自転車に乗れるようになったと思います。
あるタイミングで、
急に乗れるようになったのがポイントです。
つまり、練習を重ねていくことで
運転が出来るようになったわけです。
これが量質転化の法則です。
具体的な練習メニューの組み方は歌の練習メニューの組み方【15分・30分・40分】で解説しています。停滞を感じている方は歌のスランプの抜け出し方もどうぞ。
「量をこなす」を空回りさせないための3つの条件
量が先という考え方は、そのまま受け取ると「とにかく歌い続ければいい」と読めてしまいます。ただ、同じ時間を使っても、伸び方には差が出るとよく言われます。差を分けているのは根性でも才能でもなく、1回ごとに情報が残っているかどうかです。ここでは、量が質に変わっていく過程を止めてしまいがちなポイントを整理します。
条件1:1回ごとに記録が残ること
歌い終わったあとに何も残っていないと、次の1回は前の1回とほぼ同じ内容になります。録音でもメモでもかまわないので、その回の結果が形として残ることが前提になります。スマホのボイスメモで十分ですし、毎回すべてを聴き返す必要もありません。残しておくことと、聴き返すことは別の作業と考えて、まずは残すほうだけを習慣にすると続けやすくなります。
条件2:1回につき、変える要素を1つに絞ること
気になった点をまとめて直そうとすると、良くなったのか悪くなったのか判断できなくなります。息の量、口の開き、テンポの取り方などを同時に変えると、結果の原因が分からなくなるためです。1テイクにつき変更点は1つにしておくと、量をこなすほど分かることが増えていきます。
条件3:同じ曲を何度か通ること
毎回ちがう曲を歌うのは楽しい反面、比較の材料が増えません。基準になる曲を1〜2曲だけ決めておくと、前回との差が見えやすくなります。選曲に迷う場合は歌ってみたの選曲や自分に合うキーの見つけ方を参考に、まず無理なく歌い切れる曲を1曲確保しておくとよいでしょう。
量から質へ切り替わるタイミングの見分け方
ずっと量だけを積み続ければよいわけでもありません。ある段階からは、同じ回数でも「どこを直すか」を決めてから歌ったほうが変化が出やすくなります。切り替えの目安として、次のような状態を手がかりにできます。
| いまの状態 | 重心を置くところ | 具体的にやること |
|---|---|---|
| 通して歌い切れず、途中で崩れる | 量 | 細かい修正はせず、通しの回数を増やす |
| 通せるが、毎回ちがう場所でつまずく | 量 | 録音を残しつつ、まだ分析はしない |
| つまずく場所がいつも同じ | 質 | その1小節だけを取り出して練習する |
| 録音を聴いて自分で直したい点を言える | 質 | 変更点を1つ決めてから録る |
ポイントは、つまずく場所が毎回変わるうちは量、固定されてきたら質という見方です。まだばらついている段階で細かく分析しても、判断材料そのものが安定していないため、結論が変わりやすくなります。
やりがちな失敗と、その立て直し方
量をこなしているつもりでも、次のような形になっていると手応えが出にくくなります。心当たりがあれば、対処のほうだけ試してみてください。
| ありがちな形 | 起きること | 立て直し方 |
|---|---|---|
| 気持ちよく歌えた曲ばかり繰り返す | できることの再確認で終わりやすい | 1日1回だけ、苦手な部分を入れる |
| 1回ごとに反省しすぎて手が止まる | 回数が伸びず、比較材料が増えない | 反省は週1回にまとめる |
| 長時間まとめてやる日と、まったくやらない日がある | 感覚が毎回リセットされやすい | 1回を短くして頻度を上げる |
| 録音を残していない | 変化に気づけない | 本番でなくてもよいので録っておく |
短い時間でも回数を確保する考え方
まとまった時間が取れない日は、1曲まるごとではなくサビだけ、Aメロだけと範囲を狭めて1回とカウントする方法があります。回数の定義を自分で決めてしまえば、忙しい時期でも量が途切れにくくなります。声を出せる環境が限られている場合は、音量を抑える工夫を先に用意しておくと、練習できる時間帯を広げやすくなります。
量には「喉の負担」という上限がある
量を先に、という考え方には一つ注意点があります。声は、使った分だけ体に負担がかかる点です。長時間続けると集中力が落ち、崩れた発声のまま回数だけが増えるという指摘は、ボイトレ教室の解説記事でも広く見られます。量をこなすときは「何分やったか」より「崩れる前に止められたか」を区切りにする考え方があります。
| 止めどきのサイン | その後の選び方 |
|---|---|
| 同じ箇所で失敗が続き、直そうとして力が入る | その曲は切り上げて、翌日に回す |
| 声がかすれる、音程が下がりやすくなる | 声を出す練習をやめ、聴く・読む練習に切り替える |
| 録音を聴いても違いが分からなくなった | その日の比較はやめて、録音だけ残しておく |
声を出さない練習(歌詞の読み込み、音源を聴いてブレスの位置を書き込む、リズムを手で取るなど)も「量」に数えると、喉を休めながら回数を積めます。声を出せない時間帯の練習は歌の練習を日常に溶け込ませる記事でも紹介しています。
「質」を上げる材料は、外から持ってくる
上の条件1で録音を残すことを挙げましたが、録音を聴いても何を直せばよいか分からない、という段階もあります。自分の耳だけで質を判断しにくいときは、判断材料(フィードバック)の出どころを増やすと、自分の歌を客観的に見やすくなります。
| 出どころ | 分かること | 限界 |
|---|---|---|
| 録音(スマホの録音機能など) | 音程・発音・響きの全体像 | 何が原因かまでは分からないことが多い |
| メトロノームに合わせて歌う | 走る・もたつく箇所 | 音程や声色は判断できない |
| カラオケの採点機能 | 音程やリズムのずれの傾向 | 機種や採点モードによって見ている項目が異なる |
| 講師や歌仲間からのアドバイス | 自分では気づきにくい癖 | 伝える人によって言うことが変わる |
どれか一つに頼るより、「録音で気になった箇所を、メトロノームや採点で確かめる」のように組み合わせると、何を直すかを決めやすくなります。1回の練習の組み立て方は10000時間の法則の記事、練習時間の作り方はボイトレを継続するコツで扱っています。
Q&A:質と量でよくある疑問
毎日やらないと意味がないですか?
毎日できるならそれに越したことはありませんが、途切れた時点で振り出しに戻るわけではありません。むしろ、無理な計画を立てて数日で止まるより、頻度を落としてでも続くやり方のほうが総量は増えやすくなります。週の合計で考えると気持ちが楽になります。
量をこなしても変わっている気がしません
短い期間で比べると差は分かりにくいものです。1か月前の録音と今日の録音を並べて聴くと、自分では気づいていなかった変化が見つかることがあります。過去の音源を探せる状態にしておくことが前提になるので、録音データの管理もあわせて整えておくと比較がしやすくなります。
ボイトレの知識を先に入れたほうが早くないですか?
知識そのものは役に立ちますが、実際に声を出していない状態では、どの知識が自分に必要なのか判断できません。困ったことが先にあって、それを解決する形で知識を入れるほうが定着しやすいと言われています。全体像を先に押さえたい場合は歌い手の始め方ロードマップで流れだけ確認し、細部は必要になったときに戻ってくる形がおすすめです。
上達の速さは何で決まるのか
質と量の話をもう一段進めると、同じだけ練習しても伸び方に差が出るのはなぜか、という問いになります。歌がすぐに上手くなる人となかなか上達しない人の違いでは、それぞれの特徴を対にして挙げています。
逆に、時間をかければ到達できるのかという考え方もあります。一流の歌うまになる『10000時間の法則』とは?でそこを扱っています。























