歌枠では、雑談の声と、サビで張り上げた歌声の音量差がとても大きくなります。語りに合わせると歌が大きすぎ、歌に合わせると語りが聞き取りにくい。そんなときに使うのが、OBSの音声フィルタにある「コンプレッサー」です。ただ、初期値のまま入れると、歌の抑揚まで平らになってしまうことがあります。
この記事では、OBSのフィルタ画面でコンプレッサーの数値を決める手順、歌枠で語りと歌の差をならすときの目安、似た名前の「アップワードコンプレッサー」との違い、かけすぎのサインをまとめます。項目名・初期値・設定できる範囲は、OBS Studioの日本語訳ファイルとソースコード(GitHub、2026年10月時点)、およびOBS公式のナレッジベースで確認したものです。数値の目安は出発点であり、声やマイクによって合う値は変わります。
結論早見表:OBSのコンプレッサーの項目と歌枠での出発点
| 項目 | 初期値 | 設定できる範囲 | 歌枠での出発点(目安) |
|---|---|---|---|
| 比率 | 10:1 | 1〜32 | 3:1〜4:1程度まで下げる |
| しきい値 | -18dB | -60〜0dB | 語りでは動かず、張った歌で動き始める位置 |
| アタックタイム | 6ms | 1〜500ms | 初期値前後から、言葉の頭がつぶれないか聞く |
| リリースタイム | 60ms | 1〜1000ms | 100ms前後から、音量のゆれが目立たない長さに |
| 出力ゲイン | 0dB | -32〜32dB | 下がった分を少しだけ戻す |
| サイドチェイン/ダッキングソース | なし | 音声ソースから選ぶ | マイクにかけるときは使わない |
ポイントは、初期値の比率10:1は歌枠には強めだということです。OBS公式のナレッジベースでも、2:1は弱いかけ方、6:1はかなり強いかけ方の例として説明されています。まず比率を下げ、しきい値で「どこから働かせるか」を決める、という順で調整すると迷いにくくなります。
コンプレッサーを入れる場所と並び順
コンプレッサーは、マイクのソースに追加します。ミキサーでマイクの歯車(︙)メニューから「フィルタ」を開き、音声フィルタの「+」から「コンプレッサー」を選びます。
音声フィルタは、上から順に処理されます。歌枠のマイクでは、次の並びを出発点にすると考えやすいです。
- ノイズ抑制・ノイズゲート(雑音を先に取り除く)
- コンプレッサー(声の大小をならす)
- リミッター(最後の保険として、上限を超える音だけ抑える)
ノイズ系のフィルタより前にコンプレッサーを置くと、ならした後の小さな雑音まで一緒に扱うことになり、ゲートの調整が難しくなりがちです。ノイズ系のフィルタの決め方は歌枠・配信のノイズ対策を、リミッターの数値の決め方は配信の音割れの直し方を参照してください。この記事では、その間に入るコンプレッサーの決め方に絞ります。
歌枠で語りと歌の差をならす決め方
調整の前に準備すること
- 入力レベルを先に決める:コンプレッサーは、入ってくる音の大きさを前提に働きます。機材のゲインを後から変えると、しきい値を決め直すことになります
- 聞きながら調整できるようにする:マイクのソースを一時的に「モニタリング有効」にすると、フィルタのかかり方を耳で確かめられます。設定の場所はOBSの音声モニタリングで解説しています。終わったらモニターオフに戻します
- 3種類の声を用意する:普段の雑談の声、普通に歌う声、サビなどで強く張る声。この3つで確かめます
数値を決める手順
- 比率を下げる:初期値の10:1から、3:1〜4:1程度に下げます
- しきい値を決める:雑談の声を出しながら、ミキサーのメーターを見て、普段の声の大きさを確かめます。しきい値はその少し上に置き、強く張ったときだけ音量が抑えられる位置を探します。語りの途中から常に音が抑えられているように感じたら、しきい値を上げます
- アタックタイムを確かめる:短すぎると、子音や言葉の頭がつぶれて聞こえることがあります。初期値の6ms前後から始め、言葉の立ち上がりが不自然なら少し長くします
- リリースタイムを確かめる:短すぎると、音量が細かく上下して聞こえることがあります。100ms前後から始め、フレーズの途中で音量が揺れて聞こえないところに合わせます
- 出力ゲインで少し戻す:コンプレッサーをかけると全体の音量が下がります。下がった分を少しだけ戻しますが、上げすぎると後ろのリミッターが頻繁に働くようになるので注意します
- 録画で聞き返す:3種類の声を録画して聞き返し、張った歌声が飛び出しすぎず、それでいて抑揚が残っているかを確かめます
スレッショルド・レシオ・アタック・リリースといった各つまみの考え方そのものは、DAWでも共通です。それぞれの役割をもう少し詳しく知りたい場合は、ボーカルのコンプ設定で解説しています。
決めた設定は毎回変えない
フィルタの設定は、マイクのソースそのものに保存されます。同じマイクのソースを複数のシーンで使っていれば、どのシーンでも同じコンプレッサーがかかります。曲ごとに数値を変えると、配信のたびに声の聞こえ方が変わってしまうので、一度決めたら基本はそのまま使い、機材のゲインやマイクとの距離を変えたときだけ決め直すようにすると安定します。
語りが小さすぎるときは、コンプだけで解決しようとしない
通常のコンプレッサーは、大きい音を下げる道具です。語りの声が小さすぎて聞こえないという悩みは、大きい音を下げて出力ゲインで全体を持ち上げることでも対応できますが、その分だけ雑音も持ち上がります。語るときだけマイクから離れている場合は、まずマイクとの距離をそろえるほうが自然な音になりやすいです。小さい音を直接持ち上げたい場合は、次に紹介するアップワードコンプレッサーという選択肢もあります。
アップワードコンプレッサーとの違い
OBSの音声フィルタには、「コンプレッサー」とは別に「アップワードコンプレッサー」があります。名前は似ていますが、働く向きが逆です。
| コンプレッサー | アップワードコンプレッサー | |
|---|---|---|
| 働く音 | しきい値より大きい音 | しきい値より小さい音 |
| すること | 下げる | 持ち上げる |
| 比率の初期値と範囲 | 10:1(1〜32) | 0.5(0〜1) |
| しきい値の初期値 | -18dB | -20dB |
| そのほかの項目 | サイドチェイン/ダッキングソース | ニー (Knee)、検出(初期値はRMS) |
ソースコードを見ると、アップワードコンプレッサーの比率は「1から比率を引いた値」が持ち上げる強さになっています。比率1では持ち上げず、0に近づけるほど強く持ち上げる仕組みです。初期値の0.5では、しきい値より10dB小さい音がおよそ5dB持ち上げられる計算になります。また、無音に近いとても小さい音は持ち上げすぎないような処理も入っています。
それでも、小さい音を持ち上げるということは、息づかいや部屋の雑音、伴奏の漏れなども一緒に大きくなりやすいということです。歌枠で使う場合は、ノイズ系のフィルタの後ろに置き、比率を1に近い側(弱め)から試してください。コンプレッサーと両方入れる場合は、片方ずつ効き方を確かめてから組み合わせると、どちらが原因で音が変わったのかが分かりやすくなります。
かけすぎのサインと、サイドチェインの注意
こんな聞こえ方になったら弱める
- 歌の抑揚がなくなり、サビとAメロの差が感じられない
- 息を吸う音や部屋の響きが、前より大きく聞こえる
- フレーズの終わりで音量がふくらむように聞こえる
- 音量が呼吸するように上下して聞こえる
- 声が奥に引っ込んで、伴奏に埋もれたように聞こえる
当てはまるときは、比率を下げるか、しきい値を上げて働く範囲を狭めます。出力ゲインを上げすぎている場合は、それも戻します。かけすぎた音は配信の音声ビットレートを上げても戻らないので、音質に不満があるときは先にフィルタを見直すのが近道です(ビットレートの考え方はOBSの音質設定を参照)。
サイドチェイン(ダッキング)は雑談用
コンプレッサーの「サイドチェイン/ダッキングソース」にマイクを選び、このコンプレッサーをデスクトップ音声などにかけると、話している間だけBGMの音量を下げられます。OBS公式のナレッジベースでは、出発点として比率32:1、しきい値-36dB、アタック100ms、リリース600ms、出力ゲイン0dBが紹介されています。
ただし、歌っている間はずっと声が出ているので、伴奏が下がり続けてしまいます。歌枠で使うなら、雑談パートのBGMだけにかけ、歌うときの伴奏のソースにはかけないようにしてください。
まとめ:比率を下げ、しきい値で働く範囲を決める
- OBSのコンプレッサーの初期値(比率10:1・しきい値-18dB)は歌枠には強め。比率3:1〜4:1程度から始める
- しきい値は、雑談の声では動かず、強く張ったときだけ働く位置に置く
- 並び順はノイズ系→コンプレッサー→リミッターが出発点
- アップワードコンプレッサーは小さい音を持ち上げる別のフィルタ。雑音も持ち上がるので弱めから
- 抑揚がなくなる・息が目立つと感じたら、かけすぎのサイン



















